クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。

アメカワ・リーチ

文字の大きさ
50 / 51

50.暗殺

しおりを挟む


 ――王都、憲兵の取調室。

 そこで、ウェルズリー公爵は重要参考人として、事情聴取を受けていた。

 容疑は、もちろんリートへの妨害行為についてである。
 逮捕された東方騎士団長は、妨害行為についてウェルズリー公爵の指図だったと自白していた。

 しかし、公爵の関与を証明する証拠は何一つ上がっていない。

 憲兵も流石に、証拠もなしに公爵を有罪にはできない。
 思い込みで人を裁くこと、それは正義を重んじる国王が何より嫌うことだった。

 だが憲兵たちもわかっている。目の前の人物が黒であるということは。
 だから入念に調べてあげていた。しかし、それでも証拠は見つからない。

 ――それもそのはず。公爵は東方騎士団長への指示に当たっては、絶対に自分が関与したという証拠が残らないように立ち回ってきたからだ。

「それでは、あくまで関与を否定するということだな」

「当たり前だ。私がイチ騎士ごときの試験を妨害してもなんの得にもならん」

「しかし、リート・ウェルズリーはお前の息子で、家から追放されていた。不仲の息子に対して、妨害をしたんだろう」

「バカな。あいつごときに私が構うわけがない」


 ――そして数日間にわたって取り調べは続いたが、結局成果をあげることはできなかった。

 憲兵たちも公爵へのお咎めはなしと言う結論に至らざるをえなかった。

 ――結局、解放される公爵。

 なんとか最悪の事態は回避できた、と公爵は一安心する。

 だが、事態が深刻であることに変わりはない。
 公爵は東方騎士団長への影響力を失った。これは権力基盤を失ったことに等しい。

 ……クソ。ここで俺の人生が終わってしまうのか。
 公爵は怒りに打ち震え、憤る。 

 だが。
 ――解放された公爵の前に現れ、手招きをするものがいた。

「なんだ?」

 公爵に近づいてきたのは、第二王女カミラお付きの騎士の一人だった。 

「カミラ王女様がお呼びです」

 公爵は驚く。
 カミラ王女とは、小さい頃に会ったことがあったがそれきりだ。
 特に親交がある訳ではない。

 ――なんとなく、陰謀の匂いがした。

 公爵は導かれるまま、騎士についていく。

 そして一室に通される。

「よくぞきた、ウェルズリー公爵」

「殿下。大きくなられました……。一体いつぶりか」

「そんな社交辞令はいらんぞ、公爵。今のお前にはそんな余裕はなかろう?」

 そう言われて、やはり自分がなんとなしに呼ばれた訳でないのだと理解する公爵。

「して……今日はいかなる御用で?」

「なに、そなたと一つ取引をしたいのだ」

「取引、でございますか」

「そうだ。そなたにとっては一発逆転の取引だ」

「――――と申しますと」

 わずかばかりの空白。
 そしてカミラは囁くように答える。


「――――イリスを殺してほしい」


 その言葉に、公爵はハッと息を飲む。

 第二王女からでた言葉。
 それは姉である第一王女を殺して欲しいと言うものだった。

 イリスとカミラが腹違いなのはウェルズリー公爵も当然知っていた。

 そして唯一皇后の娘であるカミラが、王位を諦めていないことも公然の秘密だ。

 しかし、まさか、殺せなどと言う直接的な言葉が、10代後半に差し掛かったばかりの人間から出るとは。

「……王女様。ご冗談はよしてください……」

 公爵が言うと、カミラは笑う。

「冗談でこのようなことは言うまい。私は本気だよ」

 ――その瞳を見て、公爵はカミラが本気なのだと悟るる。

 ……なんて末恐ろしい。
 権力のためには全てを厭わない。
 その覚悟がすでにできているのだ。

「公爵、そなたにとって全く悪い話ではない。それどころか渡りに船だろう」

「……と申しますと」

「もし、イリスを殺してくれたら、私はそなたに全てを捧げよう。――例えば、お前の子息と結婚しようじゃないか」

「――――ッ!!」

 公爵は言葉を失う。
 それは破格の申し出だ。

 カイトとカミラ王女が結婚すれば、二人は共同君主となる。
 外戚である公爵は、一気に宮廷を掌握できるだろう。

 家臣としては最高の地位である公爵にまで上り詰めた彼が、次に望むものは、まさしく王家の権力に他ならない。
 そしてそれが目の前に転がり込んできたのだ。

 まさしく千載一遇のチャンスと言える。

「来月、イリスがクラン辺境伯領へと赴く。滅多にない外出の機会だ。まさしく好機と言える。今ならまだ、隠した兵力を動かせるであろう?」

 ――確かに、騎士団への影響力は失ったが、これまで積み上げてきたものを総動員すれば、現実的な範囲だ。

 そして――何より公爵自身も戦える。
 引退はしたが、かつて国の英雄として活躍した実力はそう簡単に衰えない。

 ――もちろん、リスクを伴うことはわかっていた。
 王族への叛逆は、バレれば間違いなく死刑だ。

 もちろん、直接的な証拠が残らないように最大限の努力はするが、確実とは言えない。
 王女を殺すとなると、今までしてきた些細な妨害とはレベルが全く違うのだ。

 ――だが。

 どうせこのままなら、つまらん余生が待っている。
 それならば、最後に一つ大きな賭けをしたところで、失うものはないではないか。

「――なるほど、お話はよくわかりました。その話お受けいたしましょう」

「ふふ。素晴らしいぞ、公爵。期待しているからな」

 カミラはニンマリと――邪悪に笑ったのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...