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三十一話 憎悪。マチルダサイド
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マチルダサイド。
◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆
「ふぁ……今日はこのくらいにしておきますか」
私はしばらく読みふけていた人体の構造が書かれた本を閉じで、他に詰まれていた本の上に置きます。
そして、目頭を指で押さえました。
「疲れましたわ」
なんで、私がこのような本を読んでいるのか……。
それは、人間の構造が理解できれば私の治癒魔法の精度が更にパーフェクトなものになると、治癒魔法の教本に書かれていたからなのですが。
……人間の体とは不思議な構造をしているんですね。なかなか理解しづらいところが多いですわ。
それでも、私の栄光も近づくと思えば苦ではありませんわね。
「ふぅ……」
私がちょうどソファの背に体をあずけて、一息ついていると……。
トントン……。
突然、私の自室の扉がノックされます。
私は扉の方に視線を向けて、目を細めました。
「はい」
「ほいほい、失礼しますーう」
私の自室の扉の前に黒い煙が集まって……黒のタキシードを身に纏ったディレーク・デ・デンタ・クライムが姿を現しました。
「扉を開けて入ってきたらどう?」
「まぁまぁ……ちゃんとノックはしたんやしいいやん」
「ノックはレディの部屋に入るのです。当り前のことですわよ!」
ディレークの言いように思わず私は前のめりになって反論します。
それでも、ディレークは特に気にすることなく、へらへらと笑いながらスタスタと近づいてきました。
「キヒキヒ、わかっているわいな。ほんまや。ほんま」
「はぁ……それで? こんな夜にわざわざ報告することができたということは何か嫌な報告かしら?」
「鋭い。鋭いわー。アリアの嬢ちゃんのことや……それがな……聖獣さんと仲良ーなってしまったみたいや」
「え、どういうことかしら?」
「キヒキヒ、つまりな。そちらさんの言葉で言うなら【聖約】が結ばれてしまったみたいなんや」
「な! あの小娘が……聖獣と【聖約】を結んだですって!」
「ほんと。ワイが使役した眷属に一カ月ほど監視させてん。間違いないわ……しかし、驚いたわー。ペットを連れてんなーって思っとったら、それが聖獣さんだったんやもん」
「な……連れているっていうのは? 聖獣を? どういうこと? 拘束して連れてきたの?」
「いんや、拘束はされへんかった。詳細は分からんけど……仲ようしてるように見えたから、なんか理由があると違うんかな?」
「そう……それで貴方……その聖獣を殺せる?」
「んー難しいかもしれんなぁ。【聖約】には召喚権も含まれんやろ? それにその聖獣さんの強さは分からんけど。マナの保有量は今のワイに並ぶかそれ以上や……やっこさん、当たりの聖獣さんをひいたで」
「あ、あぁあぁぁぁ……なんてこと……もう……もう私の人生は終わったわ」
「そうかもなー。眷属越しやったけど。びっくりしたわ。聖獣さんから【聖約】を通してマナが流れ込んでいるようで、やっこさんの体内のマナ量が上がっとったしわ」
「クソ……なんなの! なんなのよ! そんな……貴方の力を借りてようやく背中が見えてきたところにまで来たというのに……。あの小娘が聖獣の力を得てしまったら……また……こんなのもういらないわ!」
私は先ほどまで勉強していた人体の構造が書かれた本など積み上げられた本、紙、ペン……ローテーブルに乗っていた物を捨てるように投げ飛ばしました。
クソックソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ……。
憎悪でおかしくなりそうな頭を掻き毟りながら私は立ち上がります。
地団駄を踏みながら、叫び声を絞り出しました。
「……こんな」
「こんな!」
「こんな日陰者人生もうごめんよ!」
「もう私のすべてを犠牲にしていいから……私の栄光を奪ったあの憎いアリア小娘を殺したい! いや、殺す!」
私の喉が張り裂けそうなほどに声を上げて憎悪を吐き出していきます。
すると、あろうことかいつも以上に笑みを深めたディレークが拍手しだしたのです。
パチ……パチパチ。
「キヒキヒ」
「何よ! 何よ! 笑うなぁ!!!!!!!!!」
ディレークの笑みが気に食わない私はディレークにジロリと視線を向けて、眉間の皺を深めて睨みつけ叫びます。
そして、その場にあった物をディレークに向けて投げつけました。
それでもディレークは気に止めることなく、笑みを止めません。
そして、私の投げた物をひらりと躱した終えたところで、人差し指を前に出しました。
「危ないで! ほんと! ほい! ほいっと! まぁまぁ……気を落ち着けてや。何を犠牲にしていいのなら……やっこさんも厄介なメイドさんも、聖獣さんも殺す方法はなくはないかも知れんで?」
「本当に!?」
「あぁ……あるで?」
「でも! なんで……なんで今までなんで言わなかったの?」
「そんなん、決まってるやん。あんさんに犠牲はない方がいいやろ? ワイは善意で伝えんかったんやよ?」
笑みを浮かべているディレークは手を開いた仕草を見せた。
対して私はディレークから視線を逸らしてフッと鼻を鳴らした。
「悪魔の癖に……善意とか嘘くさいわ」
「ほんと、ほんとやって!」
「どうにも信じられないわ。それで……その方法は?」
「それはな……て、いくらパワーアップするからと言ってもや。さすがにやっこさん、厄介なメイドさん、聖獣さんの三人をいっぺんに相手するんは厳しいかもや……二人までなら確定なんやけど」
「何? 貴方、言ったことに対して無責任よ」
私は地面をダンと踏み鳴らします。
対してディレークはそこで表情をゆがませて、ポリポリと頬を掻きました。
「すんまへん。すんまへん。いやーあの厄介なメイドさんがキツイ思うねん。あのメイドさんのけったいなところは危機察知が高すぎくんでかつむっちゃ早いことやん。勝てんと判断したら逃げられてしまうちゅう意味で厳しいねん」
「む、なるほど……」
「いくらパワーアップしても……動きまでは追いつけるかわからへんやん」
「そう……あのメイドを排除……または、助けにいけない場所にあの小娘を……何か……何か……ないかしら」
私はローテーブルの脇に置いてあったバックからある資料をバサバサとめくりながら見ていきます。
その資料にはアリア・ファン・ローベルの名前とともに今までの行動履歴や今後の予定、家族構成などなど……アリアの小娘に関する情報を調べさせた内容が事細かに記載されていました。
そして、その資料を捲っていきある項目が私の目に留まります。
「あ……あった。この時なら問題ない……あの厄介なメイドが近くにいないわ」
「本当か? あの厄介なメイドさんがいないんやったら完璧やで」
「そう……じゃ……あの小娘を殺す方法を教えてちょうだい」
「わかったわ……その方法っちゅうんのは……」
ディレークは声を潜めて、私に向かってアリアを殺す方法を説明し始めようとしたところで……私の懐に拳を突き立ててきました。
「がは……何を」
「キヒキヒ、あとはすべてワイが準備しときますわ。やから安心して寝とってや」
私は意識が飛びそうになりながらディレークのシャツを掴みディレークへと視線を向けると、口元が三日月の形に歪ませて邪悪な笑みを浮かべたディレークが居ました。
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