危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

文字の大きさ
268 / 361
第5章:建国式典

第242話:捕らわれた人たち

しおりを挟む
「私が先に」

そう言ってジョナスが先頭に移動する。
私が先頭でも危険は無いだろうが、護衛としてはそうもいかないのだろう。
ジョナスに続いて、階段を降りていく。途中で入り口からの明かりが届かなくなったので、『光魔法』で小さな光球を作り、懐中電灯代わりにする。

1階から2階、2階から3階に上るよりも、この階段は倍近い長さがあった。
下に到着すると、入り口からの明かりは完全に届かず、光球が無ければ何も見えない。
ふと思いつき、先ほどの望遠鏡のようにしたのと同様、目に魔力を込めてみた。すると、薄らと周囲の状況が見えるようになった、光球を出したり消したりして比べた結果、不鮮明ながらも周囲の状況が見えていたようだ。質の悪い赤外線カメラを使った感じ? これも今度、練習しておこう。

全員が地下室に降りると、再びシャロンとホムラに周囲を調べてもらう。
その結果、

「ワッフ!」

とシャロンが吠えるのよりも早く、ホムラが「見つけました」と伝えてきた。何故かホムラが、シャロンに向かってどや顔をしているように見えるのだが、気のせいだろうか。先ほど、シャロンが導線まで発見したことが、悔しかったとか?

とりあえず、2人の案内で地下室を進んでいく。
私も『魔力感知』をしてみるが、2人が示すのと同じ方向に、おそらく5つの反応が確認できた。

地下室は地上の建物よりも広いようで、地上では庭になっていたであろう部分まで、広がっていた。
2人に続いて慎重に進むこと数分、私たちを照らす光球に何かが反射した。

反射したのはおそらく金属。ということは、剣?
そう思い、それぞれが身構えるが、現れたのは全く違うものだった。


「・・・・・・あれって、鉄格子?」

私の呟きと同時に、

「ひぃっ」

と、女の子の悲鳴のような声が聞こえた。
その方向へ光球を向ける。

するとそこには、鉄格子の奥で鎖に繋がれた、ポーラよりも幼い女の子がいた。

「だ、大丈夫!?」

慌てて駆け寄るが、それを見て、尻餅をついてしまう女の子。
しまった、驚かせてしまった。

「ごめん・・・。怖くないよ。助けに来たからね」

そう、なるべく優しく、ゆっくりと告げる。
事情は分からないけど、こんな幼い子を捕らえている理由なんて、良からぬことに決まっている。特にここは、あのデブが管理していた建物なんだし。

ジョナスに視線で合図し、他の鉄格子も調べさせる。

私の言葉に、理解が追いついていない様子の女の子は、

「助け、る?」

と、私の言葉を繰り返す。

「そうだよ。今、助けてあげるからね」

そう言いながら、鉄格子を確認する。
それなりに頑丈だが、問題無さそうだ。

両手を『龍人化』させ、軽く力を込める。そしてゆっくりと、2本の鉄棒を手前に引いていく。
鉄格子は、天井と床との間に設置されているので、鉄棒を無理矢理引き抜くことで天井が崩れないとも限らない。
それだけ注意しながら引っ張ると、やがて2本の鉄棒を外すことができた。天井も問題ない。

鉄棒を引き抜いたことでできた穴は、ギリギリ私が通れるくらい。ジョナスたちでは無理だろう。

「中に入ってもいい?」

この子を助けるには鎖を外さなければならない。そのためには中に入る必要があるのだが・・・

鉄棒を引き抜いたことに呆然としていた女の子は、少し・・・、いや最初よりも怯えながら頷いた。
よく考えたら、鉄格子をぶち破る女とか、怖いよね・・・

なるべく笑顔を向けるように心がけながら、中に入る。
女の子に近づき、よく観察する。元は白かったのであろう麻っぽい服が、土がむき出しになっている地下室の床や汚れで黒く変色していた。むき出しになっている手や足はすり切れ、いくつか痣も見えた。
特に、右足首に鉄製の輪っかが付けられ、それが鎖で壁に繋がっている。右足首の周りは、鎖を引っ張った際に圧迫され、痣や擦り傷が酷く、紫色になっていた。

とりあず、壁に繋がれた鎖を、女の子に衝撃が伝わらないように両手で掴んで破壊する。
それから、

「少し痛いかもしれないけど、我慢してね。それ、外しちゃうからね」

そう言って、女の子の頭を優しく撫でる。
そして、『龍人化』させた両手の人差し指と親指で輪っかを摘まみ、引きちぎった。

「よし、外れた」

右足首を確認するが、痣と擦り傷。たぶん、それほど重い怪我ではないと思う。けれど、幼い女の子の身体にあっては痛々しく、見過ごすことのできない怪我だった。

女の子は、私が破った鉄格子や千切った鎖を順々に見て、何かを言おうとしてそれを飲み込む。
怖がらせちゃった、かな?
そう思っていると、

「あ、ありがとう、ございます」

と、細々とした、けれどこちらを見つめしっかりとした声でお礼をいってきた。
それだけで心が温かくなるのを感じながら、頭を撫でてあげる。もちろん、手の変化は解いてある。

