危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル

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第6章:龍族の王女

第304話:検討に検討を重ねて

~ダン・フォン・カーラルド視点~

「それでは、頼んだぞ」
「はっ」

敬礼して出て行く1人の近衛騎士を見送り、山ほどある書類に視線を戻す。
コトハ殿への状況の報告と、捕虜の引き取りの交渉のために、彼女とも面識のあるサイル伯爵の三男で、私付きの近衛騎士であるバンをクルセイル大公領へと送った。一緒に、軍部の担当士官もクルセイル大公領へ向かうように命じた。
彼らは先着し、後に到着する捕虜の移送部隊とクルセイル大公領との橋渡しをする予定だ。

「・・・それにしても、今回の情報は貴重なものでしたな」

横で同じく書類に埋もれるバール侯爵が、いくつかの書類を片付けながら話す。

「そうだな。特に、今のダーバルド帝国の内情を知る手掛かりを確保できたのは大きい。そして、今の時点で我が国の対ダーバルド帝国政策が大きく変わるだけの情報があるわけだ」

これまでのダーバルド帝国についての情報は、宰相麾下の諜報部がダーバルド帝国やジャームル王国に潜入し集めた情報、ダーバルド帝国と戦闘を重ねているジャームル王国から得た情報が主であった。
ジャームル王国には、ダーバルド帝国兵の捕虜もいるのだろうが、ジャームル王国は対ダーバルド帝国戦に我が国を引っ張り込むための交渉材料として用いるため、この情報は得られていなかった。
それが今回、クルセイル大公領の騎士団がダーバルド帝国軍を捕虜とした。しかも、部隊を率いていた隊長は、かなり協力的な姿勢を示しているらしい。

「ホムラ殿によれば、その隊長とやらは帝国に相当の不満を持っているようだな」
「はい。聞くところによれば、かなり模範的な軍人のようでしたのに。その者が、部下の助命を求めるためとはいえ、帝国の内情や機密に至るまで、包み隠さずに説明しているというのは・・・。よほど、帝国、軍部に問題があるのでしょうな」

バール侯爵の言うとおりだろうな。
その隊長について聞くかぎりは、本来は死んでも口を割らないようなタイプに思える。もちろん、部下の命に責任を負う立場ではあるが、国の詳細な内情や機密まで話せば、それはより多くの同僚、部下、そして国民に危険が及びかねない。そのことを理解できないタイプではないと思われるし、国には見切りをつけたのであろう。

「殿下。詳細はクルセイル大公殿下より、捕虜を引き取ってからになりますが、対ダーバルド帝国戦略を再考するときかもしれませぬ」
「そうだな。ホムラ殿の話は陛下や宰相も聞いている。軍部としても、今後の対応について検討し、報告・提案できるようにしておくべきだな・・・。バール侯爵。至急、軍部の貴族を召集してくれ。方針を検討したい」
「御意」


 ♢ ♢ ♢


2日後、軍部に属する貴族を集め、ホムラ殿の話を伝えた。
反応は予想通りだ。
これまでダーバルド帝国については、奴隷の確保が難しくなっているという問題には直面しているものの、他の世界から召喚した者や魔獣などの部位を融合し改造した人間兵器を用いて、圧倒的な戦力を誇っていると考えていた。今回のジャームル王国との戦争も、悲願である海に面した土地の獲得、そして奴隷とするジャームル王国の確保が目的であるとだろうと。
しかし、ジャームル王国の西側を併呑した時点で、新戦力の多くを失い、一般の兵にも重大な被害が生じている。ジャームル王国の東側、王都と第2の都市であるルメンをいつ攻めるのかが最大の注目点であったが、どうやら機を窺っているのではなく、戦力を欠いている様子。その結果行き着いたのが、南側からクライスの大森林を経由して我が国を攻めるルート、というのは理解しがたいが・・・

「今こそ、ダーバルド帝国を攻め落とす好機ではないでしょうか」

さっそく、1人がそう切り出す。まあ、そのような意見が出ることは想定していた。

「ですが、ダーバルド帝国を攻めるメリットがあるでしょうか」

反対意見だ。
現在、我が国としてはクルセイル大公領への軍の侵入、戦闘を捉えて、ダーバルド帝国と戦争状態に入ったとみなすこともできるが、向こうは違うだろう。他にも部隊がいるらしいので流動的だが、今の段階では森で魔獣・魔物に襲われて全滅したと見なしている可能性も高い。
そんな状況で、わざわざこちらから攻めるメリット。国境が接しているとはいえ、クラリオル山を間に挟んでいるし、今回の話を受ければなおのこと、早期にダーバルド帝国が我が国を攻めてくるとは想定しがたい。

考えている間にも、様々な意見が出ている。
聞いているところでは、静観の姿勢を示す方が多いか。ここにいる貴族の多くは、自分の治める領地がある。ようやく建国のゴタゴタが片付き、ようやく自領の整備、発展に向けて動き出したタイミングで、戦争はしたくないのだろう。・・・俺もそうだ。

