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第六章 初めてのためらい
2 はかられた場所
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10月に入って学校が半日で終わったある日、雨がしとしとと降って秋の気配を感じさせていた。制服も夏服から冬服に替わって、私と真斗は、いつもの公園で待ち合わせをした。雨の中、傘を差して待っていると、真斗は学校に自転車を置いて、歩いてやってきた。私を見つけるや否や、私の傘の中に入って来た。私はそのまま抱き締められていた。
「どうしたの、いきなりでびっくりだよ。」と幼な児をあやすように、真斗の胸の中で呟いた。その内に真斗が、
「会いたかったよ、愛海。」と私を胸から起こして、唇を合わせてきた。私もそれに応えて、夢中になってキスをした。しばらくして、私から声を掛けた。
「ねえ、誰かに見られるよ。行こう。」
「今日、俺、誕生日なんだ。知ってた?」
「えー!そうなの?そういえば、いつかなんて聞いてなかったよね。ごめん。」
「いいよ。今日は愛海とこうして会えたしね。」
「ほんとごめんなさい。後でプレゼントを渡すから、許して。」
「いいよ、気にしなくて。それより、どこかで雨宿りしようか。」
「どこへ行くの?」私は、彼のいきなりの提案に驚いていた。
「藤森の家に行こう。誕生日のお祝いをしてくれるらしいから。」
藤森君の家は駅前で、ビジネスホテルを経営している。裏口から入っていくと、藤森君が5階の部屋へ私達を案内した。部屋はダブルルームで意外と広く、ホテルの部屋に入った事のない私はドキドキした。しかもそこに、仲尾梨沙がいてびっくりした。
「ようこそ、真斗、愛海ご両人。適当に腰掛けて。」
「どうしたんだよ、この部屋?」
「今日は平日で、空き部屋が多いから借りた。誕生日おめでとう。」と二人は仲良さそうに、ふざけ合っていた。私はというと居心地が悪く、きょろきょろしながらどう対応したらいいか戸惑っていた。
「愛海先輩、こんにちは。こんな所で会うとは、照れますね。」梨沙は、あまり照れているようでもなく話し掛けてきた。それでも、
「梨沙ちゃん、藤森君のここ、よく来るの?」と疑問をぶつけてみた。
「たまにですよ、前来たのはいつだったかな。お互いに忙しくて。」この子は何を言っているのだろう。1年生だというのに、藤森君とどういう関係なのだろう。それ以上は聞く気になれず、会話が途絶えた。
真斗の誕生日をケーキとコーラで祝い、学校での友だち関係や恋愛話をしていた。藤森君が、どこまで私と真斗の事を知っているかは分からないが、随分際どい質問を投げ掛けてきた。
「真斗と愛海ちゃんは、まだなの?」真斗は、にやけているだけで応えようとしない。何がまだなのかは、話の流れから分かった。
「何のこと?藤森君こそ、梨沙ちゃんとはどうなの?」私は聞く気もなかったのに、話を紛らわせようと思い聞いた。
「先輩、鈍いですね。二人でこうしている所を見れば分かるでしょ。」と梨沙が、隣に座っている藤森君の腕に腕を絡ませた。私は目を反らして、真斗の方を見た。真斗は二人の関係をよく知っているように見える。そして、藤森君にも私達のことを、ある程度話しているのだと直感した。
しばらくして、藤森君と梨沙が「ちょっと」と言って退室し、私と真斗が部屋に取り残された。真斗はベッドに、私はスツールに離れて座っていたが、
「ねえ、こっちにおいでよ。隣に座って。」と真斗に促された。
「二人とも帰って来ないね。どこに行ったんだろう。」と言いながら、真斗の隣に座った。真斗は即座に私を引き寄せて唇を重ね、ベッドにそのまま倒れ込んだ。唇が離れた時、我に返った私は起き上がろうとしたが、真斗が上に覆い被さってきて、動く事ができなかった。
「いや!離して!」と自分を取り戻していた私は、真斗を拒んでいた。それでも真斗は離れようとせず、左手を私の胸に置いてきた。
「だめ?誕生日プレゼントに、愛海がほしい。」大胆な事を言う真斗に、
「まだ、気持ちが整理できないでいるから、今日はここまでにしよ。真斗のこと好きだから、嫌いにさせないで。だから、もう少し待って。」と真斗を説得した。真斗は渋々と、私の上から身体を離した。
「分かった。愛海のこと好きだし、大切にしたいから待つことにするよ。」
「ありがとう、そう言ってくれてうれしい。」私はほっとしていた。
