危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

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第6章:龍族の王女

第293話:濡れていない箇所

私の放った炎の渦は、狙い通り『マッディーモニター』の顔に直撃した。
マーカスの攻撃が通じなかったのを見て、斬撃を与えるタイプの攻撃ではなく、炎を選択した。上手くいけば、『マッディーモニター』の体表を覆うヌメヌメしたものが乾くことを期待しつつ・・・

私の放った炎が消えると、そこには変わらぬ様子でこちらを睨みつける『マッディーモニター』の姿があった。特に怪我をしている様子も火傷を負っている様子もない。


「ジャァァァァ」

『マッディーモニター』が再び鳴き、身体を震わす。すると、身体の至る所から何か液体が溢れてきているのが見えた。
水にしては粘り気があって、直ぐに流れ落ちることなく、そのまま身体に残っている。

「コトハ様! コトハ様の攻撃で、一部ですが乾いたようになりました。直ぐに、体内から何かを出して、また身体を覆いましたが・・・」

近くで観察していた1人の騎士が報告してくれた。
つまり、狙いは正しかったわけだ。炎を当てられて、身体を覆っていた液体が乾いたのか吹き飛んだのかは知らないが、少なくともヌメヌメしたものが消えた。体液かな?
消えることによって剣などの攻撃が通じることになるのかは分からないが、ダメージを与える糸口を掴めたかもしれない。直ちに体液を放出して、ヌメヌメ状態を回復させたことが、それを物語っている。

「じゃあ・・・」

再び炎を当てようと、提案しかけたその時だった。

「ジャァァァァァァァァァ」

これまでよりも強く鳴いた『マッディーモニター』が、私目掛けて突っ込んできた。

「コトハ様!」

誰か騎士が叫ぶのと同時、私は空中へと避難した。

「ドンッ!!!」と鈍い音がして、私の護衛の青い騎士ゴーレム2体が、『マッディーモニター』を正面から盾で受け止めた。
『マッディーモニター』の動きは止まったが、もの凄い力で押しているようで、騎士ゴーレムが徐々に押され、後ろに下がり始めている。

『マッディーモニター』が突っ込んできた動線上で泥に足を取られていた騎士ゴーレムは、『マッディーモニター』に挽きつぶされたようで、いくつか残骸が転がっているのが見える。
巻き込まれた騎士がいなくてよかった。

騎士ゴーレムが引きつけている間に、マーカス以下騎士たちが、各々攻撃を加えるが、絶えず流れている体液のせいで、攻撃が通る様子はない。
『火魔法』を使える騎士による『火球』でも、一瞬、体表を乾かすことはできるのだが、直ぐに元通りになってしまう。
私の攻撃では、乾く範囲が広かったからなのか最初だったからなのか、意識的に液体を出していたようだが、基本的には一定量が絶えず流れ出ている感じか・・・

私へのヘイトが切れたことを確認し、マーカスの近くに降りる。

「コトハ様、ご無事ですか?」
「大丈夫。それより、どうする? 現状、こっちの攻撃全く通じてないけど」
「はい。先ほどのコトハ様の攻撃により、体液を除去できたタイミングであれば可能性はあったのかもしれませんが・・・」
「もう一回撃つ?」
「・・・・・・はい。ですが、どうにか攻撃するタイミングを合わせませんと。また、濡らされては同じです。いつまで、騎士ゴーレムが保つかも分かりません」
「そうなんだよねー・・・」

『マッディーモニター』と騎士ゴーレムの押し合いは膠着状態。
見れば、騎士ゴーレムに充填されている魔力がどんどん減っている。一方の『マッディーモニター』も、かなりの力で押し続けているはずで、どこかで体力の限界が来るとは思う。
騎士たちの攻撃は全く通用せず、マーカスがこちらに意識を向けさせないために、中止させた。
そんな中、

「騎士団長」

1人の騎士が、マーカスのもとに来た。

「レルシュ。どうした?」
「はっ。先ほど、奴が突進している際に見たもので、報告したいことが」
「話せ」
「奴の身体は、体液で覆われていますが、足の裏はそうではありませんでした。殿下の攻撃により、体液が乾いた際と同じ状態でした」
「なるほど、足の裏か・・・」

足の裏は乾いているのか・・・
もしかしたら、足の裏までベトベトだと、歩きにくいのかもしれない。確かに『マッディーモニター』が大きく動いた場所には、体液と思われる液体が落ちているのだが、足跡を見ても、そんな様子はない。単に、身体の大きさや重さから、大きな足跡が残っているだけだ。

