危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

文字の大きさ
250 / 361
第5章:建国式典

第224話:難癖

しおりを挟む
ハールさんの提案に、後ろの貴族の反応は二分された。
好意的な視線、否定的な敵対的な視線の両方を浴びせられる。

他人の視線を感じることができるようになったのは、王都までの道中で『魔力感知』を使い続けた結果だ。視線を向けるという行動には、その者の意思が込められている。その中に、微弱な魔素が含まれているようで、強い視線、例えば殺意を込めて睨んだり、獲物を狙ってジッと見つめたりすると、それを感じやすいのだ。今回感じた視線から察するに、不快そうな苦々しげな視線が多いが、いくつかは殺意のようなものが込められた視線もあった。その方向から、視線の主は判明しているので、警戒しておこう。
名前は分からないんだけど・・・・・・


集まる視線は不快ではあったが無視して用意してあった返事をする。

「うちの領を守ることが、国の南側を守ることに繋がるのならそれはいいよ。けど、命令を受ける気も無いし、他の貴族や軍がうちの領に居座るのを許す気も無いよ?」

こちらの要求を突き付けると一気に剣呑な雰囲気になる後ろ側。
だが、ハールさんは気にもせず、

「ああ。分かっておる。こちらから頼み結んだ約定を違える気など無い。南方の守護は、クルセイル大公領に任せる。情報の交換・共有は密に行いたいとは思うが、こちらから誰かを送って居座らせるようなことはしないとこの場で約束しよう。もちろん、必要な場合には国の方に援軍を求めてくれて構わない」

と応じてくる。
それを聞いて、若干困惑顔の貴族たち。
ただ、私たちは淡々と話を続ける。

「・・・分かった。じゃあ、私の役目としては、うちの領に入ってくる敵から領を守るだけでいいんだよね。それで、その情報をハールさんたちに伝える」
「そういうことだ。後は、クルセイル大公領では砦を建設する予定があると聞いているが・・・」
「ああ、そうだね。領都の北側に砦を作ったんだけど、似たようなもんを西側にも作ろうとは思ってるよ。前にもダーバルド帝国の奴隷商人が森を抜けようとしてたことがあったし、見張り用にね」
「ふむ。それは、是非頼みたい。必要なら費用も援助しよう」
「分かった。また相談するね」
「ああ」

予め決まっていた内容なだけあって、流れるように会話が進む。
それを聞きながら、何やら考え込んでいる貴族も数名いるが、多くの貴族は話を理解するので一杯一杯のようだ。
私との関係やうちの戦力を端的に示させた上で、南方防衛担当への就任を依頼し、承諾させる。貴族連中の横やりに警戒してハールさんが立てた戦略は上手くはまったようだ。

しかし、中にはどうにか食い下がろうとする、ある意味では根性のある貴族もいる。
後ろの貴族連中の中から、声が出た。

「陛下! どうか、発言の許可をいただきたく存じます」

後ろの方にいた貴族の1人がそんな風に奏上した。
先ほどハールさんも言っていたが、後ろの貴族にはこの場での発言権が無い。それにも関わらず発言の許可を求める貴族。
一応、本当に緊急の場合やどうしてもこの場でなければならないような特段の事情があれば、例外的に許されることがあるらしいが、そんな危険を冒す貴族はいないと聞いていたのだが・・・

当然のごとく、ハールさんは顔を顰め、後ろの王子たちもその貴族を睨みつける。そしてアーマスさんは、今にも怒鳴りつけそうな様子だ。そして何より、その貴族の周囲にいた近衛騎士が、動き出そうと身構えているのだ。見れば、近衛騎士の騎士団長グランフラクト伯爵が近くにおり、指示を待っている様子だった。

発言を禁じられた謁見の場での不規則発言、しかもこれまでの反射的な反応や一言二言程度の感想であれば目こぼしされる。しかし、ここまでハッキリと指示に背けば、不敬行為として、爵位剥奪や刑に処されることもあるのだ。

当然、その貴族もそんなことは百も承知しているはずだ。仮に私に対しての行為であれば、単に私を舐めているだけなんだと一応納得はできるが、国王相手にするとは思えない。
同じことを思ったのか、ハールさんが疑問を投げかける。

「ゾンダル子爵に問おう。余の出した発言禁止の命に背いてまで、発言すべき事があるのか?」

初めて見る鋭い雰囲気のハールさん。返答次第では、待機しているグランフラクト伯爵に捕縛を命じそうな様子である。

しかし、ゾンダル子爵は動じない。

「はっ。陛下の命に背いていることは承知しております。そのことについては、如何なる処分であっても受け入れる所存です。しかし、クルセイル大公殿下が王国の南方守護を担うことについて、どうしても確認すべきことがあると愚考いたします」

