危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

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第6章:龍族の王女

第292話:森の中での訓練

「交代だ。第2班、前に出ろ」

マーカスの指示で、4人の騎士が前に出る。1人が、成人男性でも屈めば身体がスッポリと入る大きさの盾を構えて前を歩き、両サイドに身長よりも長い槍を構えた2人がつく。3人の後ろを、片手で扱うのが困難な重さを誇る大剣を携えた1人が続く。

現在、騎士の訓練中。
領都の南側の地形調査、魔獣・魔物の生態調査などを兼ねて、最近領都の南で発見された湖を目指し、新人騎士を中心に30人ほどで進んでいる。

私の両サイドには、王都で青色に染めた2体の騎士ゴーレムの改良版が、前を進む騎士が持つよりも大きく、重い盾を構えて歩いている。
この訓練は、少し前に始まり定期的に行われているのだが、私が一緒に行きたいと我が儘を言い続け、マーカスに勝利した。その条件として、ドランドの改良のおかげで、より防御に特化した騎士ゴーレム2体の横にいることを出されたのだが。
・・・まあ、この場で一番強いのが私であることも、最悪の場合でも飛んで逃げられることも把握した上で、「騎士団の長として、あなたの配下としての措置です」と強く言われては、反論できない。
私としては、騎士団の訓練に興味があったのと、南側の散策がしてみたかったのだ。許してほしい、マーカス・・・


数回の戦闘を終えると、次の班へと交代する。今回は、王都から帰ってから雇った騎士を中心に、新人の騎士の武器の練度を上げること、魔獣・魔物との戦闘でも問題なく武器が使えるようになることを目的としている。咄嗟の場合に、盾を用いて仲間の騎士や護衛対象を守ることも必要ということで、盾を装備した騎士ゴーレムと一緒ではなく、盾役も騎士が担っている。

「盾! カバーが遅い!」
「右の槍! 今のは一撃で沈めろ! 次の機会があると思うな!」

マーカスや、指導役として同行している騎士の檄が飛ぶ。
私は、騎士の戦闘のことなど分からないので、黙って見ているだけ。ただ、自分たちの最高司令官である領主が、騎士の、それも危険な外での訓練を見学しているというのは、騎士にとっては誉れであると同時に、とても緊張することらしい。その実、全く恐怖などは感じていないし、むしろ見たことのない魔獣が出てくることを楽しみにしているくらいなのだが、そんなことを言ってはいけない。

「よし! 交代しろ!」

次の班になり、盾役の右で槍を構えたのはヒロヤ君だ。
藤嶋君たちのことは、この世界に倣って下の名前で呼ぶことになった。近しい人たちは、彼らの事情を把握しているし、何なら私との関係も理解しているので、名字で呼んでも違和感ないだろうが、外から見たときの不自然さは否めない。別に呼ぶことに問題はないので、そうなった。

騎士団に入団したヒロヤ君だが、召喚されたときに身に付き、ダーバルド帝国からカーラルド王国に逃げる途中で同行した冒険者に使い方を教わったという『身体強化』は、それなりのレベルのものだった。
格闘術の基礎の基礎は教わったようで、カイトとも少しだけやり合えた。・・・いや、実際に戦いになったのは数十秒、いやカイトが本気でやっていれば瞬殺だったか・・・
この世界では羨望の眼差しを受けるであろう飛び抜けた能力を身に付けたものの、平和な日本で暮らし、野球に打ち込んでいた彼には戦いの心得など無かった。いや、無くて当然ではあるのだけれど・・・

騎士になった以上は、単純な強さに加えて、様々な武器の扱いが必要になる。格闘術はもちろん、大きな魔獣・魔物との戦闘に向いた大剣や、騎士が携えている長剣、万が一の場合の短剣、どの場面でもそれなりに重宝する槍、飛び道具として弓、防御手段としての盾・・・

その道の第一人者になることまでは求めないものの、基本的な技術、動きは身に付けなければならない、というのがマーカスたち騎士団上層部の考えだ。
そのため、ヒロヤ君も他の騎士に交じり、カイト曰く「地獄」というトレーニングと訓練に励んでいる。彼自身もそれを望んだのだから、応援するほかない。元々は後輩で知り合いだったけれど、騎士団に入った以上は、いたずらに贔屓するわけにもいかない。


 ♢ ♢ ♢


森に入って3時間ほど。目的である湖に到着した。
これまでに遭遇したのは、お馴染みのウサギやトラ。後は、オークやゴブリンといった、この森基準では雑魚もちらほらと。迷い込んだか何かで、奇跡的に生き延びていたんだろう。

