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本編
10. その頃の王宮 ~王妃視点
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「エグモント!ユリウスはまだ見つからないの!?」
書類の山に埋もれていた宰相はこちらを一瞥すると、ため息をつき、冷淡な声で答えた。
「王妃様、何度も申し上げておりますが……。各都市の衛兵に、ユリウス殿下を見つけ次第、保護するように通達を出しております。殿下の行き先が国内ならばいずれどこかの街に立ち寄るでしょうし、国外ならば国境で検問にひっかかるでしょう。落ち着いてお待ち下さい」
「そんな悠長なことをしていて、もしあの子が怪我でもしていたらどうするの!騎士団に後を追わせて!」
「殿下は攫われたのではなく、自ら王宮をお出になったのです。犯罪行為が絡まない限り、陛下の許しなく騎士団を動かすことはできませぬ。……そもそも、今回の件、王妃様が原因では?」
「何ですって!?」
王子がいなくなったのに騎士団も動かせないなんて、そんな事あっていいはずがない。しかも、私が悪いですって?
私は腹を立てて睨みつけた。だが相手はそれにひるまず、淡々と言い返してくる。
「陛下の許可も得ず一方的に婚約を破棄など、前例が有りませぬ。貴族法に照らし合わせても、恐れながら非は王妃様にあります。騎士団を動かせば、国中にこの話が広まりますぞ」
「広まったから何だって言うの」
「ただでさえ、フェッセル帝国とのゴタゴタで国内は落ち着かない状態です。どうかこれ以上、国民の反感を買う行為は慎んで下され」
「国民は王に仕えるものでしょう?なぜ彼らにおもねる必要があるの!」
「……それは、王妃様のご本意ですかな?」
灰色の目が、厳しい光を宿している。こちらを射抜くような眼差しに、私はたじろいだ。
「陛下が戻られたら、この件は報告しますからね!」
「どうぞ、ご自由に」
捨て台詞を吐いて私は執務室を出た。
臣下のくせに、何て失礼なのかしら!ユリウスを見つけることもできないくせに……。
陛下もどうして、あんな失礼で無能な男を側に置いてるのかしら。陛下が視察から帰ってきたら、頼んでクビにしてもらわなくちゃ。
置き手紙によると、ユリウスはルイーゼを追っていったようだ。優しい子だもの、きっとあの娘を慰めようとしたのわ。
私はイライラしながら自室に戻った。乱暴な音を立てて扉を閉めると、側仕えがおどおどした顔でこちらを見る。
「しばらく休むわ。一人にして頂戴」
側仕えたちが部屋から退出したのを確認し、私は引き出しから手鏡を取り出した。鏡は片手に収まる程度の大きさで、八角形の形をしている。銀の装飾で彩られており古くて黒ずんではいるが、毎日磨かせているのでピカピカだ。
「鏡よ鏡。答えなさい」
「はい、王妃様。この国で一番お美しいのは貴方で……」
「そんなことは分かってるわよ!そうではなくて、ユリウスの行き先を教えなさい!」
「は、はいい……」
私は鏡を掴んでガクガクと揺さぶった。
「ユリウス様は、北西の方向にいらっしゃいます」
「どこの町にいるか、分からないの?」
「そこまでは分かりかねます」
「全く、どいつもこいつも使えないわね!」
とりあえず、北西方向の町々には出入りする人間を入念にチェックさせるよう、指示を出した。このくらいなら、宰相も文句は言うまい。
これで、ユリウスがすぐに見つかれば良いのだけれど……。
そもそも、あのルイーゼが元凶よ。クラッセン家に問い合わせたら、出奔したと言うじゃないの。そのせいで、ユリウスの行方も分からなくなってしまった。何てはた迷惑な娘なのかしら。
書類の山に埋もれていた宰相はこちらを一瞥すると、ため息をつき、冷淡な声で答えた。
「王妃様、何度も申し上げておりますが……。各都市の衛兵に、ユリウス殿下を見つけ次第、保護するように通達を出しております。殿下の行き先が国内ならばいずれどこかの街に立ち寄るでしょうし、国外ならば国境で検問にひっかかるでしょう。落ち着いてお待ち下さい」
「そんな悠長なことをしていて、もしあの子が怪我でもしていたらどうするの!騎士団に後を追わせて!」
「殿下は攫われたのではなく、自ら王宮をお出になったのです。犯罪行為が絡まない限り、陛下の許しなく騎士団を動かすことはできませぬ。……そもそも、今回の件、王妃様が原因では?」
「何ですって!?」
王子がいなくなったのに騎士団も動かせないなんて、そんな事あっていいはずがない。しかも、私が悪いですって?
私は腹を立てて睨みつけた。だが相手はそれにひるまず、淡々と言い返してくる。
「陛下の許可も得ず一方的に婚約を破棄など、前例が有りませぬ。貴族法に照らし合わせても、恐れながら非は王妃様にあります。騎士団を動かせば、国中にこの話が広まりますぞ」
「広まったから何だって言うの」
「ただでさえ、フェッセル帝国とのゴタゴタで国内は落ち着かない状態です。どうかこれ以上、国民の反感を買う行為は慎んで下され」
「国民は王に仕えるものでしょう?なぜ彼らにおもねる必要があるの!」
「……それは、王妃様のご本意ですかな?」
灰色の目が、厳しい光を宿している。こちらを射抜くような眼差しに、私はたじろいだ。
「陛下が戻られたら、この件は報告しますからね!」
「どうぞ、ご自由に」
捨て台詞を吐いて私は執務室を出た。
臣下のくせに、何て失礼なのかしら!ユリウスを見つけることもできないくせに……。
陛下もどうして、あんな失礼で無能な男を側に置いてるのかしら。陛下が視察から帰ってきたら、頼んでクビにしてもらわなくちゃ。
置き手紙によると、ユリウスはルイーゼを追っていったようだ。優しい子だもの、きっとあの娘を慰めようとしたのわ。
私はイライラしながら自室に戻った。乱暴な音を立てて扉を閉めると、側仕えがおどおどした顔でこちらを見る。
「しばらく休むわ。一人にして頂戴」
側仕えたちが部屋から退出したのを確認し、私は引き出しから手鏡を取り出した。鏡は片手に収まる程度の大きさで、八角形の形をしている。銀の装飾で彩られており古くて黒ずんではいるが、毎日磨かせているのでピカピカだ。
「鏡よ鏡。答えなさい」
「はい、王妃様。この国で一番お美しいのは貴方で……」
「そんなことは分かってるわよ!そうではなくて、ユリウスの行き先を教えなさい!」
「は、はいい……」
私は鏡を掴んでガクガクと揺さぶった。
「ユリウス様は、北西の方向にいらっしゃいます」
「どこの町にいるか、分からないの?」
「そこまでは分かりかねます」
「全く、どいつもこいつも使えないわね!」
とりあえず、北西方向の町々には出入りする人間を入念にチェックさせるよう、指示を出した。このくらいなら、宰相も文句は言うまい。
これで、ユリウスがすぐに見つかれば良いのだけれど……。
そもそも、あのルイーゼが元凶よ。クラッセン家に問い合わせたら、出奔したと言うじゃないの。そのせいで、ユリウスの行方も分からなくなってしまった。何てはた迷惑な娘なのかしら。
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