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三十九話 論文。
しおりを挟む俺、アリア、プラム、リナリーの四人は木で作られたテーブルと椅子がいくつも置いている飲食スペースで休憩することになった。
テーブルの上には屋台で買ったエンパナーダと途中で買ってジュースが並んでいた。
俺はテーブルの上に座らされた。
そして、俺を挟むようにしてアリアとプラムが座っていて、正面にリナリーが座っていた。
俺がアリアとプラムに挟まれて居辛さを感じていると、【ハーネットの指輪】によってプラムの声が俺の頭に流れてきていた。
『ノヴァ、エンパナーダはまだ熱いからゆっくり食べるんだよ?』
『あ、ありがとう』
プラムは千切ったエンパナーダを俺の口元まで運んでくれた。
対して俺は恥ずかしさを感じつつもエンパナーダをパクリと食べた。
むむ……これは食べたことのない味だな。
最初に焼かれた外側のパイ生地にも似たパンが香ばしい。
そして、パンの中に肉とゆで卵、バジルが混ぜられた荒くマッシュしたジャガイモが口の中でほろほろとほどけて美味しかった。
正直、学生が運営している屋台とは思えないほどのおいしさである。
あ、ちなみにジャガイモについてだが、ジャガイモには本来毒があることはよく知られているだろう。
この世界では毒を抜く魔法を繰り返す使って、無理矢理品種改良して食用のジャガイモを作り出したのだと前にリナリーが話していた。
『ふふ、しかし、驚いたなぁ。その指輪で動物と話ができるなんて不思議な感覚だね』
俺がエンパナーダを食べていると、プラムが俺の頭を撫でながら小さく笑った。
『【ハーネットの指輪】と言う魔導具です。本来は声の出せない患者さんを治療する際に使ったりするんですよ』
アリアが【ハーネットの指輪】について簡単に説明を入れる。
すると興味深げな表情でリナリーがはめていた【ハーネットの指輪】に視線を向けた。
『へぇ……欲しいな。いくらするんだろう?』
『さぁ、いくらするかまでは、私は教皇様から特別に借りているですが』
『あの人か……魔導具のコレクターとして有名だよね。んー魔導具はほんと高いから、私でも無理かな。まぁいいや、ノヴァ、私が買ったエンパナーダはどうかな? あーん』
『あ、ありがとう』
プラムは再びエンパナーダを小さくちぎり俺の口元に運んでくれた。
凄い飼い猫感……いや、介護されている感じだ。
プラムが口元に運んでくれたエンパナーダのおかわりもむしゃむしゃと食べる。
食べていたところで、プラムと反対側にいたアリアが木のコップに注がれたブドウジュースが差し出された。
『ふふ、ノヴァ、ちゃんと飲み物を飲まないといけませんよ?』
『あぁ……ありがとう』
うん、アリアは笑っているのにちょっと怖かった。なんだろう? まさか、プラムに対抗心でもわいたのだろうか?
だから、特に喉は乾いていなかったが、ブドウジュースに口を付けて喉を潤した。
『ノヴァ、エンパナーダはもういらないのかい?』
『ノヴァ、ブドウジュースは美味しいですか?』
『……』
『『ノヴァ?』』
プラムとアリア、俺の両サイドの圧がすごい。
俺は思わず黙ってしまう。
そこでリナリーに向けて助けを求めるように視線を送った。
リナリーは絶対に俺の助けを求める視線に気づいていると思うのだが、リナリーから反応はなく我関せずといった様子でエンパナーダを食べていた。
ぐう……リナリーは助けてくれないようだ。俺はリナリーをあきらめる。
『どうしたんだい? ノヴァ? エンパナーダはいらないのかな?』
『ノヴァは今ジュースを飲みたいのです』
『アリア、それは違うよ。ノヴァは私があげたエンパナーダを美味しそうに食べていたから。まだ、食べたいに決まっているよ。それよりブドウジュースはノヴァにとって甘すぎて好まないんじゃないかな?』
『そ、そんなことはないです。ブドウジュースはノヴァの大好物なのです』
もうプラムとアリアの間では口喧嘩が始まり、そして俺の目の前にはエンパナーダとブドウジュースがせめぎ合っていた。
いや、どうしようもできないだろう。
こういう時は……心の中で素数を数えて、されるがままにいるしかない。
2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97,101……。
素数の数が499になった時だった。
『『むうぅぅぅ』』