湖の畔で休憩していると、

「警戒!」

1人のベテラン騎士が叫び、次いで湖の中に大きな影が現れた。
その影は、徐々に水面に近づき、やがてハッキリと姿形が認識できるようになった。

「・・・トカゲ?」

のそのそ、といった音が聞こえそうなゆっくりとした動きで、湖から這い出てきたのは、四足歩行のトカゲ。4本の足は短く—といっても人の身長と良い勝負だが—太い。長細い顔で、口からは絶えず、これまた長い舌がニョロニョロとしている。

 ♢ ♢ ♢

『マッディーモニター』

泥の中や水の中で生活するトカゲ型の魔獣。
『水魔法』と『土魔法』を得意とし、獲物を泥や水の中に引きずり込んで捕食する。

 ♢ ♢ ♢

うん、トカゲ。
一瞬、竜との関連性を疑ったが、どうやら関係ない様子。
ホムラたち『古代火炎竜族』はもちろん、その配下の『火炎竜族』や『赤竜』とは、オーラや雰囲気などがまるで違う。

「総員、戦闘配置! 訓練生は下がりバックアップ。ローリ、ベム、騎士ゴーレムと共に前に出ろ!」

ここまで戦ってきたウサギやトラとは違う、巨大な魔獣の登場に少し驚きザワついた騎士たちだったが、マーカスの指示でキビキビと動き出す。

「マーカス。あの魔獣、『マッディーモニター』って名前らしいけど、見たことあるの?」
「いえ。名前も初めて聞きました。ここを発見した騎士たちの報告にもありませんでした」

だよね。私も聞いた覚えがない。
その見た目通り、今のところは動きが遅そうだけど、ここぞという場面で俊敏な動きをすることがあるのは、動物も魔獣も同じ。ましてや初見の相手だ。油断はできない。

ゆっくりとこちらに近づいてくる『マッディーモニター』は、

「ジャァァァァ」

と、威嚇するように鳴き、徐々に舌の動きが加速している。

そして、

「魔法が来る!」

魔力の高まりを感じ、咄嗟に叫んだのと同時、口の周りに茶色い球体が複数出現し、前に出ていた2人の騎士と4体の騎士ゴーレム目掛けて発射された。

球体は騎士ゴーレムの持つ盾に命中し、弾け飛んだ。
弾けて分かったその正体は、泥。泥団子のようなものを高速でぶつけてきたようだ。
一瞬、「泥か」と安堵しかけたが、直ぐに間違いだったと気付く。
騎士の盾に命中した泥は弾け、2人と4体の足下に泥が降り注いでいる。泥は武器に、鎧に、そして顔に付いており、騎士たちの動きと視界を制限している。
泥弾をもろに受けた騎士ゴーレムは、足下に広がる泥のせいで、その場から動けなくなっている。

「総員、攻撃開始! ローリ! ベム! 騎士ゴーレムは捨て置き、下がれ!」

マーカスは叫びながら、自身の背中に装備していた大きな剣を抜き、軽々と片手で振り上げて『マッディーモニター』に向かって走り出す。
他の騎士たちは、マーカスの動きを邪魔しないように牽制し、魔法や矢を放っている。そして、数人の騎士が泥弾を浴びた2人の回収に向かう。
私の横にいる騎士ゴーレムは、既に一歩前に出て盾を構えている。直ぐ近くには、騎士が2人待機し、剣を構えている。

『マッディーモニター』の足下までダッシュし、飛び上がったマーカスが、その首元目掛けて剣を振り下ろす。
彼の『身体強化』と筋肉、そしてドランドと私の手による魔法武具の大剣をもってすれば、『マッディーモニター』の首は・・・

「なに!?」

鋭い剣先で、『マッディーモニター』の首と胴とが泣き別れするかに思えたが、その身体を覆うヌメヌメした体液に、剣先がとられ、滑ってしまった。
マーカスは、攻撃が失敗したと分かると直ぐに後退しているので、首を振った『マッディーモニター』に攻撃されることはなかった。

ローリ、ベムの2人は、何とか脱出している。泥に足を取られた騎士ゴーレムの直ぐ近くに、『マッディーモニター』が迫る。

「マーカス!」

私が叫ぶと、

「総員! コトハ様の前を開けろ!」

と、理解したマーカスが叫ぶ。

騎士たちが退いたのを確認し、

「いっけぇぇ!」

両サイドの騎士ゴーレムの前に出た私は、両手を変化させ魔力を集め、『マッディーモニター』目掛けて炎の渦を放った。

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