クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。

アメカワ・リーチ

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16.父との再会、そして王女の怒り

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「すごい人の数だな」

 リートは闘技場の観客席を見て思わずそんな感想を漏らした。

 会場はちょっとしたお祭りの様相を呈していた。観客席には多くの一般市民が集まり、食べ物や酒を売る売店も並んでいた。

「市民だけじゃない。王族や貴族、役人、そして何より各騎士団の騎士も試合を見に来る。ここで活躍すれば、顔を売ることができるんだ」

 イリスがそう説明する。

 ローレンス王国には近衛騎士団以外にも、中央騎士団、東方騎士団、西方騎士団という組織がある。
 どの組織も優秀な騎士は喉から手が出るほど欲しいため、決闘会で有能な騎士を見つけて自分たちの騎士団へ引き込もうという思惑があるのだ。

「まぁ、私はお前を他の騎士団に渡すつもりはこれっぽちもないがな」

 イリスはそう言って笑う。

 リートとイリスは闘技場の建物の中に入っていく。
 イリスが、リートのことを各騎士団のメンバーに紹介してくれるというのだ。

 ――と。


「――これはイリス王女様!」

 リートがよく知った声――十八年ずっと聞いてきた声――が聞こえた。

 見ると、イリスに頭を下げた人物は――ライド・ウェルズリー。
 元東方騎士団長であり――他でもないリートの実父だった。

「これはウェルズリー公爵。久しぶりだな」

 イリスはライドと知り合いだった。

「ええ。大変お久しぶりでございます。お元気でしたか」

「ああ、元気だ。お前も元気そうだな。実に十年ぶりか」

「ええ、そうですね。お美しくなられました」

「お世辞はいらん。私は正直に言おう。お前は老けたな」

「はは。それはそうでしょうとも」

 と、その会話がひと段落したところで、イリスは横を――つまりリートの方を見た。

「あ、そうだ。この者を紹介しよう」

 と、イリスは無邪気に言う。

「リートだ。今年採用したばかりでな。私の護衛を務めてもらうことになる」

 そう言われて――リートは見ざるを得なかった。

 実の父親――自分を家から追い出した張本人を。

 リートは何も言えなかった。
 公爵の顔からも、先程までの笑みが消えていた。

「ん、どうした? 二人とも黙り込んで」

 王女の問いかけに、リートはなんとか答える。

「王女様――ウェルズリー公爵は――私の父上です」

「――なに?」

 その言葉に、イリスは目を丸くする。

「リート、お前は“大聖騎士”ライドの息子だったのか。まさか親子とは――」

 だが、次の瞬間、

「いえ、王女様――」

 公爵が厳かに、まるで剣を振るうかのごとく殺気を込めて言う。

「彼は私の息子ではありません。彼はウェルズリー家とは無関係でございます」

「――ッ!!」

 リートは実父の言葉に、息を詰まらせた。
 再び突きつけられた現実に、胸が張り裂けそうだった。

「なに? 一体どう言うことだ」

 イリスが不審に思って聞き返す。

「確かに、こやつは私の血を分けた人間です。しかしもはや我が家の人間ではありません。私の息子は、また後ほどご紹介しますが――カイト・ウェルズリーただ一人です。このリートという人間は、私とはなんの関係もない。赤の他人にすぎません」

 ――流石のイリスも、突然のことに表情を濁らせる。

「――王女様。本日の決闘会では、私の実の息子であり、ウェルズリー家の跡取りであるカイトが優勝します。そして優勝者は王族と食事をするのが慣例です。カイトは必ず優勝しますから、その祝賀の食事会にてご紹介差し上げます――楽しみにしておいてください」

「――そうか、公爵。わかった――」

 イリスは公爵にそう返してから、リートを一瞥した。
 そして公爵に別れを告げる。

「ではまた後ほどな。リート、行くぞ」

 リートはなんとか重たい足を動かして、イリスの後ろについて行く。

 王女は早歩きで歩き、二人きりになったところで、イリスが聞いてくる。

「――お前と、父親の間に何があったんだ」

 いつもは明るいイリスだが、この時は明らかに怒っていた。
 もちろんリートに対してではない。
 息子を他人と言い切ったウェルズリー公爵に対してである。

 リートは乾いた喉から、なんとか言葉を紡ぐ。
 ――父親に家を追放されたこと、そして実家は異母兄弟のカイトが継ぐことになったことを話した。

 その話を聞いたイリスの反応は、

「――なんて愚かなんだ」

 公爵を全否定するものだった。

「実の父が、クラスを理由に息子を捨てるなんてありえない」

 本気で怒るイリスの言葉に、リートは少し救われた気持ちになる。

 ――家を追い出されてからずっと、心の中では自分を認められないでいた。
 だが、この時初めて自分を認めてくれる人がいると知って嬉しかったのだ。

「リート。今日の決闘会、必ず勝て。勝って、公爵を後悔させてやれ」

「――はい。王女様」
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