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第5話 王子生活2日目
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次の日の朝、目を覚ますとそこは昨日と変わらない場所だった。
「……」
上体を起こして背伸びをする。
「やっぱ無理かあ…」
ため息が漏れた。召喚についていろいろと訊かされていたはいたものの、一晩経つと元の世界で、元の自分になっているのではと淡い期待も抱いていた。だが、それは現実とはならなかった。
ベッドから下り、部屋にある鏡を見る。希月とは違う顔がこちらを見ている。
「これが、今の俺なんだな」
部屋のバルコニーからは、美しい絵本の世界のような城下町が見え、朝からにぎやかな声が風に乗って聞こえてきた。
「このまま生きるしかないんだ…」
さわやかな風が、彼の頬をそっと撫でた。
「殿下、こちらです」
給仕係がラニをイスへ促す。
王家の食卓は、日差しが優しく差しこむゆとりのある空間にセンスのいい調度品、美しく配膳された食器類と御飯の組み合わせであった。
昨日は味がよくわからなかったが、今日は少しばかり食事を楽しめるような気がした。
「では、今日も、太陽と大地の恵みに感謝を」
こちらでの食事の時の挨拶なのだろう。国王はグラスを持ち上げ、乾杯をする動きをして、「では、朝食をいただこう」と家族に食事を勧めた。
「ところで、ラニ、昨日はよく眠れたかな?」
国王はにこやかな笑顔でラニを見つめた。
「あっ、はい。とてもよく眠れました」
「そうかそうか。ならばよろしい。疲れは取れただろうが、記憶のほうはどうだ?」
「いえ、その…すみません。まだ…」
「まあそうだろうな。うん」
確認をしたかったのだろうか、国王はまた静かに食べ始めた。
「今日はお出かけをしましょう!」
テーブルの反対側に座っていたセレスがラニに声をかけた。
「ラニが好きだった場所に行けば何か記憶が戻るきっかけになるかもだし、気分転換に!」
「はぁ、わかりました」
ラニはスープに入ったイモのようなものを食べながら頷く。
「俺も行こう」
マジかよ…。お兄ちゃんも来るのか。
希月としては、国王夫妻や姉二人には好感が持てたが、どうにも兄のほうが苦手であった。まだ会って一日しか経っていないが、基本無表情で何を考えているのかわからないのだ。
クールな人というのがアウインに対する印象であった。
朝食を終え、出かけるための準備をしようと部屋に戻る。一応お忍びということで、目立たない恰好をしてこいとセレスに言われた。
こちらの世界の服もなかなか着心地が良い。
外の正面の門で、セレスとアウインが待っていた。三人とは少し離れた位置に警護の人たちが控えている。
「どこに行くんですか?」
「秘密♪歩いていける距離だから」
舗装された石畳の道を、二人の後についていく。希月には兄弟がいなかったため、仮初でも、こうして兄と姉と一緒にいるのはどことなく嬉しかった。
「ここ!」
しばらく歩いてセレスは大きな建物の前で止まった。
「この国最大の図書館。ラルヴァオ王立図書館。ラニは、ここが好きでよくここに来ていたの」
「へえ…そうだったんですか」
図書館か。俺も、向こうで行こうとしてたんだよな。まさか別の世界の図書館に来るとは思ってなかったけど。
「中に入りましょう。でも、図書館では、静かにね!」
図書館の中は何階層もあり、天井が吹き抜けになっている。通いなれた地元の図書館とは違うものの、ここもなかなか面白そうだと思った。
「あの、ここからどうすれば…?」
「ラニは何か借りたい本とかない?」
借りたい本。ふと、ここなら召喚魔法について書かれた本もあるのではと思いついた。
「あの、魔法に詳しい本とかありませんか?」
「そこに調べられる場所があるの」
セレスはそう言って、図書館の真ん中あたりを指さした。そこには紙片と羽ペン、巨大な本がそれぞれ1つずつセットになって置かれている。
「やり方は、こうやって…」
セレスは、紙に「魔法」というこちらの言葉を書き、巨大な本の下にある郵便受けのような入口に紙を入れた。すると、本が一人でに動き出し、パラパラとページがめくられていく。
すげえ!なんだこれ!