となると、『マッディーモニター』が走っているところを下から刺せばいけるかも?
タイミングは難しいが、『マッディーモニター』が踏み込む瞬間に、地面から棘のようなものを出現させれば・・・
未だ、ダメージというダメージを与えられていないことを考えると、足裏だろうがダメージを与えられることは大きい。『マッディーモニター』の意識がそちらに逸れるかもしれないし、上手くいけば足を地面に縫い付けて、動きを封じることができるかもしれない。


「コトハ様」
「うん、いけるかも。もう一度、アイツを走らせれば・・・。それに合わせて、地面から棘を出して刺す感じで攻撃はできると思う」
「分かりました。アイツに走らせるとなると・・・」
「私が、炎の渦でも当てるのが簡単かな?」
「・・・・・・我々の不甲斐なさを恥じるばかりですが、『マッディーモニター』が、強く攻撃を加える対象と認識しているのは、コトハ様だけのようです。お願いいたします」
「任せて。1つ足を縫い付けたら、残りの足も同じように下から突き刺して身動きを取れなくする。幸い、足はそれほど長くないから、長い棘で抜けないようにしちゃうね。後は、首辺りに炎を当てて一瞬乾かすから、最後はお願いね?」
「必ずや、ご期待にお応えいたします」
「うん、任せた」

マーカスが騎士たちに指示を出すのを確認し、騎士ゴーレムを見ると、ほとんど魔力が残っていなかった。
魔力を溜めている魔石の大きさは、基本的な騎士ゴーレムと同じとはいえ、あっという間に魔力が空になるなんて・・・
魔力が無くなった瞬間、騎士ゴーレムは挽きつぶされるのだろうが、今回は仕方がない。力比べをしている相手がいなくなった瞬間こそ、私に注意を向けさせる絶好の機会だ。


「がらがら」という音がして、相次いで2体の騎士ゴーレムがバラバラになった。
騎士ゴーレムを全力で押していた『マッディーモニター』は、騎士ゴーレムを挽きつぶしたままの勢いで大きな木にぶつかり、これまた幹を粉々にしていた。
そして、頭を振り、降ってきた葉や枝を払い、こちらを見た。間違いなく、目が合った。

「もう一回行くよ!」

そう叫びながら、再び炎の渦を放つ。逸れれば森に向かって炎を放つことになるが、『マッディーモニター』がデカすぎて、外れることはない。

私が撃った瞬間、『マッディーモニター』は一瞬立ち止まり、そして突進を始めた。
迫り来る炎の渦に向かって一直線。先ほどは、直ぐに回復したのもあって、「鬱陶しいが脅威ではない」とでも判断したのだろうか?

だが、私の狙い通りだ。
突進を始めた瞬間、炎の放出を止める。神経を魔力の操作と感知に全集中させ、『マッディーモニター』が次に踏む場所を特定する。

「今!」

そう叫び、地面に手をつき魔力を流す。

「ジャァァァァ」

これまでとは違う、悲鳴のような鳴き声。
『マッディーモニター』の踏み込んだ左前脚の平の中央から、茶色い円錐状の棘が突き出していた。

「ジャァァァァ」

大きな声を上げて暴れる『マッディーモニター』だが、とにかく硬く鋭く作った棘が、折れる様子はない。
それを確認し、残りの3本の足も、1つずつ確実に地面に縫い付けていく。

騎士たちは4本の足に分かれ、棘が折れないか見張りつつ、『マッディーモニター』の動きを警戒している。初見の魔獣だし、動きを観察することも重要な仕事の1つだ。
『マッディーモニター』の意識は、手足に向いているようで、身体を動かし、どうにかして脱出を試みているが、逃げることはできなさそうだ。
後は倒すだけ・・・

「マーカス、準備は?」
「いつでも大丈夫です」
「よし、行くよ!」

再び飛び上がり、『マッディーモニター』の首が狙える場所へと移動する。
『マッディーモニター』の意識が手足に向いているせいか、身体から出ている体液の量が減っている気がする。それでもいくらかは出続けており、私が撃ってからマーカスが攻撃するまでの間隔は短い方がいいだろう。

マーカスを見て、アイコンタクトを交わす。
そして、

「『火炎放射』!」

タイミングを合わせるべく、魔法名を叫び、高火力で炎の渦をぶつける。

「はぁぁぁぁぁ!」

それに合わせ、マーカスが駆け、跳び上がり、




一刀両断。

「ぐしゃ」という音を立て、長く大きな首が、地面に落下した。
少しして、あれだけ暴れていた身体が力を失い、腹から地面に崩れ落ちた。

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