20 / 41
3章 ニート、勘違いを知る
ニートは旦那さまの意図を察することもできる。
手紙に記された内容を確認するや否や、旦那さまはなんと手紙をぐしゃっと握りつぶしてしまった。握力が強すぎる。クドラスさまの文字は綺麗だから、手紙はとっておきたかったのだけど、くしゃくしゃになってしまってちょっと残念。
「ルシア。どういうことだ」
「俺にも何だかさっぱり。出て来る時に離婚届にサインはしましたし、執事にも確認してもらいました」
呼ばれてやってきた執事も、旦那さまの質問に俺と同じことを答える。クドラスさまから手紙が来たと知って驚いたようで、中身を確認したのち眉間を揉んで口を開いた。
「そもそもが、クドラス様とルシア様の婚姻は、双方の事業の提携のためのものでした。事業についての話がある、ならわかるのですが、婚姻についてとなると……その」
「なんだ。何か知っているなら言え」
執事が俺の方をちらと見るが、俺としては何にもわからんので見られても困る。ぽけっと見つめ返したらあからさまに残念なものを見る目をされたが、いつものこと過ぎて、とりあえずにこにこしておいた。ガン無視した執事が、言いよどみつつ言葉を続ける。
「クドラス様は、もしかすると、離婚そのものに納得していらっしゃらないのでは、と」
「え?」
サインしたのに? 俺がサインした紙には既にクドラスさまのサインもあったと思うし、どういうことかわからない。しかし旦那さまと執事の間では謎の一体感が出ているようで、これが仕事の出来る人間同士の阿吽の呼吸ってやつかと思う。俺には縁のない能力だ。
日取りはどうするだの、そもそもこちらに来て話をしたいというのは向こうの言い分であって受ける義理はないだの、しかし受けないと万が一本当に不備があった場合に困るだの、小難しい話になっていくので。
俺はソファに逆戻りして、あったけえなと思いながら爆睡した。
―――――
―――
――
結局、クドラスさまは1か月後にこの屋敷へ訪問することになったらしい。実に3か月ぶり? くらいにお会いするから、正直ちょっと楽しみですらある。あの方は商才に長けた御仁だったので、基本的に俺は何を言っているやらわからなかったのだが、聞けば何でも答えてくれる人だった。
馬鹿なことを聞いても嫌な顔一つしないから、人間出来てるなあ、と感心しきりだった記憶がある。ニートだったことを思い出す前から俺は普通にヒキニート無能だったので、当然彼の役に立ったためしはない。事業締結のサインを書くマシーン。そのサインも字が汚いという徹底ぶり。流石俺。無能の王。
旦那さまはまた2週間ほど王城に呼ばれて仕事漬けになったらしく、クドラスさまがやって来る直前の日に戻ってきた。戻ってくるなり、出迎えた俺を捕まえて部屋に連行したので、肩に担がれたままレミリアたちにキャーキャー言われる謎の体験をした。何だったんだあのきゃーきゃーは。どういう意味の悲鳴?
大人しくぶらーんともたれかかっていたら、部屋に着くや否や、ソファに座った彼の膝にひょいと乗せられる。言う前に拉致されたので、一応今言っておくかと口を開く。
「旦那さま」
「何だ」
「おかえりなさい」
「……ルシア」
「はい?」
「お前の国ではどうか知らないが、こちらではルールがあってな」
「はぁ。なんでしょう」
「夫を出迎えるなら」
続く言葉に目を丸くして、確かに日本に居た頃も海外ではそういう習慣あるよなと納得する。執事は何も言わなかったが、彼にも知らないことの一つくらいあるだろう。
わかりましたと頷いて、ちょっとくずれたオールバックの白銀の髪をすいて耳にかけてやりつつ、その頬に口付けたのだが、俺の解釈は違ったらしい。不満げにする旦那さまが見えたので、どこが正解やねんと思いながら、額や瞼、鼻先にも触れたけど、段々旦那さまがプルプルしてきたのでそろそろ正解しないとブチギレそうだ。
うーん。もはや顔面だと一か所しか残っていないので、なるほどと思って。
「旦那さま、もしかしてこっちですか」
指先で旦那さまの唇をなぞれば、びくりと反応するので、なるほどこっちが正解だと分かる。やはり海外勢はやることが違う。もしかして、メイドさんたちがいる場所だろうと構わず出迎えのちゅーをぶちかませということだろうか。あつあつである。俺たちは熱々カップルとは違うが、結婚した仲ではあるので、郷に入っては郷に従え的なアレに違いなし。
意外と指先で触れると唇がかさついていて、息が触れるほど近づくと少しひび割れた形跡もあって、体に不調があるのかなとちょっと心配になる。
「そう言えば、俺からするの初めてですね」
頬に手を添えて唇が触れる直前、あ、と思ったので口に出す。かさついていた唇を軽く舐めたけど、そういえば乾燥してる時って舐めたらダメらしいよね。申し訳ない。
「っ、」
「あ、すみません」
大人しくちゅーだけして終ろうと思ったら、思ったより何倍も濃いのが返って来て、結局そのまま夕飯は抜きになったし、クドラスさまがやってくる午後ギリギリまで起き上がれなかった。
「ルシア。どういうことだ」
「俺にも何だかさっぱり。出て来る時に離婚届にサインはしましたし、執事にも確認してもらいました」
呼ばれてやってきた執事も、旦那さまの質問に俺と同じことを答える。クドラスさまから手紙が来たと知って驚いたようで、中身を確認したのち眉間を揉んで口を開いた。
「そもそもが、クドラス様とルシア様の婚姻は、双方の事業の提携のためのものでした。事業についての話がある、ならわかるのですが、婚姻についてとなると……その」
「なんだ。何か知っているなら言え」
執事が俺の方をちらと見るが、俺としては何にもわからんので見られても困る。ぽけっと見つめ返したらあからさまに残念なものを見る目をされたが、いつものこと過ぎて、とりあえずにこにこしておいた。ガン無視した執事が、言いよどみつつ言葉を続ける。
「クドラス様は、もしかすると、離婚そのものに納得していらっしゃらないのでは、と」
「え?」
