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第6章:龍族の王女
第300話:ダーバルド帝国の目的
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もはや抵抗する気は無いのか、硬い椅子の上に背筋を伸ばして座り、真っ直ぐにこちらを見据えるトマリック。どうも、ダーバルド帝国の軍人に対して抱いていたイメージに合わないんだけど・・・
「さて、と。この状況は、理解してるんだよね?」
「はい」
全てを覚悟しているのか、全く表情を変えない。
「それじゃあ、単刀直入に。どうしてあそこにいたの? 何の目的でうちの領地に?」
「・・・その、誠に申し訳ないのですが、あの地がクルセイル大公領の領地であることは、存じておりませんでした。我々も、我々に指示を出した者も。我々が受けた命令は、『クライスの大森林の調査』になります。特に、『クライスの大森林を通って、カーラルド王国に攻め入るルートを探せ』、と」
・・・んなことだろうと思ったよ。
「一緒にいた奴隷商人は?」
「・・・・・・その、なんというか・・・」
「・・・素直に、知ってることを全部答えなさい」
少しオーラを当ててみる。魔力に明るくない人でも、いわゆる殺意や恐怖を感じるといった感じの、動物的な感覚に触れるところがあるらしい。
「は、はい。あの連中は、私の上司に、その、賄賂を渡して・・・」
「賄賂?」
「おそらくは、クライスの大森林内で珍しい魔獣を捕獲したり、上手く町に出られたのなら、その、誘拐などを企てる予定だったのではないかと」
「・・・あなたたちと一緒にってのは、護衛代わりってこと?」
「はい。上からは連中を守るように指示されました。魔道具のおかげで、魔獣・魔物との遭遇は滅多にありませんが、偶然出くわした際は、我々を盾に・・・」
どうやら、仲間って感じではなさそう。軍や役所に賄賂が横行するのは、傾いている組織の典型だけど、ダーバルド帝国では普通なの?
私が質問をするのはこれで終わり。一番気になっていた、ダーバルド帝国の目的を急いで確認したかったのだ。
ここからは、騎士団の仕事。曰く、せっかくダーバルド帝国の軍人、それもそこそこ地位が高そうな者を拘束できたのだから、できる限りの情報を引き出して、国に恩を売ろうと。もちろん、ダーバルド帝国との最前線の1つになるうちにとって、ダーバルド帝国の情報が必要なのもあるけどね。
♢ ♢ ♢
一通り取調べを終え、マーカスとアーロンがやってきた。
「お疲れ様。結構長かったね」
「はい。トマリックはこちらの質問に完全に答える姿勢なのですが、その分情報量も多く」
アーロンが大量のメモのようなものを示しながら苦笑した。
「それでも、かなり興味深い情報が得られました」
マーカスは満足そう。
「そっか。それじゃあ、順にお願い」
「はっ。先ずはダーバルド帝国の目的から。大部分は先ほどコトハ様の前で話したものになります。補足として、ダーバルド帝国軍がクライスの大森林を抜けるルートに目を付けたことには、いくつかの理由がありそうです」
「理由?」
「はい。まずは、ジャームル王国との戦争の状況です」
「ジャームル王国がかなり押されてるって話だっけ」
直近の王都からの連絡では、快進撃を続けていたダーバルド帝国軍は、ジャームル王国の西側半分を制圧し、東にある大都市に迫る勢いだとか。
「それが、内情は少し違うようです。確かに、結果だけ見れば、ジャームル王国の西側の都市は制圧され、西側に領地を構える貴族は、寝返った者を除いて処刑され、ある程度の規模の都市には、ダーバルド帝国の統治官が入っているようです。ですが、かなり無理矢理戦線を拡大した結果、ダーバルド帝国軍の損耗も激しく、ジャームル王国の東にある大都市を攻める余力は残っていないとのことです」
なんとも、まあ。
無理矢理、強引に次々と都市を攻めたことで、ダーバルド帝国軍の兵士にも疲労が蓄積し、結果的には勝利するが、その被害は甚大。そんな戦闘を重ねれば、ダーバルド帝国軍の力はどんどん落ちていく。
「指揮官は馬鹿なの?」
思わずそんなコメントが出てしまった。
だが、
「指揮官、ではなく、その上にいる者でしょう。どこまで辿るのか。もしかしたら、最後までいくのかもしれませんが」
つまり、皇帝がどんどん進めろって指示してる可能性か。
