無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

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3章 ニート、勘違いを知る

ニートは旦那さまの意図を察することもできる。

 手紙に記された内容を確認するや否や、旦那さまはなんと手紙をぐしゃっと握りつぶしてしまった。握力が強すぎる。クドラスさまの文字は綺麗だから、手紙はとっておきたかったのだけど、くしゃくしゃになってしまってちょっと残念。

「ルシア。どういうことだ」
「俺にも何だかさっぱり。出て来る時に離婚届にサインはしましたし、執事にも確認してもらいました」

 呼ばれてやってきた執事も、旦那さまの質問に俺と同じことを答える。クドラスさまから手紙が来たと知って驚いたようで、中身を確認したのち眉間を揉んで口を開いた。

「そもそもが、クドラス様とルシア様の婚姻は、双方の事業の提携のためのものでした。事業についての話がある、ならわかるのですが、婚姻についてとなると……その」
「なんだ。何か知っているなら言え」

 執事が俺の方をちらと見るが、俺としては何にもわからんので見られても困る。ぽけっと見つめ返したらあからさまに残念なものを見る目をされたが、いつものこと過ぎて、とりあえずにこにこしておいた。ガン無視した執事が、言いよどみつつ言葉を続ける。


「クドラス様は、もしかすると、離婚そのものに納得していらっしゃらないのでは、と」
「え?」

 サインしたのに? 俺がサインした紙には既にクドラスさまのサインもあったと思うし、どういうことかわからない。しかし旦那さまと執事の間では謎の一体感が出ているようで、これが仕事の出来る人間同士の阿吽の呼吸ってやつかと思う。俺には縁のない能力だ。

 日取りはどうするだの、そもそもこちらに来て話をしたいというのは向こうの言い分であって受ける義理はないだの、しかし受けないと万が一本当に不備があった場合に困るだの、小難しい話になっていくので。

 俺はソファに逆戻りして、あったけえなと思いながら爆睡した。



―――――
―――
――

 結局、クドラスさまは1か月後にこの屋敷へ訪問することになったらしい。実に3か月ぶり? くらいにお会いするから、正直ちょっと楽しみですらある。あの方は商才に長けた御仁だったので、基本的に俺は何を言っているやらわからなかったのだが、聞けば何でも答えてくれる人だった。

 馬鹿なことを聞いても嫌な顔一つしないから、人間出来てるなあ、と感心しきりだった記憶がある。ニートだったことを思い出す前から俺は普通にヒキニート無能だったので、当然彼の役に立ったためしはない。事業締結のサインを書くマシーン。そのサインも字が汚いという徹底ぶり。流石俺。無能の王。


 旦那さまはまた2週間ほど王城に呼ばれて仕事漬けになったらしく、クドラスさまがやって来る直前の日に戻ってきた。戻ってくるなり、出迎えた俺を捕まえて部屋に連行したので、肩に担がれたままレミリアたちにキャーキャー言われる謎の体験をした。何だったんだあのきゃーきゃーは。どういう意味の悲鳴?


 大人しくぶらーんともたれかかっていたら、部屋に着くや否や、ソファに座った彼の膝にひょいと乗せられる。言う前に拉致されたので、一応今言っておくかと口を開く。

「旦那さま」
「何だ」
「おかえりなさい」
「……ルシア」
「はい?」
「お前の国ではどうか知らないが、こちらではルールがあってな」
「はぁ。なんでしょう」
「夫を出迎えるなら」

 続く言葉に目を丸くして、確かに日本に居た頃も海外ではそういう習慣あるよなと納得する。執事は何も言わなかったが、彼にも知らないことの一つくらいあるだろう。

 わかりましたと頷いて、ちょっとくずれたオールバックの白銀の髪をすいて耳にかけてやりつつ、その頬に口付けたのだが、俺の解釈は違ったらしい。不満げにする旦那さまが見えたので、どこが正解やねんと思いながら、額や瞼、鼻先にも触れたけど、段々旦那さまがプルプルしてきたのでそろそろ正解しないとブチギレそうだ。

 うーん。もはや顔面だと一か所しか残っていないので、なるほどと思って。

「旦那さま、もしかしてこっちですか」

 指先で旦那さまの唇をなぞれば、びくりと反応するので、なるほどこっちが正解だと分かる。やはり海外勢はやることが違う。もしかして、メイドさんたちがいる場所だろうと構わず出迎えのちゅーをぶちかませということだろうか。あつあつである。俺たちは熱々カップルとは違うが、結婚した仲ではあるので、郷に入っては郷に従え的なアレに違いなし。

 意外と指先で触れると唇がかさついていて、息が触れるほど近づくと少しひび割れた形跡もあって、体に不調があるのかなとちょっと心配になる。

「そう言えば、俺からするの初めてですね」

 頬に手を添えて唇が触れる直前、あ、と思ったので口に出す。かさついていた唇を軽く舐めたけど、そういえば乾燥してる時って舐めたらダメらしいよね。申し訳ない。

「っ、」
「あ、すみません」

 大人しくちゅーだけして終ろうと思ったら、思ったより何倍も濃いのが返って来て、結局そのまま夕飯は抜きになったし、クドラスさまがやってくる午後ギリギリまで起き上がれなかった。
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