サインしたのに? 俺がサインした紙には既にクドラスさまのサインもあったと思うし、どういうことかわからない。しかし旦那さまと執事の間では謎の一体感が出ているようで、これが仕事の出来る人間同士の阿吽の呼吸ってやつかと思う。俺には縁のない能力だ。
日取りはどうするだの、そもそもこちらに来て話をしたいというのは向こうの言い分であって受ける義理はないだの、しかし受けないと万が一本当に不備があった場合に困るだの、小難しい話になっていくので。
俺はソファに逆戻りして、あったけえなと思いながら爆睡した。
―――――
―――
――
結局、クドラスさまは1か月後にこの屋敷へ訪問することになったらしい。実に3か月ぶり? くらいにお会いするから、正直ちょっと楽しみですらある。あの方は商才に長けた御仁だったので、基本的に俺は何を言っているやらわからなかったのだが、聞けば何でも答えてくれる人だった。
馬鹿なことを聞いても嫌な顔一つしないから、人間出来てるなあ、と感心しきりだった記憶がある。ニートだったことを思い出す前から俺は普通にヒキニート無能だったので、当然彼の役に立ったためしはない。事業締結のサインを書くマシーン。そのサインも字が汚いという徹底ぶり。流石俺。無能の王。
旦那さまはまた2週間ほど王城に呼ばれて仕事漬けになったらしく、クドラスさまがやって来る直前の日に戻ってきた。戻ってくるなり、出迎えた俺を捕まえて部屋に連行したので、肩に担がれたままレミリアたちにキャーキャー言われる謎の体験をした。何だったんだあのきゃーきゃーは。どういう意味の悲鳴?
大人しくぶらーんともたれかかっていたら、部屋に着くや否や、ソファに座った彼の膝にひょいと乗せられる。言う前に拉致されたので、一応今言っておくかと口を開く。
「旦那さま」
「何だ」
「おかえりなさい」
「……ルシア」
「はい?」
「お前の国ではどうか知らないが、こちらではルールがあってな」
「はぁ。なんでしょう」
「夫を出迎えるなら」
続く言葉に目を丸くして、確かに日本に居た頃も海外ではそういう習慣あるよなと納得する。執事は何も言わなかったが、彼にも知らないことの一つくらいあるだろう。
わかりましたと頷いて、ちょっとくずれたオールバックの白銀の髪をすいて耳にかけてやりつつ、その頬に口付けたのだが、俺の解釈は違ったらしい。不満げにする旦那さまが見えたので、どこが正解やねんと思いながら、額や瞼、鼻先にも触れたけど、段々旦那さまがプルプルしてきたのでそろそろ正解しないとブチギレそうだ。
うーん。もはや顔面だと一か所しか残っていないので、なるほどと思って。
「旦那さま、もしかしてこっちですか」
指先で旦那さまの唇をなぞれば、びくりと反応するので、なるほどこっちが正解だと分かる。やはり海外勢はやることが違う。もしかして、メイドさんたちがいる場所だろうと構わず出迎えのちゅーをぶちかませということだろうか。あつあつである。俺たちは熱々カップルとは違うが、結婚した仲ではあるので、郷に入っては郷に従え的なアレに違いなし。
意外と指先で触れると唇がかさついていて、息が触れるほど近づくと少しひび割れた形跡もあって、体に不調があるのかなとちょっと心配になる。
「そう言えば、俺からするの初めてですね」
頬に手を添えて唇が触れる直前、あ、と思ったので口に出す。かさついていた唇を軽く舐めたけど、そういえば乾燥してる時って舐めたらダメらしいよね。申し訳ない。
「っ、」
「あ、すみません」
大人しくちゅーだけして終ろうと思ったら、思ったより何倍も濃いのが返って来て、結局そのまま夕飯は抜きになったし、クドラスさまがやってくる午後ギリギリまで起き上がれなかった。
あなたにおすすめの小説
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない
水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。
終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。
自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。
半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。
「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」
孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。
湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。
読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。
一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた
時
BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。
けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。
もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。
ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。
「俺と二人組にならない?」
その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。
執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。
約九万字、全三十話+αの物語です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。