「トマリックによれば、ここ最近実験に成功したという、『異世界人』と呼ばれる戦士、そして魔獣・魔物の部位を人体に融合させ類い希なる戦闘能力を有するに至った『魔人』と呼ばれる戦士。それらの戦士の活躍によって、ここまでの快進撃は演出されたようです。ですが、それら戦士の多くが、無理な戦闘を継続した結果、討ち取られ、あるいは自滅したと」
・・・・・・はぁ。
どちらの“戦士”とやらにも、大変心当たりがある。ほんと、心の底から反吐が出る。
「ごめん、話遮るけど、その『異世界人』や『魔人』について、それ以上の情報は持ってた?」
「いえ。彼は、『異世界人』や『魔人』とは共闘したことがなく、あくまで噂や軍議で聞いた程度の情報しか無いとのことです」
「そっか」
「ただ・・・」
「ん?」
「『異世界人』のうち2人は、かなりの戦闘能力を有し、戦果を上げ、ダーバルド帝国軍内での地位を上げているそうです。元々は、奴隷と同じ扱いだったそうですが、既にそこらの士官とは比べものにならない高位になるとか」
・・・・・・おそらく、1人は知り合いだろう。ヒロヤ君に聞いた話では、魔法の腕があり、どうとち狂ったのか、積極的に人を害していたそうだし・・・
「分かった。ごめん、話を戻して」
「はい。そんなわけで、ジャームル王国方面での侵攻にブレーキが掛かり、別ルートでの侵攻を考えたようです」
「それが、クライスの大森林か。そもそもさ、ダーバルド帝国が戦争する理由って?」
「それはよく分からないそうですが、ジャームル王国、カーラルド王国を倒し、東にある港や北側の港を得ることではないかと。また、トマリックによれば、ダーバルド帝国内の奴隷の数がかなり減少しており、両国の民を奴隷とすることを計画しているようです」
土地と人か。
「ダーバルド帝国は『人間』以外の種族を奴隷にしますが、『人間』であっても、奴隷にする場合があります。犯罪者などはもちろん、戦争し、滅ぼした国の民は全て奴隷とされます。そして、そういった奴隷に鉱山や最前線での奴隷兵などの役割を押しつけているのです。ですが、ジャームル王国での無理な戦闘などもあり、奴隷の数がかなり減少しているようです」
「・・・・・・もうさ、滅ぼしちゃわない? ダーバルド帝国」
「お望みとあらば」
我慢できずに吐き捨てた言葉に、マーカスが全く冗談と捉えた様子なく、応じる。
いや、実際ありだとは思う。こんな国、横にあるの迷惑以外の何ものでもないし・・・
「はぁ・・・。要するに、クライスの大森林を抜けて、カーラルド王国を攻める必要性が出てきた、と。それに向けた準備の一環として、地形調査ね。後は、上手くいったら奴隷が手に入るかもってことで、一緒にいた奴隷商人か」
「はい」
「ダーバルド帝国の目的は、大体予想通りだけど、本気度は思ってた以上かもね。トマリックたちの兵が1人も帰ってこなくても、第2、第3の調査隊を送ってくるかもしれない。いや、もう送ってるのかも」
「あり得ますな。むしろ、広大なクライスの大森林を調査するのに、高々100人ばかりというのは少なすぎます。今回の部隊規模を、後4、5個は放っていると見ておくべきでしょうな」
「うーん。そうすると、もっと森の中を捜索した方がいいか。そんだけいると、砦が見つかるのも時間の問題だろうけど、できる限りは知られずに済ませたいし。それこそ、そんだけ兵を送って、1人も帰ってこなかったら、それこそクライスの大森林経由の侵攻は諦めるかもしれないし」
「承知いたしました。直ちに、準備させます。ですが、さすがに想定される敵の数が多すぎます。つきましては、コトハ様にはできる限りの騎士ゴーレムを準備いただきたく」
「分かった。とりあえず、ここにいるのは全部起動して、戻ったら残りも起動しつつ、ドランドと数を増やすね」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ。オプスを襲ったのはトマリックと一緒にいた奴隷商人だった?」
「いえ。拘束した奴隷商人は、一度も離れてはいないそうです。ですが、4人の奴隷商人とその部下が、休憩中に無断で離れた結果戻らなかったと。調査の日程もあり、置き去りにしたそうです」
「じゃあ、そいつらがオプスを襲ったのかな。別に、どうでもいいか。そしたら2人は、騎士団の準備とここにいる捕虜をお願いね。私はホムラと戻って、今の情報をレーノと相談するから」
「「はっ」」
今回のを倒せばしばらく安心だと思っていたのは、考えが甘かった。ダーバルド帝国がクライスの大森林経由でカーラルド王国を目指すのであれば、これからどんどん敵が押し寄せてくる。
