40 / 41
最終章 立松千宙(21歳)=梅枝七海(21歳)
§3二人の思い
しおりを挟む
千宙が七海を家に呼んだのは相談を受けるためだけではなく、3年前に生じたわだかまりを一掃するのが目的だった。二人が結ばれるはずの大切な日に、千宙は大学で知り合った秋庭二奈のストーカー事件に巻き込まれた。その日の七海との約束を反故にして二奈に付き添った結果、心にずれが生じて別れる事になった。そのずれを正そうと、今まであえて避けていたが、腹をくくって話し合う事にした。
「あのさ、あの時の事だけど、七海との約束を破ったのは本当に悪かったと思ってる。七海なら分かってもらえると見くびっていて、二人にとっての大切な時間を踏みにじってしまった事は今でも反省してる。」と話すと、彼女は辛そうな顔を隠し切れずに聞いていた。少しの沈黙の後、彼女が話し始めた。
「思い出したくはないけど、このままじゃいけないよね!わたし、あの日は一大決心をして千宙に会いに行ったの。女の子の覚悟がどんなものか、男の千宙には分かるはずもないけど、あの時は本当に忌々しかった。だって、他の女の子のために尽くす千宙を目の当たりにして、わたしは逃げるしかなかったんだもの。言い訳を聞こうともしなかったわたしも悪いけど、甘く見られていたのが口惜しかったの!」
彼女は途中から涙ぐみ、あの時の気持ちを訴えていた。俺は見せ掛けの反省ではなく、心の底から後悔している事を伝えた。
七海は千宙の思いをくみ取り、胸が熱く高鳴っていた。あの時に戻りたいという思いと、自分自身の稚拙な行動を改めたいという思いに駆られていた。千宙に裏切られて自棄になった七海は、インカレの飲み会で醜態をさらし、黄川田肇に抱きかかえられて寮に戻った。そこを千宙に目撃され、新たな誤解が生じて別れの決定打になった。その後黄川田とはいろいろあったが、取りあえずその時の事を弁明した。
「今度は、わたしの番だね!千宙が誤解してた男の人だけど、本当に何でもないよ!あの時、自棄になっていたのは事実で、どうなってもいいやと思って飲み会に行ったの。それを止めてくれたのが彼で、男友だちとして付き合ってはいたけど、恋愛の対象にはならなかったし、男女の関係にはならなかった。信じてくれる?」
「七海の言う事を、今は信じられるよ!あの時は思考が停止していて、何も信じられなくなっていた。七海の投げやりな性格と、俺のねじけた性格が傷口をどんどん広げていった。どんなに好きでも、心の繋がりは壊れやすいものだと痛感した。」
俺たちは無言のまま、数分間を過ごした。頭の中では、今後の事を考えていた。
七海が千宙の母親にお礼を言って帰ろうとした時には、夜の10時を廻っていた。千宙が送って行くと言うのを断るいわれもなく、マンションの近くまで来ていた。道中で柊絵美里の話題になり、七海の早とちりだったと納得した。
「ねぇ、わたしたち、やり直せないかな?」と七海が口火を切った。
「うん、俺もそれを言おうとしてた!」と俺は相槌を打った。
「ここが今住んでる所。寄って行って欲しいけど、ブレーキが効かなくなりそうだから、今日はここで、さよならしよ!立松先生の御意見は?」
「そうだね、来週は研究授業もあるし、終わったらゆっくり会えるよね!」と言って帰るつもりだったが、七海の気持ちを確かめるためにキスを求めた。
二人はマンションの物陰で抱き合い、3年ぶりに唇を交わし合った。一度消えた火は、あっという間に再燃していた。七海の言ったブレーキは効いたものの、歯がゆさの残る別れであった。
「あのさ、あの時の事だけど、七海との約束を破ったのは本当に悪かったと思ってる。七海なら分かってもらえると見くびっていて、二人にとっての大切な時間を踏みにじってしまった事は今でも反省してる。」と話すと、彼女は辛そうな顔を隠し切れずに聞いていた。少しの沈黙の後、彼女が話し始めた。
「思い出したくはないけど、このままじゃいけないよね!わたし、あの日は一大決心をして千宙に会いに行ったの。女の子の覚悟がどんなものか、男の千宙には分かるはずもないけど、あの時は本当に忌々しかった。だって、他の女の子のために尽くす千宙を目の当たりにして、わたしは逃げるしかなかったんだもの。言い訳を聞こうともしなかったわたしも悪いけど、甘く見られていたのが口惜しかったの!」
彼女は途中から涙ぐみ、あの時の気持ちを訴えていた。俺は見せ掛けの反省ではなく、心の底から後悔している事を伝えた。
七海は千宙の思いをくみ取り、胸が熱く高鳴っていた。あの時に戻りたいという思いと、自分自身の稚拙な行動を改めたいという思いに駆られていた。千宙に裏切られて自棄になった七海は、インカレの飲み会で醜態をさらし、黄川田肇に抱きかかえられて寮に戻った。そこを千宙に目撃され、新たな誤解が生じて別れの決定打になった。その後黄川田とはいろいろあったが、取りあえずその時の事を弁明した。
「今度は、わたしの番だね!千宙が誤解してた男の人だけど、本当に何でもないよ!あの時、自棄になっていたのは事実で、どうなってもいいやと思って飲み会に行ったの。それを止めてくれたのが彼で、男友だちとして付き合ってはいたけど、恋愛の対象にはならなかったし、男女の関係にはならなかった。信じてくれる?」
「七海の言う事を、今は信じられるよ!あの時は思考が停止していて、何も信じられなくなっていた。七海の投げやりな性格と、俺のねじけた性格が傷口をどんどん広げていった。どんなに好きでも、心の繋がりは壊れやすいものだと痛感した。」
俺たちは無言のまま、数分間を過ごした。頭の中では、今後の事を考えていた。
七海が千宙の母親にお礼を言って帰ろうとした時には、夜の10時を廻っていた。千宙が送って行くと言うのを断るいわれもなく、マンションの近くまで来ていた。道中で柊絵美里の話題になり、七海の早とちりだったと納得した。
「ねぇ、わたしたち、やり直せないかな?」と七海が口火を切った。
「うん、俺もそれを言おうとしてた!」と俺は相槌を打った。
「ここが今住んでる所。寄って行って欲しいけど、ブレーキが効かなくなりそうだから、今日はここで、さよならしよ!立松先生の御意見は?」
「そうだね、来週は研究授業もあるし、終わったらゆっくり会えるよね!」と言って帰るつもりだったが、七海の気持ちを確かめるためにキスを求めた。
二人はマンションの物陰で抱き合い、3年ぶりに唇を交わし合った。一度消えた火は、あっという間に再燃していた。七海の言ったブレーキは効いたものの、歯がゆさの残る別れであった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる