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第4章:新たな日々
第168話:バカと怯える子ども
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アーロンからの報告を一通り聞き終えた。注文した馬車についても、職人の使者が来たらしく、材料も揃って予定通りだとか。一安心だ。
捕らえた盗賊たち・・・冒険者たちの処遇は、向こうで会って話を聞いてみてから決めることにした。
個人的には、ただの侵入盗。しかも入った瞬間に制圧されているので、窃盗は未遂・・・というか着手前だ。それに騎士団と力の差は歴然で、こっちに被害は皆無だった。なので、そこまで苛烈な処罰をしたいとは思わない。とはいえ、処罰を軽くすれば第2、第3の盗賊を招く。そして、次は騎士団に被害が出たり、領民が害されたりするかもしれない。
まあ幸いなことに、騎士団以外に目撃者はいないので、少しばかり対処のハードルが低い。
そんなわけで、どうしても会って話がしたいというマーカスと一緒に、会いに行くことになった。
騎士団長が犯罪者に甘い顔を見せるわけにはいかない。そう思って申し出を却下しようとしたのだが、
「自分が教えた子たちなのか。そうだとして、どうしてこのようなことをしてしまったのか。それを確認したいのです。死罪で当然だと思っていますし、コトハ様の判断に、異議を唱えるつもりなど毛頭ございません。自分のけじめのため、どうかお願い致します」
と懇願された。甘いのかもしれないが、私にはこれを断ることはできなかった。
♢ ♢ ♢
アーロンが報告に戻ってから数日後、私とマーカスは砦に向かった。一応ホムラも一緒だ。
今日は、砦は封鎖されている。砦には私に会おうとしている貴族の使者が訪れているので、私の到着前にお客さんを帰し、新たに入ることは認めなかった。冒険者などを通じてこのことは通告済みだ。昼過ぎからこの対応がとられたので、知らずに来てもガッドには帰れるだろう。
砦の南門に到着すると、扉ゴーレムが立ち上がり、砦への入り口を開ける。綺麗に掃除されているが、このゴーレムが盗賊を殺めたのか。掃除やメンテナンスの際に防衛機構が発動したら惨事なので、そういう際の対応は用意されている。といっても、防衛機構の発動を停止する合図をセンサーゴーレムに出すだけだ。
砦に入ると、整列した騎士団とアーロン、レーノに迎えられた。
「ようこそ、コトハ様」
レーノが代表して声をかけてくる。
「うん。みんなもお疲れ様。仕事に戻っていいよ」
「「「はっ!」」」
私がそう返すと、整列していた騎士団が一斉に返事をし、アーロンの指示に従い散っていく。
この出迎えは、予めマーカスから可能性として伝えられており、かなり驚いたけど、なんとか言葉を返すことができた。
レーノから砦の運用状況について、詳しく説明を受けた。数日前にアーロンが伝えてくれたことに加えて、魔法武具や試食品の評判、貴族の使者や商人の様子など、詳しく聞くことができた。好評なようでなによりだ。
それが終わると、
「それではコトハ様。参りましょう」
「うん」
アーロンに案内され、盗賊たちを拘束している牢へ向かった。
ちなみにレーノは、話を聞くのすら不要と言っていたが、他に用もないし、予定通りに動くことにする。
牢は簡単な建物の地下に、『土魔法』で深く掘った穴を固めて作ってある。ドランドが試行錯誤した余りや失敗作の魔鋼を用いて柵が作られており、そう簡単に脱走はできない。
「大袈裟な」とは思ったが、さっそく事件が起こっているのだし、作っておいてよかった。
牢へと続く階段を下りると、監房に1人ずつ、盗賊が入れられていた。
大人2人に子ども2人といった感じ。大人といっても、「騎士団にもこれくらいの人はいるよね」って話で、実際にいくつなのかは分からない。ただ子どもと思しき2人は、カイトやフォブスと同じくらいか、それより小さいくらいに見える。
盗賊たちは入ってきた私たちの方を見て、視線を逸らそうとしたが、私・・・・・・ではなく、マーカスを見て目を止めた。
「ま、マーカスさん・・・」
大きい方の1人がそう呟いた。そしてもう1人の大きいのが、
「マーカスさん! よかった、俺たちを助けにきてくれたんだろ!?」
と、柵に駆け寄り、柵の隙間からマーカスに手を伸ばした。
・・・助けるって?