と、言い切る。
そういえば、ゾンダル子爵ってどっかで聞いた覚えがある。確か、王都への道中で会えなかった貴族だっけ? レーノや騎士がキレてた覚えがある。

「ほう。余はもちろん、軍務卿に就く予定のダンも最善と考える策であるが、疑問があると?」
「はっ。畏れながら、クルセイル大公殿下の説明については、何ら裏付けがございません。確かに、そこに並ぶゴーレムの威容には目を見張るものがございますが、その性能については大公殿下の説明のみ。大公弟殿下を引き合いに出されておりましたが、それも判断の材料としては難しいものと思われます。そのような段階で、現在の最懸案であるダーバルド帝国対策を、クルセイル大公殿下に一任するというのは、危険ではないかと考えます」

と、相変わらず真っ直ぐと言い返すゾンダル子爵。
一方で、ハールさんの表情も変わらない。というか、この場で発言をしている云々の謁見に関する儀礼面はさておき、ゾンダル子爵の言ってることは至極真っ当だ。私の説明だけで、しかも貴族たちにはよく分からないであろうカイトを用いた説明で、騎士ゴーレムの性能を理解しろというのは難しいだろう。それに、ダーバルド帝国対策がカーラルド王国の最重要課題というのもその通りだ。そんなわけで、彼のいちゃもんは的を射ているわけだ。

さぁ、ハールさんはどうするのか。私に関する話題とはいえ、もはや会話の当事者ではなく傍観者としての立場で2人のやり取りを眺めていた。
ハールさんがこの場でゾンダル子爵の行いを罰するようには見えないが、こういうのって例外を許すのは控えるべきだとも思う。悪しき前例を大事な時期に残すのは良くないだろう。一方で、騎士ゴーレムの性能やうちの戦力に対する疑問を持つ貴族が多いことも事実だろう。先程から、色んな視線を浴びている。

「さて、どう思う? コトハ殿」

ふっざけんなぁー!
私が傍観者に徹していると、あっさりと私を巻き込みにきたハールさん。いや、どこかで話が来るとは思ってたけど、こんなに早く!?

「いや、私に言われても・・・。・・・・・・・・・いっそのこと、誰かと戦ってみる?」

百聞は一見にしかず。特に戦闘能力なんて、いくら口で説明しても分かりにくい。腕が認められている誰かと模擬戦でもしてみれば分かりやすいだろう。

「ふむ。それは面白そうだな。ゾンダル子爵よ。どう考える?」
「はっ。よいお考えかと。有名な騎士や冒険者と、クルセイル大公殿下のゴーレムとの模擬戦を行い、その性能を試すのが分かりやすいと思われます」

そう言いながら、笑みを浮かべるゾンダル子爵。
ところで、ゾンダル子爵の狙いは何なんだろうか・・・。もの凄く善意に解釈すれば、戦力が未知数なうちの領に南方の守護を任せることを危惧し、国のために処罰覚悟で問題を提起したとも考えられる。
だが申し訳ないが、それは無いと思う。先程から感じる不快な視線。その主はゾンダル子爵なのだが、どう考えても国を憂いる者の視線ではない。むしろ、私を敵視した視線。先ほどの可能性であれば、うちの戦力が話の通りであれば、南方守護を任せることに異論は無いはずだ。しかし、どう見てもそうではない。

ということは、私の説明が嘘もしくは誇張されていることを主張して、私を蹴落とすのが目的か? そういえば、ハールさんに南方の守護を担う役職に就きたがっている貴族がいると聞いた気がする。そこに、私が就く形になったことで、その目論見が外れたのだろうか・・・

ハールさんは少し考え、それから後ろの王子たち、特にダンさんと何かを話していた。
そして、

「良かろう。コトハ殿の提案でもある故な。クルセイル大公領の戦力がどれほどのものであるか、実演してもらうこととしよう。それで構わぬな?」

と宣言するハールさん。
もうここまで来たら、圧倒的な性能を見せつけてゾンダル子爵の鼻っ柱をへし折ってやる。

「いいよ。なめられんのもムカつくし、難癖付けたことを謝罪させてやる」

私が挑発的に、見下しながら言うと、

「無論、そのときは謝罪いたします」

と応じるゾンダル子爵。だがその顔は、私の話が誇張だと確信しているように思える。
その顔もムカついたので、

「そうだ。ハールさん。ゾンダル子爵の難癖が、ただの言いがかりだったと証明されたら、発言が認められてないこの場で発言したことや、無駄な時間を取らせたことをしっかり罰してね」

と笑顔で提案する。
どうやらハールさんもそのつもりだったようで、

「無論だ。この場での発言には責任を持たねばならぬ。ましてや、余の命に背き、大公に食ってかかったのだからな」

しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...