30分くらいして、藤森君と梨沙が帰って来た。梨沙が何食わぬ顔をして、
「愛海先輩、顔が赤いですよ。どうしたんですか?」
「おい真斗、ベッドが乱れているぞ。」からかうような二人に、私は、
「私、帰るね。真斗はもう少し遊んでいれば…」と我慢できずに立ち上がった。
「じゃあ俺も。そこまで送って行くよ。」二人でホテルの玄関を出ると、雨は上がっていた。真斗とはあまり会話もなく、駅前で別れて自宅に戻った。
「どうしたの、いきなりでびっくりだよ。」と幼な児をあやすように、真斗の胸の中で呟いた。その内に真斗が、
「会いたかったよ、愛海。」と私を胸から起こして、唇を合わせてきた。私もそれに応えて、夢中になってキスをした。しばらくして、私から声を掛けた。
「ねえ、誰かに見られるよ。行こう。」
「今日、俺、誕生日なんだ。知ってた?」
「えー!そうなの?そういえば、いつかなんて聞いてなかったよね。ごめん。」
「いいよ。今日は愛海とこうして会えたしね。」
「ほんとごめんなさい。後でプレゼントを渡すから、許して。」
「いいよ、気にしなくて。それより、どこかで雨宿りしようか。」
「どこへ行くの?」私は、彼のいきなりの提案に驚いていた。
「藤森の家に行こう。誕生日のお祝いをしてくれるらしいから。」
藤森君の家は駅前で、ビジネスホテルを経営している。裏口から入っていくと、藤森君が5階の部屋へ私達を案内した。部屋はダブルルームで意外と広く、ホテルの部屋に入った事のない私はドキドキした。しかもそこに、仲尾梨沙がいてびっくりした。
「ようこそ、真斗、愛海ご両人。適当に腰掛けて。」
「どうしたんだよ、この部屋?」
「今日は平日で、空き部屋が多いから借りた。誕生日おめでとう。」と二人は仲良さそうに、ふざけ合っていた。私はというと居心地が悪く、きょろきょろしながらどう対応したらいいか戸惑っていた。
「愛海先輩、こんにちは。こんな所で会うとは、照れますね。」梨沙は、あまり照れているようでもなく話し掛けてきた。それでも、
「梨沙ちゃん、藤森君のここ、よく来るの?」と疑問をぶつけてみた。
「たまにですよ、前来たのはいつだったかな。お互いに忙しくて。」この子は何を言っているのだろう。1年生だというのに、藤森君とどういう関係なのだろう。それ以上は聞く気になれず、会話が途絶えた。
真斗の誕生日をケーキとコーラで祝い、学校での友だち関係や恋愛話をしていた。藤森君が、どこまで私と真斗の事を知っているかは分からないが、随分際どい質問を投げ掛けてきた。
「真斗と愛海ちゃんは、まだなの?」真斗は、にやけているだけで応えようとしない。何がまだなのかは、話の流れから分かった。
「何のこと?藤森君こそ、梨沙ちゃんとはどうなの?」私は聞く気もなかったのに、話を紛らわせようと思い聞いた。
「先輩、鈍いですね。二人でこうしている所を見れば分かるでしょ。」と梨沙が、隣に座っている藤森君の腕に腕を絡ませた。私は目を反らして、真斗の方を見た。真斗は二人の関係をよく知っているように見える。そして、藤森君にも私達のことを、ある程度話しているのだと直感した。
しばらくして、藤森君と梨沙が「ちょっと」と言って退室し、私と真斗が部屋に取り残された。真斗はベッドに、私はスツールに離れて座っていたが、
「ねえ、こっちにおいでよ。隣に座って。」と真斗に促された。
「二人とも帰って来ないね。どこに行ったんだろう。」と言いながら、真斗の隣に座った。真斗は即座に私を引き寄せて唇を重ね、ベッドにそのまま倒れ込んだ。唇が離れた時、我に返った私は起き上がろうとしたが、真斗が上に覆い被さってきて、動く事ができなかった。
「いや!離して!」と自分を取り戻していた私は、真斗を拒んでいた。それでも真斗は離れようとせず、左手を私の胸に置いてきた。
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「まだ、気持ちが整理できないでいるから、今日はここまでにしよ。真斗のこと好きだから、嫌いにさせないで。だから、もう少し待って。」と真斗を説得した。真斗は渋々と、私の上から身体を離した。
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「ありがとう、そう言ってくれてうれしい。」私はほっとしていた。
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