マーカスは、自分に向けて伸ばされた手を見て・・・・・・、その手を振り払った。
「・・・え?」
手を伸ばした男からそんな声が漏れるが、マーカスは意に介さず、
「触るな、犯罪者が」
と、聞いたことないような低い声で答えた。
「は、犯罪者・・・」
「ち、違うんです。俺たちは・・・」
もう1人の大きいのが口を開くが、
「口を慎め! 大公殿下の御前であるぞ!」
そう、私の方を見ながら声を荒らげた。
「大公殿下」と聞き、4人の盗賊は目を見開き、私とマーカスを交互に見ている。
ここ大公領だし、犯罪者を領主が裁くのは一般的らしいから、大公本人が出てきてもそんなに驚くことでは無いと思うんだけどなぁー・・・
「こ、この小娘が、大公だと?」
マーカスに助けを求めていた男がそう呟いた。残念ながらマーカスに聞こえてしまったようで、射殺すような視線を浴びせられている。うん、それはダメだよ・・・。マーカスやレーノ、この場にいる騎士たちも、もの凄い剣幕になっている。
しかし、この2人は救いようが無いな。まあ、私が大公に、貴族に見えないのは仕方がないとしても、砦に盗みに入って捕まったやつの態度じゃないでしょ。それに比べて、こっちの2人。監房の隅で震え上がっている子ども2人は、なんか違うな。
よし。連れ出して話を聞いてみようか・・・
「マーカス。その騒がしい2人はもういいや。こっちの2人。上の部屋に連れてきて」
私はそう言うと、地下牢を後にして、地上にある部屋に入った。
少しして、盗賊に落ちた冒険者のうち、初心者ランクの冒険者だったという子ども2人が連れてこられた。手には木製の手枷がはめてあり、背後にはいつでも攻撃できる体勢の騎士が控えている。
「ありがとう。2人とも、そこに座って」
私は自分の座っていた向かいにあった、ソファーを指さし、座るように促す。
2人はどうしたらいいのか分からないようで怯えまくっていたが、私の指示に背くのが最も危険だと判断したのか、小さな声で「はい」と答えてから、腰掛けた。
2人が座ったのを確認してから、
「さて。一応名乗っておくと、私がこの砦を含めてクルセイル大公領を治める、クルセイル大公よ」
私がそう名乗ると、2人は思い出したかのように跪こうとする。ただ、今はそんな面倒なことを求めてはいない。
「そういうのいいから。座ってなさい。まずは、そうだね-・・・。あなたたちは、大公領の砦に押し入り盗みを働こうとした賊。いや、反逆者なわけね。ここまではいい?」
私がわざと、睨みつけながら聞くと、2人はブルブルと震えながら、どうにかして頷いた。
「一般的に言えば、あなたたち4人のやったことは、重罪。まあ、軽く死罪になる」
ここまで言って、ようやく実感が湧いたのか、2人は目に涙を浮かべながら、俯いた。これまでは、漠然と悪いことをして騎士に捕まったという意識だったのだろう。それでも怯えきっていたのだから、自分の立場をはっきりと示されたことで、より恐怖と絶望が押し寄せているのだろう。
「ただ、私はあなたたちの話を聞かずに、決めるつもりは無い。大人2人は、会話する気が無いようだったからもういいけどね。もし、あなたたち2人に、何か言い分があるのなら聞くけど?」
私がそう言うと、僅かな希望にすがるかのように、2人が顔を見合わせ、私の方を見た。
「あ、えっと。その。僕、い、いや・・・、私たちは・・・」
ただ、恐怖と緊張からか、全く呂律が回っていない。
はぁー。こんな怯えた子どもが犯罪者ねー。いや、やったのは事実なんだろうけど、ますますこの子たちに死刑とか無理。そのためにも、何か情状酌量の余地がありそうな言い訳をしてくれるといいけど・・・
捕らえた盗賊たち・・・冒険者たちの処遇は、向こうで会って話を聞いてみてから決めることにした。
個人的には、ただの侵入盗。しかも入った瞬間に制圧されているので、窃盗は未遂・・・というか着手前だ。それに騎士団と力の差は歴然で、こっちに被害は皆無だった。なので、そこまで苛烈な処罰をしたいとは思わない。とはいえ、処罰を軽くすれば第2、第3の盗賊を招く。そして、次は騎士団に被害が出たり、領民が害されたりするかもしれない。
まあ幸いなことに、騎士団以外に目撃者はいないので、少しばかり対処のハードルが低い。
そんなわけで、どうしても会って話がしたいというマーカスと一緒に、会いに行くことになった。
騎士団長が犯罪者に甘い顔を見せるわけにはいかない。そう思って申し出を却下しようとしたのだが、
「自分が教えた子たちなのか。そうだとして、どうしてこのようなことをしてしまったのか。それを確認したいのです。死罪で当然だと思っていますし、コトハ様の判断に、異議を唱えるつもりなど毛頭ございません。自分のけじめのため、どうかお願い致します」
と懇願された。甘いのかもしれないが、私にはこれを断ることはできなかった。
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アーロンが報告に戻ってから数日後、私とマーカスは砦に向かった。一応ホムラも一緒だ。
今日は、砦は封鎖されている。砦には私に会おうとしている貴族の使者が訪れているので、私の到着前にお客さんを帰し、新たに入ることは認めなかった。冒険者などを通じてこのことは通告済みだ。昼過ぎからこの対応がとられたので、知らずに来てもガッドには帰れるだろう。
砦の南門に到着すると、扉ゴーレムが立ち上がり、砦への入り口を開ける。綺麗に掃除されているが、このゴーレムが盗賊を殺めたのか。掃除やメンテナンスの際に防衛機構が発動したら惨事なので、そういう際の対応は用意されている。といっても、防衛機構の発動を停止する合図をセンサーゴーレムに出すだけだ。
砦に入ると、整列した騎士団とアーロン、レーノに迎えられた。
「ようこそ、コトハ様」
レーノが代表して声をかけてくる。
「うん。みんなもお疲れ様。仕事に戻っていいよ」
「「「はっ!」」」
私がそう返すと、整列していた騎士団が一斉に返事をし、アーロンの指示に従い散っていく。
この出迎えは、予めマーカスから可能性として伝えられており、かなり驚いたけど、なんとか言葉を返すことができた。
レーノから砦の運用状況について、詳しく説明を受けた。数日前にアーロンが伝えてくれたことに加えて、魔法武具や試食品の評判、貴族の使者や商人の様子など、詳しく聞くことができた。好評なようでなによりだ。
それが終わると、
「それではコトハ様。参りましょう」
「うん」
アーロンに案内され、盗賊たちを拘束している牢へ向かった。
ちなみにレーノは、話を聞くのすら不要と言っていたが、他に用もないし、予定通りに動くことにする。
牢は簡単な建物の地下に、『土魔法』で深く掘った穴を固めて作ってある。ドランドが試行錯誤した余りや失敗作の魔鋼を用いて柵が作られており、そう簡単に脱走はできない。
「大袈裟な」とは思ったが、さっそく事件が起こっているのだし、作っておいてよかった。
牢へと続く階段を下りると、監房に1人ずつ、盗賊が入れられていた。
大人2人に子ども2人といった感じ。大人といっても、「騎士団にもこれくらいの人はいるよね」って話で、実際にいくつなのかは分からない。ただ子どもと思しき2人は、カイトやフォブスと同じくらいか、それより小さいくらいに見える。
盗賊たちは入ってきた私たちの方を見て、視線を逸らそうとしたが、私・・・・・・ではなく、マーカスを見て目を止めた。
「ま、マーカスさん・・・」
大きい方の1人がそう呟いた。そしてもう1人の大きいのが、
「マーカスさん! よかった、俺たちを助けにきてくれたんだろ!?」
と、柵に駆け寄り、柵の隙間からマーカスに手を伸ばした。
・・・助けるって?