「どういたしまして。私はコトハ。この子は」
「ポーラだよ!」

元気よく割り込んでくるポーラに苦笑しながら、

「あなたのお名前は?」

と確認する。

「私は、メイジュ、です」
「メイジュちゃんね」

そう言いながら、彼女の頭を撫でていたときに触れたものを確認する。
領都にいるヤリスさんやフラメアの頭にもあったもの。そう、角だ。
まだ小さく、彼女の綺麗な銀髪に隠れているので触るまで気がつかなかったが、彼女には角があった。ということは、彼女は『魔族』なんだろうか。

考えていると、ジョナスたちが戻ってきた。

「コトハ様。これと同様の鉄格子に囲まれた牢が、他に5つございます。中に人が入っていたのは2つ。それぞれ、大人の女性と子どもらしきペアでした」

とのこと。
メイジュちゃんをポーラとシャロンに任せ、私はホムラと鉄格子の場所に向かう。
そこでは、メイジュちゃんと同様に足に鎖を繋がれた、おそらく親子であろう2人ずつが捕らわれていた。


全員を救出したが、メイジュちゃん以外の4人は、気を失っていた。大きな外傷があるわけではないが、同様に小さな痣や擦り傷を負い、服や髪もボロボロ。それに酷く痩せ細っていた。

ひとまず地上にいたグランフラクト伯爵に、このことを伝える。
メイジュちゃんはポーラから離れそうにないので、ポーラとシャロンにはメイジュちゃんを守るように頼んでおく。

「クルセイル大公殿下。地下で見つけた人たちとは・・・」
「詳細は分かんない。親子らしき女性と女の子のペアが2組で4人。それから女の子1人で牢に入れられてた子がいるから、合計5人」
「左様ですか・・・」
「その1人だった女の子は、『魔族』だね」
「ということは・・・」

あの後、申し訳ないがメイジュちゃんを『鑑定』した。予想通り『魔族』の女の子で、年齢は5歳。魔法の才能はありそうだが、それを除いて特出した点はなかった。
『鑑定』のことを伝えるか迷ったので、他の4人については伝えていないが、こちらは『人間』だった。

そして、『魔族』と聞いて、グランフラクト伯爵が考えているのであろうことは、私もまず考えたことだ。というか、あの状況を見れば、他に考えようがない。

「知ってるやつに聞くか」

そう言うと、グランフラクト伯爵とマーカスが深く頷いた。


 ♢ ♢ ♢


所変わって、私は地下牢にいる。
地下牢といっても、フェルト商会の地下ではない。あそこよりも設備が整えられた場所で、牢の中にいるのは罪の無い女性や女の子ではなく、クズ共だ。生きる価値もないゴミクズが、ここに押し込められているのだが、その中の1人に用があった。

とある牢の前に立ち、中に向かって話しかける。

「ムルゼイス、だっけ? 質問に答えなさい」

牢の中にいる、1匹のゴミに向かって告げる。

「ひ、ひぃぃ」

私を見るなり、悲鳴を上げているが、そんなのは必要ない。

「ドンッ!」

鉄格子を蹴り上げ、ムルゼイスを睨む。

「黙れ。質問にだけ答えろ。それ以外の言葉を発すれば、次は左腕を消し飛ばす」

私のその言葉に、ムルゼイスは完全に沈黙した。


ここは王城の敷地内にある近衛騎士団の本部。その地下にある、地下牢だ。中にいるのは先ほどフェルト商会で捕らえてきたクズが20人ほど。他に収容されている人はいない。

フェルト商会を制圧後、メイジュちゃんたちを連れて王城に帰ると、ダンさんに呼ばれた。
けれど私が、メイジュちゃんたちの話をムルゼイスに聞くのが先だと言うと、

「この件はコトハ殿に任せますので。済んだら、私の部屋にお願いします」

と、疲れた表情で言われた。
ムルゼイスは貴族を誘拐しようとしたのであり、行き着く先は死刑。そのため、拷問でもなんでもお好きに、と言われ、グランフラクト伯爵にここまで案内してもらった。
別に拷問したいわけではないし、そんな経験も訓練も受けていないが、聞きたいことを喋らなければ、腕を消し飛ばすことくらいは躊躇わない。


そんなわけで、できるだけ冷たく、重たい声で宣言する。

「フェルト商会の建物。地下にいた女性や女の子たちについて説明しなさい。包み隠さず、全て」

しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【草】の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

雪奈 水無月
ファンタジー
山と愛犬を愛する三十二歳サラリーマン・山神慎太郎。 愛犬を庇って命を落とした彼は、女神の手によって異世界へ転生する。 ――ただし、十五歳の少女・ネムとして。 授けられた能力は【草限定の錬金術】。 使える素材は草のみ。 しかしその草は、回復薬にも、武器にも、時には常識外れの奇跡を生み出す。 新しい身体に戸惑いながらも、 「生きていること」そのものを大切にするネムは、静かに世界を歩き始める。 弱そう? 地味? いいえ――草は世界に最も溢れる“最強素材”。 草を極めた少女が、やがて世界の常識を塗り替える。 最弱素材から始まる、成り上がり異世界ファンタジー!

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

処理中です...