40 / 45
第十六章 初めての道
2 新たな希望
しおりを挟む
卒業式の日は、よく晴れて暖かい日が射していた。思い出の詰まった高校生活も今日で終わる。これからの門出の嬉しさには、先生や友たちとの別れの寂しさが付きまとう。真斗との恋愛は後味の悪い終わり方をしたが、私の心の中には青春ドラマとして刻み込まれている。
真斗と茜は家から通えるという条件で、同じ大学に合格し入学を決めた。茜の話によると、真斗は心を入れ替えて勉強に励んだという。男子高校生にありがちな道の外れ方をした真斗であるが、元に戻れたのは茜の御蔭≪おかげ≫である。私は自分の事で精いっぱいで、真斗を引き戻す事はできなかった。
卒業式が終わり、クラスの打ち上げが計画されていた。カラオケのパーティールームを借りて、男女合わせて20名ぐらいが参加した。着替えて来る女子が半分、制服のままの子が半分、私は制服を着るのも最後だと思いそのまま出席した。茜は家族がお祝いをしてくれるという理由で欠席した。卒業式が終わって、「また会おうね」と、私達は別れを惜しんだ。
打ち上げでは、教室の中ではあまり交流のなかった人達が、話で盛り上がっていた。早くも同窓会といった雰囲気で、その場でLINEを交換している人達もいた。私も会話に加わっていたが、その中の一人の男子が、
「うちのクラスの中で、桐野が一番変わったな。」と皆に同意を求めた。
「俺もそう思うよ。大人しくて、男子とは一切関わらなかったのに。」
私は返答に困った。変わった原因は、真斗との恋愛にあるからだ。皆もそれを知って言っているはずだ。
「そんな事ないよ。私は私で、中身は何も変わってないよ。」と誤魔化した。
しばらくして仲の良い白田美樹と河村七瀬が近付いて来て、
「向こうで、栗山君が呼んでいるよ。話があるらしい。」と言ってきた。栗山佑真は我がクラスの秀才と謳われ、一流大学に合格している。会話した事もない、そんな栗山君が何で私を呼んだのか。不思議に思いながら、席を移動した。
「桐野さん、東京の大学に行くんでしょ。僕も東京だから、落ち着いたら向こうで会ってくれない?」随分遠回しな言い方だが、私は誠実さを覚えた。
「それって、同じクラスだったから会う?友達として会う?」私の頭は混乱してきて、自分でも何を言っているのかが不明だった。
「桐野さんはもう工藤とは付き合っていないんだろ。だったら、僕と付き合ってほしい。」栗山君の突然の告白に困ってしまった。
「栗山君が言う通り、工藤君とは半年前に別れたけど、学校中の噂になっていて、その噂の中身はどうでも、そんな私は嫌でしょ。」
「そんなのは全然気にしてない。実は前から桐野さんが気になっていて、2年生になったら交際を申し込もうと思っていた。そしたら、工藤に先を越されていた。諦めようと気持ちを断ち切って、逆に勉強に集中できた。でも、また桐野さんへの思いが蘇った事に気が付いた。それで…。」
もしも真斗ではなく、栗山君と付き合っていたらどうだったのだろう、という思いが私の頭をかすめた。栗山君の事はよく知らないが、真斗とは違って、誠実であり堅実さを感じる。栗山君との間に、恋愛関係ができたのだろうか。
「ありがとう、栗山君。今は返事できないけど、また連絡するよ。」と言って、アドレスを交換した。
家に帰ったのは8時を過ぎていたが、両親、妹が祝福してくれた。妹はこれから受験で、私と同じ南陽学園高校を目指している。それなりに勉強はしているが、特定の男子がいるらしい。両親にはまだまだお世話になるが、区切りとして感謝を伝えた。同時に、親には言えない秘密がある事を、心の中で謝った。
人間関係に臆病で、消極的な私が変われたのは、真斗との恋愛にあった。初めてのデート、手を繋いだ時、そして初キスを経験した。そこで人を好きになる事、異性を恋する事を知った。キスの段階を踏んで行く中で感じたもどかしさは、異性を愛する事の準備段階に過ぎない。初体験の時の怖さは、愛する人の手でやわらぎ、期待と喜びに変わった。そのときめきは、一生忘れないだろう。初めては二度とできない体験であり、今までの初めてに悔いはない。
東京での新生活に期待が膨らむが、栗山君の事は保留にしておく。これから私に起こるであろう、初めての体験に胸が弾む。
真斗と茜は家から通えるという条件で、同じ大学に合格し入学を決めた。茜の話によると、真斗は心を入れ替えて勉強に励んだという。男子高校生にありがちな道の外れ方をした真斗であるが、元に戻れたのは茜の御蔭≪おかげ≫である。私は自分の事で精いっぱいで、真斗を引き戻す事はできなかった。
卒業式が終わり、クラスの打ち上げが計画されていた。カラオケのパーティールームを借りて、男女合わせて20名ぐらいが参加した。着替えて来る女子が半分、制服のままの子が半分、私は制服を着るのも最後だと思いそのまま出席した。茜は家族がお祝いをしてくれるという理由で欠席した。卒業式が終わって、「また会おうね」と、私達は別れを惜しんだ。
打ち上げでは、教室の中ではあまり交流のなかった人達が、話で盛り上がっていた。早くも同窓会といった雰囲気で、その場でLINEを交換している人達もいた。私も会話に加わっていたが、その中の一人の男子が、
「うちのクラスの中で、桐野が一番変わったな。」と皆に同意を求めた。
「俺もそう思うよ。大人しくて、男子とは一切関わらなかったのに。」
私は返答に困った。変わった原因は、真斗との恋愛にあるからだ。皆もそれを知って言っているはずだ。
「そんな事ないよ。私は私で、中身は何も変わってないよ。」と誤魔化した。
しばらくして仲の良い白田美樹と河村七瀬が近付いて来て、
「向こうで、栗山君が呼んでいるよ。話があるらしい。」と言ってきた。栗山佑真は我がクラスの秀才と謳われ、一流大学に合格している。会話した事もない、そんな栗山君が何で私を呼んだのか。不思議に思いながら、席を移動した。
「桐野さん、東京の大学に行くんでしょ。僕も東京だから、落ち着いたら向こうで会ってくれない?」随分遠回しな言い方だが、私は誠実さを覚えた。
「それって、同じクラスだったから会う?友達として会う?」私の頭は混乱してきて、自分でも何を言っているのかが不明だった。
「桐野さんはもう工藤とは付き合っていないんだろ。だったら、僕と付き合ってほしい。」栗山君の突然の告白に困ってしまった。
「栗山君が言う通り、工藤君とは半年前に別れたけど、学校中の噂になっていて、その噂の中身はどうでも、そんな私は嫌でしょ。」
「そんなのは全然気にしてない。実は前から桐野さんが気になっていて、2年生になったら交際を申し込もうと思っていた。そしたら、工藤に先を越されていた。諦めようと気持ちを断ち切って、逆に勉強に集中できた。でも、また桐野さんへの思いが蘇った事に気が付いた。それで…。」
もしも真斗ではなく、栗山君と付き合っていたらどうだったのだろう、という思いが私の頭をかすめた。栗山君の事はよく知らないが、真斗とは違って、誠実であり堅実さを感じる。栗山君との間に、恋愛関係ができたのだろうか。
「ありがとう、栗山君。今は返事できないけど、また連絡するよ。」と言って、アドレスを交換した。
家に帰ったのは8時を過ぎていたが、両親、妹が祝福してくれた。妹はこれから受験で、私と同じ南陽学園高校を目指している。それなりに勉強はしているが、特定の男子がいるらしい。両親にはまだまだお世話になるが、区切りとして感謝を伝えた。同時に、親には言えない秘密がある事を、心の中で謝った。
人間関係に臆病で、消極的な私が変われたのは、真斗との恋愛にあった。初めてのデート、手を繋いだ時、そして初キスを経験した。そこで人を好きになる事、異性を恋する事を知った。キスの段階を踏んで行く中で感じたもどかしさは、異性を愛する事の準備段階に過ぎない。初体験の時の怖さは、愛する人の手でやわらぎ、期待と喜びに変わった。そのときめきは、一生忘れないだろう。初めては二度とできない体験であり、今までの初めてに悔いはない。
東京での新生活に期待が膨らむが、栗山君の事は保留にしておく。これから私に起こるであろう、初めての体験に胸が弾む。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる