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第2章:異世界の人々との出会い
第63話:侵攻の結末2
~バイズ辺境伯視点~
クライスの大森林から初めて兵士が戻って以降、10日間で合計17名の兵士が戻ってきた。
・・・・・・いや、戻ってきたのはたったの17名だった。
それぞれ所属していた部隊や元々仕える相手は異なるが、その誰もがボロボロになっており、話す内容は概ね同じであった。
つまり、魔除けの魔道具の効果が予想を遥かに下回っていたこと、魔獣の襲撃を受け部隊が散り散りになり、なんとか森を出ることができたこと、そして道中で数多の戦闘痕や、死体の一部と思われる肉片、血溜まり、武具類の残骸を目撃していたことである。
どう言葉を選んでも、此度の遠征は失敗である。
軍事的な用語法としての全滅や壊滅では足りず、生き残りが数えるほどしかいない状態である。
そして、第二王子ロップス殿下、軍務卿ラッドヴィン侯爵、その他数人の伯爵と子爵本人の行方が分かっていない。
最初の兵が戻った時点で、遠征が予定通り進んではいない旨の知らせを、早馬にて王都に送ってはいるが、そろそろ覚悟を決めて、これらの情報を王都に送る必要がある。
遠征の対象が森であり報復される心配が無いこと、我が辺境伯領軍はほぼ無傷であり援軍の必要が無いことが不幸中の幸いである。
そう思い、早馬を出す準備をしていたとき、陣地に早馬が一騎到着した。
なんと、宰相であるランダル公爵が陣地に到着する旨の知らせであった。
急ぎ、受け入れの準備を整えながら、バイズ辺境伯領の騎士団長である、オリアスと考える。
「オリアス。宰相閣下が陣地を目指されたのは、おそらくこちらの早馬が到着して直ぐであろう。知らせによれば、閣下は自身の護衛のみを連れておるようだし、援軍ではあるまい。となると一体どのような目的であろうか・・・」
「撤退の命令を出しに来た、と考えたいところですが、・・・・・・宰相閣下が、国王陛下の命で来られたのであるとすれば、ロップス殿下の救出を指揮なさるおつもりではないかと・・・。ロップス殿下が森へ入られ、帰ってきていないことは事実であり、森の中にロップス殿下がいらっしゃることは間違いないですから。生死は分かりませぬが・・・」
「・・・・・・で、あるよな。となると、救出のために送り込まれるのは、我が辺境伯領軍か。無謀としか言えぬな・・・・・・・・・・・・」
「はい。魔除けの魔道具が効果を発揮しない以上、森へ入る危険度は従前と変わりませぬ。その状態で、生死不明のロップス殿下を探すなど、正直に言えば、兵の無駄遣いにも程があります。辺境伯領軍はラシアール王国を魔獣どもから守る砦でありますから、戦略的にもあり得ない選択かと。仮に行方不明なのが国王陛下であれば、話は変わりましょうが・・・」
「・・・・・・そうであるな。なんとか閣下に話が通じればよいのだが・・・」
そう言いながらも、無理であろうな、と心の中で呟いてしまう。
ランダル公爵にとって、第一王子が王位を継ぐよりも、第二王子であるロップス殿下が王位を継ぐ方が、都合がいいのだ。
第一王子は、国王陛下に似て聡明であり、既に多くの国政に携わっている。
そのため宰相の地位に就いていても、口出しできる内容は限られるし、実質的な権力はそれほど大きくない。
だが、ロップス殿下は聡明とはほど遠く、ロップス殿下が王位に就けば、宰相の地位にある者や、次期国王となる者の祖父、つまりロップス殿下の妻の家や父の力は増す。
此度の遠征の失敗で、レンロー侯爵とその一派は、本人の生死に関わらず大きく影響力を落とす。いくつかは取り潰されるであろう。
となると、ロップス殿下に嫁いでいたレンロー侯爵の娘の地位も落ちる。
ロップス殿下には妻は1人しかいないので、新たな妻を、と考えることになるであろう。
そこに、ロップス殿下を助けた功績を掲げて、ランダル公爵の娘 —確かロップス殿下より4つほど年下の未婚の娘がいたはずである— が嫁ぐわけだ。
結果、ランダル公爵はバカ王の宰相の地位と、次期国王の祖父としての地位を共に手に入れることになるわけである。
もちろん、これはロップス殿下が生きていたうえで、第一王子に勝ち王位を継承すれば、の話である。
だが、ロップス殿下が死ねば、計画の進めようも無くなる。
ランダル公爵のことであるから、第一王子を落とす策は考えてあるのであろうし、最悪でもロップス殿下を王弟として、公爵家を興させたうえで、ランダル公爵家と協力して第一王子に対抗することも考えられる。
いずれにせよ、ランダル公爵にとってロップス殿下は生きている方が、都合がいいわけだ。
そして、国王陛下は、当然、父として息子の無事を願うであろうし、ロップス殿下を溺愛している。
つまり、ランダル公爵が国王陛下に、全力を尽くしてのロップス殿下の救出を提案すれば、そのまま命ぜられる可能性が高いのだ。
・・・そうなれば、私やオリアスら年長者を中心に救出軍を編成するか。
息子はまだ若いが、領の運営を任せても平気であろうし、オリアスの息子も騎士団の次期団長候補として十分にやってくれている。
私たちが死んでも、ある程度の兵が残っていればなんとかなろう。
「オリアスよ。話が通じぬときは、私やお前を中心に、騎士団の年長者からなる救出軍を編成せよ。若い騎士団員や、一般の兵士達はなるべく森へ突入せぬようにな。そこが、我らの引けぬラインじゃ・・・」
オリアスは私の言葉の意図を察したのか、一度、沈痛な面持ちになってから、
「承知致しました」
と、短く答えた。
翌日、ランダル公爵が到着した。
その第一声は、
「何をしておる! 早く森へ入り、ロップス殿下をお救いせよ!」
で、あった。
勘弁してくれよと思いながらも、オリアスと2人で、森の中を探索するのに大軍は非効率だとか、ベテランの騎士でなければ役に立たないとか、よく分からない説得を行った。
ランダル公爵は、軍事には明るくなく、剣すら握ったことが無いような、根っからの文官であり、適当な説得でも成功したのが幸いだった。
そうしてその日の午後には、私やオリアスを含めた30人からなる救出軍が編成され、ロップス殿下が進軍したルートをたどって、森へと入った。
♢ ♢ ♢
森へ入って4日が経過した。
当然ながら、ロップス殿下の発見には至っていない。
・・・だが、途中で、軍務卿ラッドヴィン侯爵の鎧の残骸や武器を発見した。
それらは血だらけで、肉片らしきものが残っていた。
ラッドヴィン侯爵とは、小さい頃から王都での行事で顔を合わせてきた。
2つ年齢が上であるラッドヴィン侯爵は、私よりも先に家を継いでおり、これまでも数多くの助言をもらい、辺境伯領が魔獣被害で食糧難に陥ったときは、真っ先に援助を決定してくれた。
そんな、大恩あるラッドヴィン侯爵が死亡したことを確認した。
ラッドヴィン侯爵の防具や武器は可能であれば持ち帰ろうと、できる限り綺麗にして、持って行く。
このくだらない遠征に異を唱え、できる限り無駄死にする兵の数を減らし、散っていった英雄の死を、私はご家族へお伝えせねばならない。
既に7度、魔獣の襲撃を受け、30人いた救出軍は、私とオリアス、3名の騎士のみになってしまった。
残りの25名の生死は分からないが、魔獣に襲われ、囮になる形で別れたことを考えると、生存は見込めない。
私たち5名も、それぞれ魔獣の体当たりを受けたり、爪で裂かれたり、魔法を受けたりと、ボロボロである。
持ち込んだ食料も底をつき、飲み水も残り僅かである。
