18 / 51
18.手のひら返し。そして決別。
しおりを挟む†
ただの一撃。
それで勝敗は決した。
同じスキルをぶつけ合ったリートとカイト。
結果は、リートの技がカイトのそれを断殺した。
【しょ、勝者、リート!!】
審判がリートの勝利を告げる。
その声色からは驚きがありありと感じられた。
聖騎士が、なんのクラスも持たない男に負けた。
それが現実だった。
――カイトが負けた理由。
それは単純だった。
リートとカイトは同じスキルを使った。つまりスキルの力は互角。
であれば、勝敗を分けるのは、もともと備わっている剣技だ。
リートは物心ついた頃から、誰よりも懸命に剣を磨いてきた。
一方、カイトは剣の稽古を早々に放棄し、街で奔放に生きてきた。
どれだけ稽古をしたか、その差が如実に出たのだ。
カイトは、地面に膝をつき呆然と地面を見た。
自分が負けたことが信じられなかったのだ。
「ウェルズリー公爵の跡取りっていうから期待したけど、意外と大したことねぇな」
「強い騎士がいい指導者とは限らねぇしな。公爵も子供には甘かったんだろ」
「所詮2代目はボンボンのあまちゃんってわけか」
そんな声が会場から漏れ聞こえてくる。
リートは、カイトを一瞥して剣を鞘にしまいその場を後にした。
†
控え室に戻ると、イリスが待ち構えていた。
「リートすごいぞ!!」
自分のことのように喜んでくれる王女を見て、リートは勝利の実感が湧いてきた。
「ありがとうございます」
カイトに勝てた。
自分の力を証明できた。
そのことがたまらなく嬉しかった。
――と、その時だ。
「リートッ――!」
突然部屋に入ってきた男。
それは他でもない――ウェルズリー公爵だった。
クラス分けの神託を受けた時から、リートは父親の怒りに満ちた表情しか見てこなかったが、その時の表情は明らかに今までと違った。
リートの方に勢いよく歩み寄ってくる。
そしてその口から出てきた言葉は――
「――お前の剣技は本当に素晴らしい」
――リートへの絶賛だった。
「本当によく頑張った。今まで稽古を頑張ってきた成果が出たんだな。素晴らしい。神託の日はもうダメかと思ったが、神様はお前を見捨てていなかったんだな。あれほどの剣技を身につけるとは!」
上気した表情でまくし立てる父親。
その姿を見て――リートの心は冷めていった。
「クラス分けは神がお前に与えた試練だったんだな」
――父親の顔を見て、リートはこれから自分が何を言われようとしているか、直感でわかった。
わかってしまった。
「――よく頑張ったぞ。お前こそが、我がウェルズリー家を継ぐ者だ! 我が家に戻ってこい!」
――きっと、それはリートがずっと望んでいた言葉だった。
父親の背中を追いかけて、
認められたくて、
ずっと稽古を頑張ってきた。
毎日毎日、必死に剣を振ってきた日々が、ようやく報われたのだ。
――でも。
「申し訳ありません――閣下(・・)」
リートは――すっと、決別の台詞を言った。
その目にもう迷いはなかった。
息子の拒絶に、父親は信じられない、という表情を浮かべる。
「――俺は、もうウェルズリーの人間じゃありませんから」
リートは、はっきりと――父に言われた言葉を繰り返す。
――もはや、父に対する思いはなかった。
「息子を騎士団長(ファースト)にしたいなら、カイトと一緒に頑張ってください。俺は俺で頑張ります」
「な、なんだとッ!!」
先程までの喜んだ表情が嘘のように、激昂する公爵。
「こ、この恩知らずが!!」
だが、そんな怒りは、リートには全く響かない。
響くはずがなかった。
カイトとの決闘に挑んだ時点で、その決意はすでに固まっていたのだから。
今更なんと言われようと、リートが父の元に帰るはずもない。
――と、それまで傍観していたイリスが公爵に言う。
「ウェルズリー公爵。もうリートがあなたと話すことはないようです。ここはお引き取りを」
王女の言葉に、公爵は露骨に歯ぎしりした。
だが、いくら公爵でも王女には歯向かえない。
だから代わりにリートに向かって捨て台詞を吐く。
「貴様……ッ! 絶対に許さないぞ! 騎士団から追い出してやる! 覚えてろよ!」
踵を返したかつての父親の背中を――リートは黙って見つめる。
公爵の姿が見えなくなったところで、イリスが笑みを浮かべてリートに語りかける。
「リート。公爵は騎士団にいまだに力を持っているそうだ。おそらく色々な妨害をしてくるだろうな」
「……ええ、そうでしょうね」
「だが、それを跳ね除ければ、お前は騎士団長(ファースト)になれる。私はそう確信している」
王女の言葉に、リートは決意を新たにした。
「――俺は必ず、騎士団長(ファースト)になります」
0
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる