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三十六話 寝る子は育つ。
しおりを挟むゴーンゴーン。
んん……。
ゴーンゴーン。
俺は鐘の音で目が覚めた。
そして、前傾姿勢で体をグーッと伸ばす。
「ふわぁーん」
……んん?
窓から外を見ると、夕暮れのオレンジ色の光が差し込んできていた。
んん……おかしいな。
昼食を食べた後、俺はアリアの部屋に戻って窓際でしっぽを動かす訓練と魔晶石にマナを込める訓練をやっていたんだが……。
どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。
しかし、何時間ぐらい寝ていたのだろうか?
今さっき鐘の音が聞こえてきたから……。
昼食を食べたのが四の鐘(十二時)の頃だった。
それから寝てしまったのだとして……今、夕暮れ時に鐘の音で目覚めた。
ちなみに鐘の音は二時間に一回鳴り響くんだよね。
……少なくとも十四時や十六時って空じゃないんだよな。
だとすると、十八時ではないのか?
だとすると、六時間昼寝していたということになるのではないか?
うん。昼寝にしたら寝過ぎたなー。
まぁいいか。
そんな日もあるよな。
「ふぁふぁ……」
ガチャ……。
欠伸をしたところで、部屋の扉が開いた。
開いた扉に視線を向けるとアリアが入ってきた。
「ふふ、ただいま帰りました」
「おにゃー」
俺は帰ってきたアリアを出迎えるべく近寄っていく。
すると、アリアは笑顔を深めてしゃがむと、近寄ってきた俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
『ただいま帰りました』
アリアの指にはすでに【ハーネットの指輪】がはめられており、アリアの声が【ハーネットの指輪】を通して頭の中に流れてきた。
『お帰りなさい』
『ふふ、猫の姿でしゃべるのは難しいですか?』
『うむ……そうだな。【変身】によって人間に成ると少しは話しやすいんだがな。猫の姿だとなかなかうまくしゃべれないな』
『練習が必要ですね。後で一緒に練習してみましょうか?』
『うむ……ずっと、【変身】を使った人間の状態でいれればいいんだけどな』
『制限については仕方ないですよ』
【変身】という【クラウンズスキル】が使えることが分かってから、検証繰り返した。
その結果、制限が二つあることが分かったのだ。
まず一つ目は時間である。
ちょうど四時間を過ぎたあたりで【変身】の効果が失われる。
次に二つ目はどれだけダメージを与えられたかである。
この検証痛いのであまり進んではいないのだが、リナリーとの稽古の最中に木刀を三回ほど受けると体が崩れて【変身】の効果が失われてしまうのだ。
あと……これは制限という訳ではないんだが、一度使うとほとんどのマナをすべて使ってしまうのも問題なんだよな。
正直、俺としてはマナを使い切ってしまが人間の姿になれるのなら不満はない。
ただ、よくよく考えてみるとマナを使い切ってしまう拙いと思う。
それはアリアと結んだ【聖約】があるからだ。
アリアが俺と【聖約】を結んだのは俺に豊富なマナをもっているからだ。
それなのにアリアが必要な時に俺にマナが無ければ……俺と【聖約】を結んだ意味がなくなってしまうのだ。
特にアリアの場合は聖女である。
その聖女としての活動で治癒魔法の上級に位置している魔法を使用する時に大量のマナが必要だと聞いた。
つまり、極端な話……俺にマナが無ければ人の命に係わる可能性があるのだ。
俺のマナが無くて人が死ぬ……それは一度死を体験している者としては許せないことである。
まぁ……【変身】を完全に使用禁止にする訳でない。
今後、体の成長とともにマナの保有量も多くなっていくと聞く。だから、マナの保有量が上がるまでの辛抱と言った感じか。
黙って考えていると、アリアが俺のあご下をウリウリと撫でてきて、問いかけてきた。
『どうしたんですか? 眠いのですか?』
『うん、まぁ……そうかな……ハハ』
『リナリーが言っていましたよ。ノヴァがずっと寝ていたって』
『う……まぁアレだよ。アレ。猫は夜行性だから、昼間は寝てるんだ。たぶん』
『そうですか? 夜は私と一緒に寝ていると思っていたのですが?』
『……えっと、アレだよ。寝る子は育つと言うからな。寝なきゃ損だろうに』
『ふふ、そうですね。損ですね。よいしょ』
俺を撫でるのを一旦やめると、アリアは魔法学園の鞄を持って立ち上がる。そして、いつもと同様に勉強机に鞄を置くと、一人掛けのソファに座った。
『ノヴァ、おいで。ここでお話しましょ』
一人掛けのソファに座ったアリアは膝の上をポンポンと叩いて、俺に呼びかける。その呼びかけに応じて、俺はアリアの膝の上に飛び乗って丸るように座った。
『あぁ……そういえば、今日は遅かったな』
『ピオニール競技会で出場する種目の練習をしていました。ノヴァ、ここに』
『あ、そろそろなんだな』
『もう一週間後を切っているんで、練習に熱が入ってしまったのです。ふふ、リナリーとノヴァが来てくれるのですから、予選は絶対に通らないといけないのです』
『ん? 予選に何かあるのか?』
『ピオニール競技会で一般に公開されるのは予選を通った人だけでやるトーナメントだけなんですよ。だから、ノヴァに私の頑張っている姿を見てもらうには予選を通らなければならないんです』
『ハハ、そういうことか。けど、アリアになら余裕じゃないのか?』
『簡単に言ってくれます。みんな真剣で油断できないんですよ。うにゅうにゅ……』
俺が笑うと、アリアは頬を膨らませる。
そして、体を屈ませて俺の背の辺りのもふ毛に顔を埋めて左右に動かした。
『うい……それ重いからやめてくれー』
『駄目です。これはノヴァへの罰……猫マクラの刑なのです。しばらくこのままです』
『えー』
それから、リナリーがやってくるまで、このやり取りが続いたのだった。
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