だが、

「攻めるメリットは多くなかろう。だが、ダーバルド帝国の行く末については、慎重に考えておく必要があるだろう」

バール侯爵が告げる。
一呼吸置いて、

「皆も知っておろうが、ジャームル王国の戦火から逃れようと、ジャームル王国から我が国に入る者が増えておる。応急措置として軍を派遣したはいいが、これへの対応も定まってはおらぬ」
「・・・そんな状況で、ダーバルド帝国が内部から崩壊でもしたら、我が国への影響も大きい」
「ええ」

はぁ・・・。頭が痛くなるばかりだ。

「いろいろ想定せねばなりませぬな。その上で、我が国が積極的に攻め入ることも含めて、最後は陛下にご裁可いただくことになるかと」
「そうだな・・・。だが、我々は、軍部に属する者の責任として、どの策が最善であると考えるか、少なくともその理由は説明できねばならん」
「仰せの通りです」

俺とバール侯爵のやり取りを聞いて、貴族たちもこの会議の趣旨を本当の意味で理解した様子。
別に、必要とあれば、それが我が国にとって最善であれば、ダーバルド帝国を攻めることもあり得よう。だが、他の可能性を検討した上で、それが最善であると、最終的な判断を下す親父・・・、陛下を説得せねばならない。


「ダーバルド帝国が、ジャームル王国から奪った土地については、ジャームル王国が取り返す機会を窺っているのではないでしょうか」
「いや、ジャームル王国は恥も無く我々への助力を願い続けている。いくらダーバルド帝国が弱体化しているとはいえ、失った国の半分を取り返すような力はないのではないか?」
「ダーバルド帝国の帝都を攻める方法はともかく、その後はどうする? クラリオル山で隔てられた状態で、ダーバルド帝国の国土の統治などできるわけがなかろう」
「そもそも、ダーバルド帝国の民の思想は、我々とは相容れぬわ! 我が国の民はもちろん、貴族の中にも多くの種族やその末裔がおるのだぞ。一体、どのように統治するというのだ・・・」
「だが、こちらの与り知らぬ状態で、ダーバルド帝国で大きな政変が起きるのは・・・。閣下の仰った難民については、ジャームル王国からの難民への対応で手一杯だというのに」

うーむ・・・・・・・・・
分かってはいたが、難しい。それぞれが主張する内容、どれも聞くべき点がある。まあ、故に意見が分かれるのだが。

一応、意見が出尽くしたようなので、

「皆の意見は理解した。直ぐに纏まるわけでもなかろう。それぞれ、自らの仕事を進めておくのだ。加えて、ダーバルド帝国、ジャームル王国の情報には気を配るように。特に、北側や西側に領地を持つ者たちは、自領に入ってくる者の中に、両国から来た者がいないか注意せよ」
「「「はっ」」」
「サイル伯爵。騎士団長が北に向かっている今、王都に残る国軍の実質的な指揮はお主に任せる」
「承知いたしました」
「バーン侯爵。至急、各領を治める貴族たちに、出兵に備えるよう通達を」
「御意」


 ♢ ♢ ♢


親父や兄貴らがいる会議において、軍部の会議で検討した内容を、一応報告した。
親父たちも、ホムラ殿の報告を受けて、検討を重ねていたようだ。
そして、

「では、軍を出す、と?」

どうやら、これ以上の国境沿いの混乱を最も警戒しているらしい。

「いや、そこまで決めているわけではない。お前の言うように、今はダーバルド帝国まで攻め入るメリットも無いしな。だが、これ以上、ジャームル王国との国境沿いが荒れるのは困る。ジャームル王国とダーバルド帝国の戦争状態が長きに渡り継続すれば、ジャームル王国を経由して行っている西側の国々との交易にも影響が大きい」
「はい、それは理解しております」
「ああ。そこでだ、ジャームル王国がダーバルド帝国を追い出すのに手を貸す案も考えておる」

ジャームル王国の奪われた土地を取り返すのに手を貸す?
ガイン兄貴が続けて、

「もちろん、ジャームル王国には、同国内を経由し我が国が行う貿易について、税の免除や費用をジャームル王国の負担にする、あるいは経由地となるいくつかの都市を我が国のものとするなど、対価を求めることになるでしょう。狙い目となるのは、ジャームル王国北側の港湾都市カリファだと考えています。この都市、少なくとも港湾の権利を我が国のものとすれば、西側の国々からカリファに船で輸送を行い、我が国に輸入する品々の運搬費用を大幅に抑えられるのではないかと」
「・・・・・・なるほど。つまり、ジャームル王国を手伝うとして、どの程度の兵力が必要で、どの程度の費用がかかるかを検討する必要があるのですね?」
「ああ。それ以前に、この計画が可能なのかどうかもな。ジャームル王国のために我が国の民を失う気はない。1つの案として出ているに過ぎない。それ故、検討を任せる」
「分かりました。至急、検討いたします」

なんと・・・。思っていたよりも大きくなりそうだ。
というか、昨日の軍部の会議の前に、話を聞いておくべきだったか・・・

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