そんな中、木の陰で休息を取っていると、2人の若者がこちらを見つめているのが目に入った・・・
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・・・・・・いや、戻ってきたのはたったの17名だった。
それぞれ所属していた部隊や元々仕える相手は異なるが、その誰もがボロボロになっており、話す内容は概ね同じであった。
つまり、魔除けの魔道具の効果が予想を遥かに下回っていたこと、魔獣の襲撃を受け部隊が散り散りになり、なんとか森を出ることができたこと、そして道中で数多の戦闘痕や、死体の一部と思われる肉片、血溜まり、武具類の残骸を目撃していたことである。
どう言葉を選んでも、此度の遠征は失敗である。
軍事的な用語法としての全滅や壊滅では足りず、生き残りが数えるほどしかいない状態である。
そして、第二王子ロップス殿下、軍務卿ラッドヴィン侯爵、その他数人の伯爵と子爵本人の行方が分かっていない。
最初の兵が戻った時点で、遠征が予定通り進んではいない旨の知らせを、早馬にて王都に送ってはいるが、そろそろ覚悟を決めて、これらの情報を王都に送る必要がある。
遠征の対象が森であり報復される心配が無いこと、我が辺境伯領軍はほぼ無傷であり援軍の必要が無いことが不幸中の幸いである。
そう思い、早馬を出す準備をしていたとき、陣地に早馬が一騎到着した。
なんと、宰相であるランダル公爵が陣地に到着する旨の知らせであった。
急ぎ、受け入れの準備を整えながら、バイズ辺境伯領の騎士団長である、オリアスと考える。
「オリアス。宰相閣下が陣地を目指されたのは、おそらくこちらの早馬が到着して直ぐであろう。知らせによれば、閣下は自身の護衛のみを連れておるようだし、援軍ではあるまい。となると一体どのような目的であろうか・・・」
「撤退の命令を出しに来た、と考えたいところですが、・・・・・・宰相閣下が、国王陛下の命で来られたのであるとすれば、ロップス殿下の救出を指揮なさるおつもりではないかと・・・。ロップス殿下が森へ入られ、帰ってきていないことは事実であり、森の中にロップス殿下がいらっしゃることは間違いないですから。生死は分かりませぬが・・・」
「・・・・・・で、あるよな。となると、救出のために送り込まれるのは、我が辺境伯領軍か。無謀としか言えぬな・・・・・・・・・・・・」
「はい。魔除けの魔道具が効果を発揮しない以上、森へ入る危険度は従前と変わりませぬ。その状態で、生死不明のロップス殿下を探すなど、正直に言えば、兵の無駄遣いにも程があります。辺境伯領軍はラシアール王国を魔獣どもから守る砦でありますから、戦略的にもあり得ない選択かと。仮に行方不明なのが国王陛下であれば、話は変わりましょうが・・・」
「・・・・・・そうであるな。なんとか閣下に話が通じればよいのだが・・・」
そう言いながらも、無理であろうな、と心の中で呟いてしまう。
ランダル公爵にとって、第一王子が王位を継ぐよりも、第二王子であるロップス殿下が王位を継ぐ方が、都合がいいのだ。
第一王子は、国王陛下に似て聡明であり、既に多くの国政に携わっている。
そのため宰相の地位に就いていても、口出しできる内容は限られるし、実質的な権力はそれほど大きくない。
だが、ロップス殿下は聡明とはほど遠く、ロップス殿下が王位に就けば、宰相の地位にある者や、次期国王となる者の祖父、つまりロップス殿下の妻の家や父の力は増す。
此度の遠征の失敗で、レンロー侯爵とその一派は、本人の生死に関わらず大きく影響力を落とす。いくつかは取り潰されるであろう。
となると、ロップス殿下に嫁いでいたレンロー侯爵の娘の地位も落ちる。
ロップス殿下には妻は1人しかいないので、新たな妻を、と考えることになるであろう。