他の机の前に立っている人も、同じ行動をしている。
途中で本が止まった。
「本を見つけるときはこうするの。もっと調べたいときは、また紙に書いてそれを入れるの。じゃあ、ゆっくり見てみてね。玄関で待ってるから」
セレスはそう言って階段を上がっていった。アウインは入口の近くのソファで待っている。
姉がいなくなった後、見よう見まねで「召喚魔法」と書いた紙を入れ検索した。たくさんの書物の中から、初心者でもわかるというような題名の本を見つけ、その本がある階に登っていく。
今の俺にできることなんてないかもだけど、なにかのヒントになるかな。でも、もし、俺がラニ王子じゃないと知られたら、俺はどうなるんだろう?拷問されて、街中を引きずり回されるんじゃ…。
そう思うとゾッとする。
ラニ王子本人ではないことがバレる前に、なんとかできれば。
とりえあず一冊、本を手にとり、セレスの待っているところへと戻った。
その日の夜。ベッドに寝ころび、今日一日の出来事を振り返った。希月がこちらへ来て2日目が経とうとしている。
正直、真井希月としてはこの世界はとても興味深かった。人間に、エルフに、魔法。こんな世界があったなんて。もし、ラニ王子の身体に召喚という形ではなく、真井希月という一人の人間としてこちらに遊びに来れたなら、きっと、心の底から楽しんでいただろう。
「……」
上体を起こして背伸びをする。
「やっぱ無理かあ…」
ため息が漏れた。召喚についていろいろと訊かされていたはいたものの、一晩経つと元の世界で、元の自分になっているのではと淡い期待も抱いていた。だが、それは現実とはならなかった。
ベッドから下り、部屋にある鏡を見る。希月とは違う顔がこちらを見ている。
「これが、今の俺なんだな」
部屋のバルコニーからは、美しい絵本の世界のような城下町が見え、朝からにぎやかな声が風に乗って聞こえてきた。
「このまま生きるしかないんだ…」
さわやかな風が、彼の頬をそっと撫でた。
「殿下、こちらです」
給仕係がラニをイスへ促す。
王家の食卓は、日差しが優しく差しこむゆとりのある空間にセンスのいい調度品、美しく配膳された食器類と御飯の組み合わせであった。
昨日は味がよくわからなかったが、今日は少しばかり食事を楽しめるような気がした。
「では、今日も、太陽と大地の恵みに感謝を」
こちらでの食事の時の挨拶なのだろう。国王はグラスを持ち上げ、乾杯をする動きをして、「では、朝食をいただこう」と家族に食事を勧めた。
「ところで、ラニ、昨日はよく眠れたかな?」
国王はにこやかな笑顔でラニを見つめた。
「あっ、はい。とてもよく眠れました」
「そうかそうか。ならばよろしい。疲れは取れただろうが、記憶のほうはどうだ?」
「いえ、その…すみません。まだ…」
「まあそうだろうな。うん」
確認をしたかったのだろうか、国王はまた静かに食べ始めた。
「今日はお出かけをしましょう!」
テーブルの反対側に座っていたセレスがラニに声をかけた。
「ラニが好きだった場所に行けば何か記憶が戻るきっかけになるかもだし、気分転換に!」
「はぁ、わかりました」
ラニはスープに入ったイモのようなものを食べながら頷く。
「俺も行こう」
マジかよ…。お兄ちゃんも来るのか。
希月としては、国王夫妻や姉二人には好感が持てたが、どうにも兄のほうが苦手であった。まだ会って一日しか経っていないが、基本無表情で何を考えているのかわからないのだ。
クールな人というのがアウインに対する印象であった。
朝食を終え、出かけるための準備をしようと部屋に戻る。一応お忍びということで、目立たない恰好をしてこいとセレスに言われた。
こちらの世界の服もなかなか着心地が良い。
外の正面の門で、セレスとアウインが待っていた。三人とは少し離れた位置に警護の人たちが控えている。
「どこに行くんですか?」
「秘密♪歩いていける距離だから」
舗装された石畳の道を、二人の後についていく。希月には兄弟がいなかったため、仮初でも、こうして兄と姉と一緒にいるのはどことなく嬉しかった。
「ここ!」
しばらく歩いてセレスは大きな建物の前で止まった。
「この国最大の図書館。ラルヴァオ王立図書館。ラニは、ここが好きでよくここに来ていたの」
「へえ…そうだったんですか」
図書館か。俺も、向こうで行こうとしてたんだよな。まさか別の世界の図書館に来るとは思ってなかったけど。
「中に入りましょう。でも、図書館では、静かにね!」
図書館の中は何階層もあり、天井が吹き抜けになっている。通いなれた地元の図書館とは違うものの、ここもなかなか面白そうだと思った。
「あの、ここからどうすれば…?」
「ラニは何か借りたい本とかない?」
借りたい本。ふと、ここなら召喚魔法について書かれた本もあるのではと思いついた。
「あの、魔法に詳しい本とかありませんか?」
「そこに調べられる場所があるの」
セレスはそう言って、図書館の真ん中あたりを指さした。そこには紙片と羽ペン、巨大な本がそれぞれ1つずつセットになって置かれている。
「やり方は、こうやって…」
セレスは、紙に「魔法」というこちらの言葉を書き、巨大な本の下にある郵便受けのような入口に紙を入れた。すると、本が一人でに動き出し、パラパラとページがめくられていく。
すげえ!なんだこれ!
他の机の前に立っている人も、同じ行動をしている。
途中で本が止まった。
「本を見つけるときはこうするの。もっと調べたいときは、また紙に書いてそれを入れるの。じゃあ、ゆっくり見てみてね。玄関で待ってるから」
セレスはそう言って階段を上がっていった。アウインは入口の近くのソファで待っている。
姉がいなくなった後、見よう見まねで「召喚魔法」と書いた紙を入れ検索した。たくさんの書物の中から、初心者でもわかるというような題名の本を見つけ、その本がある階に登っていく。
今の俺にできることなんてないかもだけど、なにかのヒントになるかな。でも、もし、俺がラニ王子じゃないと知られたら、俺はどうなるんだろう?拷問されて、街中を引きずり回されるんじゃ…。
そう思うとゾッとする。
ラニ王子本人ではないことがバレる前に、なんとかできれば。
とりえあず一冊、本を手にとり、セレスの待っているところへと戻った。
その日の夜。ベッドに寝ころび、今日一日の出来事を振り返った。希月がこちらへ来て2日目が経とうとしている。
正直、真井希月としてはこの世界はとても興味深かった。人間に、エルフに、魔法。こんな世界があったなんて。もし、ラニ王子の身体に召喚という形ではなく、真井希月という一人の人間としてこちらに遊びに来れたなら、きっと、心の底から楽しんでいただろう。
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