・・・・・・さっきは、イライラしただけだったけど、本格的に考えるべきかもしれないな。
「さて、と。この状況は、理解してるんだよね?」
「はい」
全てを覚悟しているのか、全く表情を変えない。
「それじゃあ、単刀直入に。どうしてあそこにいたの? 何の目的でうちの領地に?」
「・・・その、誠に申し訳ないのですが、あの地がクルセイル大公領の領地であることは、存じておりませんでした。我々も、我々に指示を出した者も。我々が受けた命令は、『クライスの大森林の調査』になります。特に、『クライスの大森林を通って、カーラルド王国に攻め入るルートを探せ』、と」
・・・んなことだろうと思ったよ。
「一緒にいた奴隷商人は?」
「・・・・・・その、なんというか・・・」
「・・・素直に、知ってることを全部答えなさい」
少しオーラを当ててみる。魔力に明るくない人でも、いわゆる殺意や恐怖を感じるといった感じの、動物的な感覚に触れるところがあるらしい。
「は、はい。あの連中は、私の上司に、その、賄賂を渡して・・・」
「賄賂?」
「おそらくは、クライスの大森林内で珍しい魔獣を捕獲したり、上手く町に出られたのなら、その、誘拐などを企てる予定だったのではないかと」
「・・・あなたたちと一緒にってのは、護衛代わりってこと?」
「はい。上からは連中を守るように指示されました。魔道具のおかげで、魔獣・魔物との遭遇は滅多にありませんが、偶然出くわした際は、我々を盾に・・・」
どうやら、仲間って感じではなさそう。軍や役所に賄賂が横行するのは、傾いている組織の典型だけど、ダーバルド帝国では普通なの?
私が質問をするのはこれで終わり。一番気になっていた、ダーバルド帝国の目的を急いで確認したかったのだ。
ここからは、騎士団の仕事。曰く、せっかくダーバルド帝国の軍人、それもそこそこ地位が高そうな者を拘束できたのだから、できる限りの情報を引き出して、国に恩を売ろうと。もちろん、ダーバルド帝国との最前線の1つになるうちにとって、ダーバルド帝国の情報が必要なのもあるけどね。
♢ ♢ ♢
一通り取調べを終え、マーカスとアーロンがやってきた。
「お疲れ様。結構長かったね」
「はい。トマリックはこちらの質問に完全に答える姿勢なのですが、その分情報量も多く」
アーロンが大量のメモのようなものを示しながら苦笑した。
「それでも、かなり興味深い情報が得られました」
マーカスは満足そう。
「そっか。それじゃあ、順にお願い」
「はっ。先ずはダーバルド帝国の目的から。大部分は先ほどコトハ様の前で話したものになります。補足として、ダーバルド帝国軍がクライスの大森林を抜けるルートに目を付けたことには、いくつかの理由がありそうです」
「理由?」
「はい。まずは、ジャームル王国との戦争の状況です」
「ジャームル王国がかなり押されてるって話だっけ」
直近の王都からの連絡では、快進撃を続けていたダーバルド帝国軍は、ジャームル王国の西側半分を制圧し、東にある大都市に迫る勢いだとか。
「それが、内情は少し違うようです。確かに、結果だけ見れば、ジャームル王国の西側の都市は制圧され、西側に領地を構える貴族は、寝返った者を除いて処刑され、ある程度の規模の都市には、ダーバルド帝国の統治官が入っているようです。ですが、かなり無理矢理戦線を拡大した結果、ダーバルド帝国軍の損耗も激しく、ジャームル王国の東にある大都市を攻める余力は残っていないとのことです」
なんとも、まあ。
無理矢理、強引に次々と都市を攻めたことで、ダーバルド帝国軍の兵士にも疲労が蓄積し、結果的には勝利するが、その被害は甚大。そんな戦闘を重ねれば、ダーバルド帝国軍の力はどんどん落ちていく。
「指揮官は馬鹿なの?」
思わずそんなコメントが出てしまった。
だが、
「指揮官、ではなく、その上にいる者でしょう。どこまで辿るのか。もしかしたら、最後までいくのかもしれませんが」
つまり、皇帝がどんどん進めろって指示してる可能性か。
「トマリックによれば、ここ最近実験に成功したという、『異世界人』と呼ばれる戦士、そして魔獣・魔物の部位を人体に融合させ類い希なる戦闘能力を有するに至った『魔人』と呼ばれる戦士。それらの戦士の活躍によって、ここまでの快進撃は演出されたようです。ですが、それら戦士の多くが、無理な戦闘を継続した結果、討ち取られ、あるいは自滅したと」