そこに、ロップス殿下を助けた功績を掲げて、ランダル公爵の娘 —確かロップス殿下より4つほど年下の未婚の娘がいたはずである— が嫁ぐわけだ。
結果、ランダル公爵はバカ王の宰相の地位と、次期国王の祖父としての地位を共に手に入れることになるわけである。
もちろん、これはロップス殿下が生きていたうえで、第一王子に勝ち王位を継承すれば、の話である。
だが、ロップス殿下が死ねば、計画の進めようも無くなる。
ランダル公爵のことであるから、第一王子を落とす策は考えてあるのであろうし、最悪でもロップス殿下を王弟として、公爵家を興させたうえで、ランダル公爵家と協力して第一王子に対抗することも考えられる。
いずれにせよ、ランダル公爵にとってロップス殿下は生きている方が、都合がいいわけだ。
そして、国王陛下は、当然、父として息子の無事を願うであろうし、ロップス殿下を溺愛している。
つまり、ランダル公爵が国王陛下に、全力を尽くしてのロップス殿下の救出を提案すれば、そのまま命ぜられる可能性が高いのだ。
・・・そうなれば、私やオリアスら年長者を中心に救出軍を編成するか。
息子はまだ若いが、領の運営を任せても平気であろうし、オリアスの息子も騎士団の次期団長候補として十分にやってくれている。
私たちが死んでも、ある程度の兵が残っていればなんとかなろう。
「オリアスよ。話が通じぬときは、私やお前を中心に、騎士団の年長者からなる救出軍を編成せよ。若い騎士団員や、一般の兵士達はなるべく森へ突入せぬようにな。そこが、我らの引けぬラインじゃ・・・」
オリアスは私の言葉の意図を察したのか、一度、沈痛な面持ちになってから、
「承知致しました」
と、短く答えた。
翌日、ランダル公爵が到着した。
その第一声は、
「何をしておる! 早く森へ入り、ロップス殿下をお救いせよ!」
で、あった。
勘弁してくれよと思いながらも、オリアスと2人で、森の中を探索するのに大軍は非効率だとか、ベテランの騎士でなければ役に立たないとか、よく分からない説得を行った。
ランダル公爵は、軍事には明るくなく、剣すら握ったことが無いような、根っからの文官であり、適当な説得でも成功したのが幸いだった。
そうしてその日の午後には、私やオリアスを含めた30人からなる救出軍が編成され、ロップス殿下が進軍したルートをたどって、森へと入った。
♢ ♢ ♢
森へ入って4日が経過した。
当然ながら、ロップス殿下の発見には至っていない。
・・・だが、途中で、軍務卿ラッドヴィン侯爵の鎧の残骸や武器を発見した。
それらは血だらけで、肉片らしきものが残っていた。
ラッドヴィン侯爵とは、小さい頃から王都での行事で顔を合わせてきた。
2つ年齢が上であるラッドヴィン侯爵は、私よりも先に家を継いでおり、これまでも数多くの助言をもらい、辺境伯領が魔獣被害で食糧難に陥ったときは、真っ先に援助を決定してくれた。
そんな、大恩あるラッドヴィン侯爵が死亡したことを確認した。
ラッドヴィン侯爵の防具や武器は可能であれば持ち帰ろうと、できる限り綺麗にして、持って行く。
このくだらない遠征に異を唱え、できる限り無駄死にする兵の数を減らし、散っていった英雄の死を、私はご家族へお伝えせねばならない。
既に7度、魔獣の襲撃を受け、30人いた救出軍は、私とオリアス、3名の騎士のみになってしまった。
残りの25名の生死は分からないが、魔獣に襲われ、囮になる形で別れたことを考えると、生存は見込めない。
私たち5名も、それぞれ魔獣の体当たりを受けたり、爪で裂かれたり、魔法を受けたりと、ボロボロである。
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