危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

文字の大きさ
310 / 361
第5章:建国式典

第284話:叙爵式②

しおりを挟む
叙爵される貴族の入場が終わり、ハールさんたち王族が入ってきた。
王族といっても、今回はハールさんと3人の王子だけ。奥さんたちや、子どもたちは不参加のようだ。

「これより、叙爵式を執り行う」

アーマスさん・・・、ではなく第2王子のガインさんの司会により厳かに式は始まった。アーマスさんは、今回は叙爵される側だからかな?

「コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル殿」

爵位順。となれば、最初は私だ。
家族や部下、ゴーレムに囲まれていた場所から、前へと進む。
黒い装備を纏った騎士ゴーレム4体が、少し前に出て私に続き、ハールさんの座る玉座がある壇上の前で止まる。さすがに、ここに騎士ゴーレムをあげる気はない。

私が1人で前に進み、ハールさんの前に移動する。

「コトハ殿。思えば、最初に貴族となることを打診してから、いろいろあった」

・・・・・・確かに。魔獣・魔物の襲撃から、ガッドを守って、それからラシアール王国が割れる感じになって・・・
もっと辿れば、最初は私1人。カイトとポーラと一緒に暮らすようになって、レーベルが来て。貴族の話が出たのはその後だけど、転生してから数年の間にいろいろありすぎた。そして、王都に来てからも・・・・・・

「本当にね。王都に来てからも大変だったよ」
「いくら礼を言っても足りぬであろう。そして、これからも迷惑をかける」
「・・・お手柔らかに」
「可能な限り。・・・コトハ殿、いや、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル殿。貴殿に、大公位を授けたい。クルセイル大公として、カーラルド王国の安寧と発展を、支え見守ってくれることを願う」
「謹んでお受けいたします」
「感謝する」

ハールさんの差し出した右手をガッチリと掴み、握手を交わす。
そして、私がカーラルド王国の貴族であることを示す証、クルセイル大公家の家紋とカーラルド王国の国章が入った短剣を渡された。ちなみに、これは授与ではなく貸与らしく、貴族で無くなった場合には返す必要がある。

大昔に思えるが、アーマスさんと最初に出会った時。その頃は、ラシアール王国でバイズ辺境伯だったか。ガッドへ行ったときに身分を証明できると渡された短剣。あの短剣は、王家から貸与された公式の短剣とは関係無く、各貴族家が用意するものらしい。
作成・贈与・貸与の責任者は、各貴族家であり、所持していることでその貴族家の関係者であることを示すために使うらしい。うちも、帰ったらドランドと奥さんのカベアさんに頼んで作ってもらおう。

ちなみに、クルセイル大公家の家紋は3本の線が、右上から左下に向かって細くなっている感じのもの。背景は青色で、線は黒色だ。
イメージしたのは、『龍人化』した状態で、引っ掻いたときの傷。ドラゴンの姿を模した家紋は人気で、いろいろなパターンの家紋が既に存在していた。このタイミングで奪うこともできるらしいが、そんな波風立てることをする気も無いし、そもそもこれまで「○○家の家紋」と認識されていたものが、急に持ち主が変わっても違和感しかないだろう。
そんなわけで、いろいろ相談し考えた結果、こんな感じの家紋案ができた。それも、紋章官という家紋などの専門家に任せた結果、いい感じにしてくれた。こういう、模様調な家紋も珍しくはないようで、特に悪目立ちもしないとのことで、採用となった。

「クルセイル大公。貴殿を、『南方方面担当軍務顧問』に任ずる。クルセイル大公領以南、南のことは任せる」
「お任せを」

そう言って軽く会釈し、壇を降りようとすると、

「待たれよ、クルセイル大公」

と、ハールさんから待ったがかかった。
今日もらう予定のものはもらい終えたと思っていたのだが、

「クルセイル大公に子爵位を1つと男爵位を1つずつ預けることとする」

と、ハールさんが宣言した。
その宣言に、僅かに響めきが起こる。だが、さすがは高位貴族(予定者)。これが、謁見式のときのように全員出席であれば、もっと混乱したのだろう。特に、当の子爵や男爵となる者たちが・・・

今日もらえるとは思っていなかったので、帰ろうとしていたが、再び壇の中央へ戻り、ハールさんに向き直る。

「クルセイル大公領はクライスの大森林。今は、他の男爵領より狭いが、今後は東西そして南に向かって発展していく予定だと聞く。王宮としても、それを願っておる。領地が広がったときのことを考えると、先に爵位を預けておくのが妥当だと考えたのでな。無論、義務等に関しては、コトハ殿との約定に従うものとする。必要なときに、コトハ殿が選んだ人物に、適宜渡してくれれば良かろう。受けてくれるか?」
「・・・ええ。ありがたく」