・・・・・・はぁ。
どちらの“戦士”とやらにも、大変心当たりがある。ほんと、心の底から反吐が出る。
「ごめん、話遮るけど、その『異世界人』や『魔人』について、それ以上の情報は持ってた?」
「いえ。彼は、『異世界人』や『魔人』とは共闘したことがなく、あくまで噂や軍議で聞いた程度の情報しか無いとのことです」
「そっか」
「ただ・・・」
「ん?」
「『異世界人』のうち2人は、かなりの戦闘能力を有し、戦果を上げ、ダーバルド帝国軍内での地位を上げているそうです。元々は、奴隷と同じ扱いだったそうですが、既にそこらの士官とは比べものにならない高位になるとか」
・・・・・・おそらく、1人は知り合いだろう。ヒロヤ君に聞いた話では、魔法の腕があり、どうとち狂ったのか、積極的に人を害していたそうだし・・・
「分かった。ごめん、話を戻して」
「はい。そんなわけで、ジャームル王国方面での侵攻にブレーキが掛かり、別ルートでの侵攻を考えたようです」
「それが、クライスの大森林か。そもそもさ、ダーバルド帝国が戦争する理由って?」
「それはよく分からないそうですが、ジャームル王国、カーラルド王国を倒し、東にある港や北側の港を得ることではないかと。また、トマリックによれば、ダーバルド帝国内の奴隷の数がかなり減少しており、両国の民を奴隷とすることを計画しているようです」
土地と人か。
「ダーバルド帝国は『人間』以外の種族を奴隷にしますが、『人間』であっても、奴隷にする場合があります。犯罪者などはもちろん、戦争し、滅ぼした国の民は全て奴隷とされます。そして、そういった奴隷に鉱山や最前線での奴隷兵などの役割を押しつけているのです。ですが、ジャームル王国での無理な戦闘などもあり、奴隷の数がかなり減少しているようです」
「・・・・・・もうさ、滅ぼしちゃわない? ダーバルド帝国」
「お望みとあらば」
我慢できずに吐き捨てた言葉に、マーカスが全く冗談と捉えた様子なく、応じる。
いや、実際ありだとは思う。こんな国、横にあるの迷惑以外の何ものでもないし・・・
「はぁ・・・。要するに、クライスの大森林を抜けて、カーラルド王国を攻める必要性が出てきた、と。それに向けた準備の一環として、地形調査ね。後は、上手くいったら奴隷が手に入るかもってことで、一緒にいた奴隷商人か」
「はい」
「ダーバルド帝国の目的は、大体予想通りだけど、本気度は思ってた以上かもね。トマリックたちの兵が1人も帰ってこなくても、第2、第3の調査隊を送ってくるかもしれない。いや、もう送ってるのかも」
「あり得ますな。むしろ、広大なクライスの大森林を調査するのに、高々100人ばかりというのは少なすぎます。今回の部隊規模を、後4、5個は放っていると見ておくべきでしょうな」
「うーん。そうすると、もっと森の中を捜索した方がいいか。そんだけいると、砦が見つかるのも時間の問題だろうけど、できる限りは知られずに済ませたいし。それこそ、そんだけ兵を送って、1人も帰ってこなかったら、それこそクライスの大森林経由の侵攻は諦めるかもしれないし」
「承知いたしました。直ちに、準備させます。ですが、さすがに想定される敵の数が多すぎます。つきましては、コトハ様にはできる限りの騎士ゴーレムを準備いただきたく」
「分かった。とりあえず、ここにいるのは全部起動して、戻ったら残りも起動しつつ、ドランドと数を増やすね」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ。オプスを襲ったのはトマリックと一緒にいた奴隷商人だった?」
「いえ。拘束した奴隷商人は、一度も離れてはいないそうです。ですが、4人の奴隷商人とその部下が、休憩中に無断で離れた結果戻らなかったと。調査の日程もあり、置き去りにしたそうです」
「じゃあ、そいつらがオプスを襲ったのかな。別に、どうでもいいか。そしたら2人は、騎士団の準備とここにいる捕虜をお願いね。私はホムラと戻って、今の情報をレーノと相談するから」
「「はっ」」
今回のを倒せばしばらく安心だと思っていたのは、考えが甘かった。ダーバルド帝国がクライスの大森林経由でカーラルド王国を目指すのであれば、これからどんどん敵が押し寄せてくる。
・・・・・・さっきは、イライラしただけだったけど、本格的に考えるべきかもしれないな。
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