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3章 ニート、勘違いを知る
ニートは旦那さまのご機嫌も取れる。
「ルシア様!! あれほど!! 私の見ていない書類にサインするなと!! 申し上げましたよね!?」
「ごめーん」
「謝罪が軽いっ!!」
部屋に戻るなり、執事が全力でのたうち回りながら何事か喚いていたので、とりあえず謝ってみたら悪化した。びたんびたん、陸に打ち上げられた魚のよう。でもあんな書類サインしたっけ。クドラスさまに文字を綺麗に書くコツを教わったことならあって、その時にサインの練習もした覚えならあるが、書類にサインなんてしていないはずだ。
「でも、クドラスさまが俺に会いに来てくださるって話でしょ? いいことじゃん」
「ルシア様は頭の中にクッキーでもつまっているのでございますか?」
「あ。甘い考えってこと? うまいこと言うね」
「やかましいでございますよルシア様」
珍しく冴えた頭でピンときたことを指摘したら、ブリザードもかくやの冷たい目で見られてしまった。なんだよ、すごいうまい例えじゃんか。むっとして不貞腐れ寝をしていたら、突如扉が開いて旦那さまが入ってくる。
「旦那さま」
「ルシア。クウィード殿だが、しばらくアズヴァンのところに滞在してもらうことになった」
ソファに座る俺の隣に腰かけた旦那さまが、むすっとした顔のままにそんなことを言う。
チェリーワインくんの家? と首を傾げて見せれば、まだ話し合いはすべきだが、旦那さまは家を空けることもあるから、クドラスさまをこの家に置いておくのは不安なのだそう。クドラスさまも快く了承してくれたそうだ。快く、のところにやけに熱がこもっていたのは気のせいかな。
「何が不安なのですか」
「あんな奴隷契約を突き付けて来る奴だぞ。お前に何をするかわかったものではないだろう」
「えぇ? そんな奴隷だなんて大げさな」
というより、俺を奴隷にしたところで何の役にも立たないと思う。クソヒキニート30歳である。事業のことも貴族のことも平民のこともロクにわからない自信がある。そう思ってほけほけ笑っていたら、眉を寄せた旦那さまが俺の胸元に抱き着くようにしてくるから、そんなに不安なことがあるのかなと思って、その頭を両腕で包み込んで撫でてみる。
「大丈夫ですよ。不安のほとんどは当たらないと聞きますから」
「――戦が再び始まれば、今度こそお前の国も終わる。前に言ったな。俺がお前の故郷を消し去ったらどう思うのかと」
「そうなったら、俺の居場所はいよいよここだけになりますね」
もとより戻れるとも戻りたいとも思っていなかったけれど、それが現実のものとなると少し寂しいものはある。クドラス様と暮らした家にも、多分もう戻れはしないだろう。でも、クドラス様は会いに来てくださるそうだし、俺にとってはここは天国のような場所だ。それに。
「なにより、ここなら旦那さまが帰って来てくださいますから、他のどんな場所よりも寝心地がよいです」
気持ちがいいことをしてもらえるのもそうなんだが、ああいうのって体の相性もあるらしいし、そうなるとやっぱり、俺は旦那さまがいいと思う。えっち騎士乳首好きとして俺に教え込んだ責任もとってもらえるし、旦那さまのクッキー好きを知るのは俺とクルクルお髭の家令だけだから、俺が居ないと旦那さまはクッキーを食べる機会が無くなりそうなのも可哀そうポイント。
そう思って、年上として面倒を見てやるかの気持ちで撫でていたら、ぐっと体重をかけられるのであっけなくソファに沈む。今日の昼頃まで起き上がれなかった俺としては、流石に二日連続はダメだと思うので、撫でておけば眠くなってくれないかなぁ、の気持ちで彼の額や瞼に口付けてみると、そのたびにピタリと動きが止まるので多分効いているに違いない。
「……ルシア。お前はあの男と暮らしたいわけじゃあないんだな?」
「ええ、先ほどもそう言いました」
「なら、会えなくてもいいな?」
「えぇ? それは嫌です」
「何故だ」
「何故だも何も。旦那さまだって、ご友人と会えないのは嫌でしょう?」
「アズヴァンはどうでもいい」
「そんなことを言っては可哀そうですよ」
チェリーワインくんはあんなに旦那さまと仲良しアピールをしていたというのに、旦那さまがツンデレのようなことを言うのが面白い。気の置けない友達というやつだろうか。俺にはそういう方は居ないから、しいて言えばクドラス様がそれに近い。
「そもそも、あの腹黒商人は気に喰わない。他にどんな汚い手を使うかわかったものではない」
がじがじ、と不満をあらわに俺の首筋や耳を噛むのが、さっきから地味に痛気持ちがいい。好きにさせていたらだんだん怪しい手つきになってきたので流石にダメですよと言っておく。
「腹黒だなんて。クドラス様は優しい方ですよ?」
「お前にはな」
そうかなぁ。でも旦那さまがそうまで言うということは、旦那さまにとっては何か苦手に思える部分があるのだろう。となると、やっぱり流石にこの家に居てもらうとか、たくさん会いに来てもらうのは良くないかもしれない。この家は旦那さまの家だし、家主が快適に過ごせなくなるのはダメだと思う。
「うーん。わかりました。なら、お会いする時は、どこかのカフェに出かけるようにします」
「私もついて行く。アズヴァンもだ。それ以外は認めない」
「大所帯ですねえ」
大の大人の男4人でカフェ……。なんとも圧迫感のある絵面だ。想像するだに面白くてくすくすと笑っていたら、反応を窺うような軽い口付けで声ごと飲まれたので、おお、えらい、我慢している、なんて思って。