マーカスは、自分に向けて伸ばされた手を見て・・・・・・、その手を振り払った。
「・・・え?」
手を伸ばした男からそんな声が漏れるが、マーカスは意に介さず、
「触るな、犯罪者が」
と、聞いたことないような低い声で答えた。
「は、犯罪者・・・」
「ち、違うんです。俺たちは・・・」
もう1人の大きいのが口を開くが、
「口を慎め! 大公殿下の御前であるぞ!」
そう、私の方を見ながら声を荒らげた。
「大公殿下」と聞き、4人の盗賊は目を見開き、私とマーカスを交互に見ている。
ここ大公領だし、犯罪者を領主が裁くのは一般的らしいから、大公本人が出てきてもそんなに驚くことでは無いと思うんだけどなぁー・・・
「こ、この小娘が、大公だと?」
マーカスに助けを求めていた男がそう呟いた。残念ながらマーカスに聞こえてしまったようで、射殺すような視線を浴びせられている。うん、それはダメだよ・・・。マーカスやレーノ、この場にいる騎士たちも、もの凄い剣幕になっている。
しかし、この2人は救いようが無いな。まあ、私が大公に、貴族に見えないのは仕方がないとしても、砦に盗みに入って捕まったやつの態度じゃないでしょ。それに比べて、こっちの2人。監房の隅で震え上がっている子ども2人は、なんか違うな。
よし。連れ出して話を聞いてみようか・・・
「マーカス。その騒がしい2人はもういいや。こっちの2人。上の部屋に連れてきて」
私はそう言うと、地下牢を後にして、地上にある部屋に入った。
少しして、盗賊に落ちた冒険者のうち、初心者ランクの冒険者だったという子ども2人が連れてこられた。手には木製の手枷がはめてあり、背後にはいつでも攻撃できる体勢の騎士が控えている。
「ありがとう。2人とも、そこに座って」
私は自分の座っていた向かいにあった、ソファーを指さし、座るように促す。
2人はどうしたらいいのか分からないようで怯えまくっていたが、私の指示に背くのが最も危険だと判断したのか、小さな声で「はい」と答えてから、腰掛けた。
2人が座ったのを確認してから、
「さて。一応名乗っておくと、私がこの砦を含めてクルセイル大公領を治める、クルセイル大公よ」
私がそう名乗ると、2人は思い出したかのように跪こうとする。ただ、今はそんな面倒なことを求めてはいない。
「そういうのいいから。座ってなさい。まずは、そうだね-・・・。あなたたちは、大公領の砦に押し入り盗みを働こうとした賊。いや、反逆者なわけね。ここまではいい?」
私がわざと、睨みつけながら聞くと、2人はブルブルと震えながら、どうにかして頷いた。
「一般的に言えば、あなたたち4人のやったことは、重罪。まあ、軽く死罪になる」
ここまで言って、ようやく実感が湧いたのか、2人は目に涙を浮かべながら、俯いた。これまでは、漠然と悪いことをして騎士に捕まったという意識だったのだろう。それでも怯えきっていたのだから、自分の立場をはっきりと示されたことで、より恐怖と絶望が押し寄せているのだろう。
「ただ、私はあなたたちの話を聞かずに、決めるつもりは無い。大人2人は、会話する気が無いようだったからもういいけどね。もし、あなたたち2人に、何か言い分があるのなら聞くけど?」
私がそう言うと、僅かな希望にすがるかのように、2人が顔を見合わせ、私の方を見た。
「あ、えっと。その。僕、い、いや・・・、私たちは・・・」
ただ、恐怖と緊張からか、全く呂律が回っていない。
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