クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。

アメカワ・リーチ

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25.ドラゴンは主人を選ぶ――

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選ばれしもの

 ウルタン村での任務を終えて、王宮へと帰還するリートとウルス。

「ウルスさん! お疲れ様です!」

 二人が事務所に戻ると、ちょうど休憩中だったラーグと鉢合わせる。

 彼はリートではなく、ウルスに話しかけた。

 ラーグは、慣習を無視していきなり近衛騎士になったリートのことを、未だに認めてはいなかった。
 それゆえ、リートとラーグが喋ることはほとんどない。

「早かったですね! さすがウルス隊長です」

 事情を知らないラーグは、そう言ってウルスを持ち上げる。

 すると、ばつが悪そうな表情をして、ウルスが真実を明かした。

「ああ、たった1日で片付いたよ……。もっとも、リザードマン100体を倒したのは、リートなんだが」

 ウルスがそう言うと、一転してラーグの表情が曇った。

「リザードマン百匹を1日で……!?」

  リートをライバル視しているラーグも、さすがにその凄さはわかった。
  リザードマンは決して簡単に倒せる相手ではない。その集団を1日で壊滅させるなんて、相当の実力を持っていないとできないことだ。

  悔しそうな表情を浮かべるラーグ。

 ウルスは、「やれやれ」と言ってから、リートに向き直った。
  
「さて、リート。初任務が終わったばかりで申し訳ないが、また出かけてもらう」

 ちょうどラーグの視線が突き刺さって居心地が悪かったので、ウルスが任務の話をしてくれたのはリートにとって助け舟だった。

「はい、なんでも――」

「と言っても、今回は任務というほどの物でもない。ちょっと――竜の里に行って欲しいだけなんだ」

 と、“竜の里”という言葉を聞いたラーグがビクンと反応した。

「竜の里に!? いくらなんでも早すぎるのでは!?」

「そうとも限らんさ。もしかしたらということもある。試して見る価値はある」

 リートは、二人の会話についていけなかったので尋ねる。

「すみません、竜の里というのは……?」

「その名の通り、竜の卵の産地なんだ。騎士は隊長から推薦をもらえば、里で竜をもらえる――もっとも、卵に認められれば、の話だが」

「卵に認められる?」

「竜は主人を選ぶんだよ。運命の相手を見つけた時に卵から生まれてくるんだ」

「なるほど……。では、選ばれるか挑戦するために行くんですね」

「そういうことだ。もちろん選ばれない可能性の方が高い。私も選ばれたのは騎士になって十年経ってからだからね」

 ウルスは引き出しから封筒を出してリートに手渡す。

「推薦状だ。これを出せば里に入れてもらえる。まぁ試すつもりで、気軽に行ってくれ」

「わかりました」

 リートが封筒を受け取ると、ラーグがキッと睨んできていることに気が付いた。

 初めて会った日からずっとこの調子だったのであまり気にしないようにしているが、居心地のいいものではなかった。

「では、行ってきます……」

 リートはなるべく波を立てないように、すっと事務所を出たのだった。


 †


 同じ頃。
 ウェルズリー公爵領。

 父であるウェルズリー公爵が、息子カイトを自室に呼び出していた。

「稽古は進んでいるか」

 父は厳しい口調で息子に尋ねる。
 決闘会で、カイトがリートに瞬殺されてから父はずっと息子に厳しく当たっていた。
 期待の息子が、まさかの決闘会で初戦敗退。
 それも瞬殺とあって、公爵の面子は丸つぶれだった。

「はい、父上。毎日励んでおります」

 カイトは奥歯を噛み締めながら答える。

「なんとしても、リートに勝て。1日でも早く、リートと同じ第七位階(セブンス)、いや、それ以上に出世しなければならない」

「わかっております、父上」

「――そのためには、稽古だけでは足らぬ。強力な武器を手に入れる必要がある」

「武器、ですか?」

「そうだ、武器だ。これを――」

 そう言ってウェルズリー公爵は息子に封筒を手渡す。

「竜の里にお前を推薦する手紙だ。東方騎士団長に用意させた。竜に選ばれれば、一気にリートを追い抜ける。信じているぞ」

「……はいッ! 父上! 必ず、竜と契約してみせます!」



 ――こうして、カイトとリートは同じく竜の里へと向かうことになったのだった。
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