よしよしとほめそやしていたら、結局段々深くなったので、褒めたのはやっぱ取り消そうと思った。
「ごめーん」
「謝罪が軽いっ!!」
部屋に戻るなり、執事が全力でのたうち回りながら何事か喚いていたので、とりあえず謝ってみたら悪化した。びたんびたん、陸に打ち上げられた魚のよう。でもあんな書類サインしたっけ。クドラスさまに文字を綺麗に書くコツを教わったことならあって、その時にサインの練習もした覚えならあるが、書類にサインなんてしていないはずだ。
「でも、クドラスさまが俺に会いに来てくださるって話でしょ? いいことじゃん」
「ルシア様は頭の中にクッキーでもつまっているのでございますか?」
「あ。甘い考えってこと? うまいこと言うね」
「やかましいでございますよルシア様」
珍しく冴えた頭でピンときたことを指摘したら、ブリザードもかくやの冷たい目で見られてしまった。なんだよ、すごいうまい例えじゃんか。むっとして不貞腐れ寝をしていたら、突如扉が開いて旦那さまが入ってくる。
「旦那さま」
「ルシア。クウィード殿だが、しばらくアズヴァンのところに滞在してもらうことになった」
ソファに座る俺の隣に腰かけた旦那さまが、むすっとした顔のままにそんなことを言う。
チェリーワインくんの家? と首を傾げて見せれば、まだ話し合いはすべきだが、旦那さまは家を空けることもあるから、クドラスさまをこの家に置いておくのは不安なのだそう。クドラスさまも快く了承してくれたそうだ。快く、のところにやけに熱がこもっていたのは気のせいかな。
「何が不安なのですか」
「あんな奴隷契約を突き付けて来る奴だぞ。お前に何をするかわかったものではないだろう」
「えぇ? そんな奴隷だなんて大げさな」
というより、俺を奴隷にしたところで何の役にも立たないと思う。クソヒキニート30歳である。事業のことも貴族のことも平民のこともロクにわからない自信がある。そう思ってほけほけ笑っていたら、眉を寄せた旦那さまが俺の胸元に抱き着くようにしてくるから、そんなに不安なことがあるのかなと思って、その頭を両腕で包み込んで撫でてみる。
「大丈夫ですよ。不安のほとんどは当たらないと聞きますから」
「――戦が再び始まれば、今度こそお前の国も終わる。前に言ったな。俺がお前の故郷を消し去ったらどう思うのかと」
「そうなったら、俺の居場所はいよいよここだけになりますね」
もとより戻れるとも戻りたいとも思っていなかったけれど、それが現実のものとなると少し寂しいものはある。クドラス様と暮らした家にも、多分もう戻れはしないだろう。でも、クドラス様は会いに来てくださるそうだし、俺にとってはここは天国のような場所だ。それに。
「なにより、ここなら旦那さまが帰って来てくださいますから、他のどんな場所よりも寝心地がよいです」
気持ちがいいことをしてもらえるのもそうなんだが、ああいうのって体の相性もあるらしいし、そうなるとやっぱり、俺は旦那さまがいいと思う。えっち騎士乳首好きとして俺に教え込んだ責任もとってもらえるし、旦那さまのクッキー好きを知るのは俺とクルクルお髭の家令だけだから、俺が居ないと旦那さまはクッキーを食べる機会が無くなりそうなのも可哀そうポイント。
そう思って、年上として面倒を見てやるかの気持ちで撫でていたら、ぐっと体重をかけられるのであっけなくソファに沈む。今日の昼頃まで起き上がれなかった俺としては、流石に二日連続はダメだと思うので、撫でておけば眠くなってくれないかなぁ、の気持ちで彼の額や瞼に口付けてみると、そのたびにピタリと動きが止まるので多分効いているに違いない。
「……ルシア。お前はあの男と暮らしたいわけじゃあないんだな?」
「ええ、先ほどもそう言いました」
「なら、会えなくてもいいな?」
「えぇ? それは嫌です」
「何故だ」
「何故だも何も。旦那さまだって、ご友人と会えないのは嫌でしょう?」
「アズヴァンはどうでもいい」
「そんなことを言っては可哀そうですよ」
チェリーワインくんはあんなに旦那さまと仲良しアピールをしていたというのに、旦那さまがツンデレのようなことを言うのが面白い。気の置けない友達というやつだろうか。俺にはそういう方は居ないから、しいて言えばクドラス様がそれに近い。
「そもそも、あの腹黒商人は気に喰わない。他にどんな汚い手を使うかわかったものではない」
がじがじ、と不満をあらわに俺の首筋や耳を噛むのが、さっきから地味に痛気持ちがいい。好きにさせていたらだんだん怪しい手つきになってきたので流石にダメですよと言っておく。
「腹黒だなんて。クドラス様は優しい方ですよ?」
「お前にはな」
そうかなぁ。でも旦那さまがそうまで言うということは、旦那さまにとっては何か苦手に思える部分があるのだろう。となると、やっぱり流石にこの家に居てもらうとか、たくさん会いに来てもらうのは良くないかもしれない。この家は旦那さまの家だし、家主が快適に過ごせなくなるのはダメだと思う。
「うーん。わかりました。なら、お会いする時は、どこかのカフェに出かけるようにします」
「私もついて行く。アズヴァンもだ。それ以外は認めない」
「大所帯ですねえ」
大の大人の男4人でカフェ……。なんとも圧迫感のある絵面だ。想像するだに面白くてくすくすと笑っていたら、反応を窺うような軽い口付けで声ごと飲まれたので、おお、えらい、我慢している、なんて思って。
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