すれ違う恋の行方〈大学編〉

秋 夕紀

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第9章 柊絵美里(18歳)=立松千宙(19歳)

§5予期しない出来事

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 絵美里は千宙の部屋から帰って、七海を待ち構えていた。そこへ、七海があわただしく寮に駆け込んで来た。絵美里は意表を突かれ、彼女に声を掛けた。
「どうしたんですか?そんなにあせって。何かあったんですか?」
「あ、絵美里ちゃんか、驚いた!」という彼女を、ロビーのソファーに導いた。
「今、結婚しようと言われて断ってきたの!」
「わ、すごい話ですね!でも、付き合っていたんでしょ!」
「お互いに友だちとして付き合っていて、恋愛感情はなかったのよ。」
 彼女が少し落ち着きを取り戻したようなので、私は本題に入る事にした。
「今日、千里大の学園祭に一緒にいた人ですよね。彼氏じゃないんだ。」
「えっ、気付いてたの?声を掛けてくれれば良かったのに。彼氏とは違うよ!それより、絵美里ちゃんも男の人と一緒にいたよね!どういう人なの?」
「彼は立松千宙さん、バイト先の先輩です。いろいろとあって、助けてもらったんです。それで、今日は彼の部屋でお料理を作って食べてきました。」
 彼女はむっとした顔をして、私をにらんできた。
「どうしたんですか?そんな恐い顔をして。千宙さんは、先輩の元カレですよね!」
「えっ、何で?」と動揺している彼女に、彼が打ち明けた事を伝えた。
「彼はやたらと七海先輩の事を気にしていて、まだ未練があるんじゃないですかね。でも、先輩には本命の彼氏がいるみたいだし、わたしが付き合っても良いですよね。」
 私の意地悪な追い討ちに、彼女は言葉を失っていた。

 七海は黄川田の求婚と絵美里の告白に、二重の打撃を受けていた。それでも千宙の事が気になり、どこに住んでいるのかとか、彼女はいないのかとか絵美里に詰問していた。絵美里が分かった事は、二人はまだ好き合っているという事だった。
 絵美里は千宙の気持ちを、自分に向けさせるための方策を考えていたが、それもつかの間、新たに悩みの種が生じていた。3か月の間、生理の来ない事が不安になり、妊娠検査薬で試した所が陽性だった。思い当たる節はもちろんあり、千宙の事どころではなくなっていた。誰にも相談する相手もなく、千宙を頼っていた。
「わたし、どうしよう!赤ちゃんができたみたい!」
「ええー、それは確かなの?相手はあの彼氏だよね。あいつには話したの?」と言われ、私はかぶりを振って泣き崩れてしまった。彼はやさしく背中をさすりながら、
「それで、絵美里ちゃんはどうしたいの?産みたいの?」と訊ねた。私はそれにも答えられず、ただ泣くばかりだった。らちが明かないと思った彼は、
「よし!あいつの所に行って、話を付けてくる!」と勇んで腰を上げた。
「辞めて、言っても無駄だから!面倒な事になるのは嫌だから。」と言って、産む気はないと自分の意思を伝えた。

 千宙は絵美里の意を汲んで、病院探しとその費用、精神的なサポートを引き受けた。年末だった事も災いして、中々事ははかどらなかった。そんな折、冬休みに帰って来ない娘を心配して、絵美里の母親が上京して来た。母親の感は鋭く、彼女の異変に直ぐに気が付いて問いただしていた。
「相手は誰なの?青江君なの?」と図星を指され、私はうろたえた。母を前にして隠し事はできないと思い、すべてを打ち明けた。母は最初、山梨に連れ帰ろうとしていたが、狭い地元で噂になるのを恐れて東京の病院で中絶する事になった。

 絵美里は山梨の実家に連れ戻され、大学も辞めさせられた。家から通える保育の短大を勧められ、そこを受ける事にした。面倒を掛けてしまった千宙には、電話で話すのもはばかられ、お詫び兼ねて経緯を記した手紙をしたためた。
 千宙は手紙を読んで驚いたが、結果に納得していた。一方の七海は、絵美里が妊娠していた事、大学を中退した事を聞き、それに千宙が加担していない事を祈った。
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