ハールさんが用意していた理由を説明する。
子爵位と男爵位。これを求めたのは私だ。

いろいろあった王都滞在だが、建国式・叙爵式をもって、そのメインの用事は終了する。なんでも、数日後に全貴族出席の御前会議が行われるらしく、可能であれば出席してほしいとのことだった。まだ少し用も残っていたので、快諾したところだ。

そんなわけで、いくつかの用事は残っているものの、もう少ししたら帰ることになる。まだ話を詰めてはいないが、近いうちにカイトとキアラは王都に来ることになりそうだが、私は特に予定もない。
そこで、帰って何をするか、と考えた結果、森を開拓することにした。

開拓というと大袈裟だが、一先ずは現在の領都であるガーンドラバルを広げるか、より大きな町を南側に作ることを計画している。後は、西側に対ダーバルド帝国用の砦を建設する予定もある。
今回の王都への旅を経て、アルスたちのように新しくうちで暮らす人もいる。また、確認したわけではないが、ユイハさんたちも引き取る可能性が高い。そして、正式に大公となったことで、うちへ引っ越したいと考える人が増える、というのがマーカスやレーノ、後はラヴァの娘の5人の意見だった。仕事を求める人が多いだろうとのこと。森だけど・・・

そんなわけで、今のままの領都では手狭になるだろうとの結論に至った。
私が転生し生まれた場所は、今は領主の屋敷となっている中央の岩山の中にある洞窟だった。そこから離れることは少し寂しい気もするが、そこまで強い思い入れがあるわけでもない。
むしろ、何だかんだ探検できていなかった南側を見てみたいし、東に進んで海に出てみるのもいいかもしれない。更に進めばホムラの故郷である火山島もあるらしいし。

その話をしていたときに、領が拡大したときに備えて予め爵位を貰っておいてもいいのでは、という意見があり相談したところ、こうも簡単に爵位が貰えた。最初は自分の爵位を貰うことを渋っていた私が、何を今更という話なのだが・・・

この爵位を誰にあげるか、それは私の自由だ。もちろん、私や国に危害を加える恐れのある人物に爵位を渡す気はない。考えているのは、マーカスかレーノか、彼らの副官ポジションにいる人たちか・・・。要するに、広がった領地を一緒に統治してくれる人だ。

あるいは、キアラに渡すことも考えている。
キアラの場合は、少し理由が異なる。現在のキアラの身分は平民。カイトやポーラ、フォブスやノリスと仲が良いのは間違いなく、特にカイトとフォブスとは冒険者パーティを組んで活動もしている仲だ。
だが、この世界では身分が違うこと、とりわけ貴族と平民には大きな差がある。
私としては、今後もカイトたちと仲良くやってほしいし、身分差がその障害にはなってほしくない。

そう考えたときに、思いついたのがキアラを貴族にしてしまうことだった。もちろん、キアラの経験から、彼女が貴族に良いイメージを持ってないことは分かっている。
なので、キアラには伝えていないし、他の誰にも言っていない。完全な独り善がりな策であり、内に秘めているだけだ。
今後のキアラの進路や人間関係の変化、心情の変化の結果、貴族となることを望むのであれば、提案してみればいいと思う。

今回貰った子爵位と男爵位。これを誰に渡すかは、また時期が来たら考えればいい。それがマーカスたちなのか、キアラなのか、あるいは全く別の誰かなのか・・・
結果的に不要と考えたときは私が持ったままにしておくか、返してしまってもいい。今は、手段があるというだけで、身動きが取りやすくなると考えたのだ。


その後、予定通りに式は進行し、カーラルド王国の高位貴族と一部の下位貴族が正式に叙爵された。
私は、カーラルド王国最高位の貴族で唯一の大公、そして『南方方面担当軍務顧問』に就任した。


しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

追放された悪役令嬢が前世の記憶とカツ丼で辺境の救世主に!?~無骨な辺境伯様と胃袋掴んで幸せになります~

緋村ルナ
ファンタジー
公爵令嬢アリアンナは、婚約者の王太子から身に覚えのない罪で断罪され、辺境へ追放されてしまう。すべては可憐な聖女の策略だった。 絶望の淵で、アリアンナは思い出す。――仕事に疲れた心を癒してくれた、前世日本のソウルフード「カツ丼」の記憶を! 「もう誰も頼らない。私は、私の料理で生きていく!」 辺境の地で、彼女は唯一の武器である料理の知識を使い、異世界の食材でカツ丼の再現に挑む。試行錯誤の末に完成した「勝利の飯(ヴィクトリー・ボウル)」は、無骨な騎士や冒険者たちの心を鷲掴みにし、寂れた辺境の町に奇跡をもたらしていく。 やがて彼女の成功は、彼女を捨てた元婚約者たちの耳にも届くことに。 これは、全てを失った悪役令嬢が、一皿のカツ丼から始まる温かい奇跡で、本当の幸せと愛する人を見つける痛快逆転グルメ・ラブストーリー!

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

処理中です...