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第3章

シャミリア様の思い出

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毎日のように王城とクリスタル宮を行き来する生活も今日で終わりだ。と言うのも、今日が王都へ帰る日だから。
クリスタル宮では何も起こることなく終わりそうでよかった。

「ナーシィ様、最後に庭園を一緒に見ませんか?」

シャミリア様のお願いに二つ返事で応える。

「ナーシィ様、見てください!とてもキレイな場所ですね!ご一緒することができて嬉しく思います。」

「私もシャミリア様と一緒に見ることができて嬉しいです。誘ってくださりありがとうございます。」

しばらく、沈黙が続き……

「私…実は学園でずっとナーシィ様を見ていたんです。」

シャミリア様が語り掛ける様に話始めた内容は、驚きの内容だった。

「私、本当はずっと殿下が好きだったんです。学生の頃の話ですけど…なので途中から入って来て殿下と一緒にいるナーシィ様に良い印象を持っていませんでした。私も若かったので殿下とロイ様はみんなのものだ、とか言って自分の汚い気持ちを正当化しようとしか考えていませんでした。お三方の姿を見ては汚い気持ちに駆られる自分が醜くて仕方がなかったんです。そんな時にナーシィ様とお話する機会があって…覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私はその時からナーシィ様の虜ですわ。これは私の大事な思い出ですのでナーシィ様にもお話しすることができませんが、自分の殻を破ることができたんです。もうずっと、汚い感情に流されて生きてきたので、今更どうすることもできず、どうすれば良いのかも分からなかったのですが…」

そこで言葉を切って、私を見つめたシャミリア様は強い意志を灯した瞳でこちらを見てまた話し始める。

「そんなのは私の言い訳でしかなくて…初めて変わりたいと思いました。この人と並んでも恥ずかしくないように、と。…ナーシィ様達が王都へ帰ってから何かが起こるかもしれないと備えているのは知っています。それに対して、いくらお強いナーシィ様でも不安になることがあるのは当然のことですわ。だから、伝えておきたくて……何があってもご自分の気持ちを大事にしてください。初めて話した時から思っておりました。あなたは優しすぎると。どんな状況下にあってもあなたは大切な人の為ならばご自分を犠牲になさる方を選んでしまうでしょう。でもそれで、残された大切な人たちは幸せでしょうか。」

シャミリア様の言っていることがあながち間違っておらず、見透かされているようで居心地が悪くなる。
隣国の王太子は恐らく私ではなく、周囲の人を狙ってくるだろう。そうなれば、私は大切な人のためならこの身をなげうってしまう。私にはその考えしかなかったから。
それは残されることが怖いからだと気づかされた。




もし私が残された立場なら、この世が地獄と思わずにはいられないだろう。




「だから、どうかご自分の身も大切にしてください。たとえどんな結果になろうとも、皆ナーシィ様のことが好きですから異論はありませんわ。」

シャミリア様は儚げな表情をふわりと和らげて笑った。

私はずっと自分のことが強いと自負してきた。でもそれは、私のことを大切に思ってくれている人がいるから、どんな私でも受け入れて愛してくれる人がいるからなのだと今更ながらに気づかされた。大切な存在が私を強くしてくれる。








もう私には怖いものなどない。






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