忌むべき番

藍田ひびき

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 外遊から戻った皇帝夫妻が、息子の状況を知って慌てたのは言うまでもない。
 
「だからあの娘を留めおくようにと言ったではないか」と息子を叱り飛ばし、すぐにフォルアへ使者を送った。
 
 だが、メルヴィの行方は杳として知れなかった。親元はもちろん、フォルア国に入った形跡すら無い。近隣の国へと捜索隊を出したが彼女を見つけることは出来なかった。

 番へ二度と会えないかもしれない。その喪失感にヴァルラムは身悶えしながら苦しんだ。
 ますます情緒不安定となり、突然暴れ出す事さえある。暴力の被害に遭ったメイドや侍従は辞表を出し、次々と宮殿を去っていった。
 
 
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 その夜、ヴァルラムは酷い悪夢から目を覚ました。目の前でメルヴィが殺される夢だ。
 
 その胸が、煮えたぎる怒りに支配されていた。
 許さない。自分から番を奪うものは、誰一人として生かしておけない。

 ヴァルラムの姿が変化していく。
  細くしなやかな手は長い鍵爪を持つ太い指へ。滑らかな肌は鱗に覆われたごつごつとした肌へ。口からは鋭い牙。龍族は感情が高ぶると人間に近い形態から、より龍に近い姿へ変化するのだ。

「ヴァルラム様、どうなさったの?」

 隣で寝ていたマトローナが、寝ぼけ眼で身体を起こした。彼女はヴァルラムの姿を見て「ヒッ」と悲鳴を上げる。その胸に、鉤爪がずぶりと食い込んだ。
 悲鳴を上げる間もなく倒れ込むマトローナ。そこから噴き出す血の奔流に、部屋中が赤く染まる。

 だがヴァルラムは彼女を一瞥だにしない。血を浴びた姿のまま、後宮をうろつき始めた。

「メルヴィ……メルヴィ……どこだ……」

 悲鳴を上げて逃げまどう女たちに、大きな鉤爪が次々と襲いかかった。


 命からがら後宮から脱出してきた者から報告を受け、駆けつけた騎士が見たものは。
 延々と転がる女たちの死体と、虚ろな目でぶつぶつと呟きながらうろつく血塗れの皇太子の姿だった。
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