プラムとアリアの口喧嘩が収まったようだった。
俺はそのタイミングを逃さずに、二人に話しかけた。
『アリア、ブドウジュースありがとう。プラムもエンパナーダありがとう。どちらもおいしかった』
『ふふ、そうでしたか? よかったです』
『そうだろう。そうだろう』
俺がアリアとプラムにお礼を言うと、二人とも表情を緩める。そして、今度は競うように俺のもふ毛を撫ではじめた。
また喧嘩が始まらないように、俺は気になっていたことをプラムに問いかけた。
『プラムはピオニール競技会で何をするんだ?』
『……ノヴァは頭がいいんだね。アリアに聞いたんだろうが、まさかノヴァからピオニール競技会の名前が出てくるとは思ってもみなかった』
『ハハ……』
プラムは驚くと同時に、俺に多少疑念を抱いた様子だった。
ただ、プラムには俺が聖獣であることはもちろん、前世の記憶持ちであることもはなしていないので、ここは笑ってごまかすしかない。
『まぁいいや。あっと、僕がピオニール競技会で何をやるかだったね。僕は研究発表をね。今回は『ペラート草』を養殖したよっていうだけの詰まらない論文発表になってしまうが』
『ペラート草?』
『あぁ、ペラート草は市場でかなり高価で取引されて、主に効能の高い傷を癒すポーションに使われているんだよ』
『その高価なペラート草が養殖できるのはかなり儲かる?』
『ハハ。僕も最初は論文発表なんかせずに実家の領内に持ち帰ってとか考えていたんだけど……そうはうまく行かなかったんだよね』
『へぇー何か問題があったと』
『あ……ノヴァ、僕の研究に興味がわいてきたかい? よかったら、僕の論文発表を聞きにくるかな?』
『んー興味はあるな』
俺がプラムの論文発表に興味を示していると、その話を聞いていたアリアが身を乗り出した。
『ま、待ってください。ノヴァは私の実技部門の競技を見に来てくれたんですよね?』
『あ、アリアの競技の時間とかぶっているのか?』
『うん、そうだね。時間帯が丸かぶりだね。ねぇ、僕の論文発表を聞きに来ちゃいなよ? 僕以外にも発表者は何人もいるし、きっと面白いよ?』
俺の問いかけにプラムがにっこりと笑って答えてくれた。
『うーん』
『ま、私の出場する実技部門の競技はこのピオニール競技会はメインイベントと言われていて、すごい魔法使いの実力を実際に見ることが出来る限られた機会なんですよ』
俺が頭を捻って考えていると、アリアも対抗したようにアピールしてくる。
アリアが頑張っている姿を応援してやりたい。
しかし、論文発表を聞いて……ってあれ?
『やっぱり、アリアの方に行くよ』
『ですよね。ノヴァ……むにゅ』
『ふげ……』
俺がアリアの方に行くと言うと、パッと笑顔になって俺をけっこう強く抱きしめてきた。
『むぅ……残念だな』
『誘ってくれたプラムには悪いんだけど。俺は……人間の言葉をすべて理解している訳ではないから【ハーネットの指輪】がないと話を聞いても理解するが遅れてしまうんだよ』
『なるほどね。今、ちゃんと話せているから勘違いしていたよ』
『ただ、プラムの論文は興味があるな。もし写しがあったらくれると嬉しいんだけど』
『わかったよ。今はないが、今度アリアに渡すよ』
『おぉ、ありがとう』
『ふふ、ノヴァの為だからだよ』
プラムはアリアから奪うようにして、俺を抱きしめた。すると、アリアが不満げな様子で頬を膨らませた。
『むう……今は私がノヴァを抱きしめてもふもふしていたんですが』
『いいじゃないか。アリアは家でも一緒なんでしょ? ここは僕に譲ってくれよ』
アリアとプラムから険悪な空気が流れようとした時だった。
ゴーンゴーンと三の鐘(十時)。
俺にとって救いの鐘が鳴ったところで、プラムは研究部門にてペラート草の養殖に関する論文発表準備、そしてアリアも実技部門に出場する準備に行くことになった。
俺は離れていくアリアとプラムの後ろ姿を見送る。
そこで俺とリナリーが残された訳だ。
『なんで、助けてくれなかったんだ』
『ふふ、あの状況、メイドの私がどうしようもないでしょうに』
『あ、やっぱり俺の視線に気づいていたんだな!?』
『はい? 何のことでしょう? さ、行きましょうか? そろそろ、戦闘部門の競技が始まる時間ですよ』
『ぐぬぬぬ』
リナリーはしれっとした表情で、俺を抱きかかえると歩き出すのだった。
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