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きづいたきもち
しおりを挟むその日の夜、俺はようやく自分の家に戻った。
真っ暗の部屋の中でバックをソファに放り投げて、サングラスをはずしてテーブルの上にそっと置いた。
そして、そのまま俺はベッドに仰向けに倒れこんだ。
天井を見つめながら俺は今日のことを思い返していた。
前から行ってみたかった、あやちゃんが住んでいる町に来ることができて本当によかった。
でも、本当の目的はやっぱりあやちゃんに会いたかった。
メールではいつも話しているとはいえ、やっぱりどうしても会いたかった。
あやちゃんに会うまではすっごくドキドキしていたのに、会ってからはいつの間にかそのドキドキが消えていた。
元気なあやちゃんに会えて俺はうれしかった。
だけど不運にも、川のところであやちゃんに封筒がバレてしまい前の彼女の存在を忘れられないことを知られてしまった。
ふとあやちゃんを見ると、そのせいで落ち込む姿に俺の心は痛かった。
そんなあやちゃんに、俺は話しかけようとしても何も言えなかった。
きっと、これ以上俺のことを見たくなかったのかもしれない。
それでも俺は、あやちゃんになんとか元気になってほしかった。
でも、俺にはそんな余裕もなかった。
今回の休暇だって、俺のワガママで実現できたことでもある。
明日からまた作業や取材が続くから、俺は仕方なく東京に戻ることになった。
タクシー、新幹線、そして今ベットの上でこうしている間も俺はずっと悔しい気分でいっぱいだった。
もう、このままあやちゃんに会うのをやめたほうがいいのかなとも思った。
だけど、このまま終われるのは 俺はイヤだった。
俺はあやちゃんといると楽しい気分になれる。
こんな想いは、なんか久しぶりのような気がする。
きっと彼女がいなくなってからずっと忘れていた想いだ。
「!? まさか 俺・・・・」
俺はようやく自分の想いに気がついた。
俺はずっとあやちゃんのことが好きなんだ。
(なんで 今まで気づかなかったんだろう・・・)
そして、もうひとつ気づいたことがあった。
なぜ、あやちゃんがあの封筒のせいであんなにも落ち込んだのか。
「ま まさか あやちゃん 俺のことを・・・?」
そう、俺はあやちゃんの気持ちに気づいてしまった。
でも、俺のせいで傷をつけたあやちゃんにどうやって想いを伝えればいいのかわからなかった。
だけど俺はその前に、どうしてもやらなきゃいけないことがあった。
重い身体を起こしてベッドから立ち上がり、テーブルのところまで向かい、そっとジーンズのポケットからあのボロボロの封筒を取り出した。
彼女が亡くなってから、ずっとお守りのように持っていたこの封筒もこれでもう役目を終える時が来たんだ。
「今まで サンキュ」
俺は封筒を見つめながらそう言ってから、そっとテーブルの引き出しに入れてゆっくり閉まった。
そして、またベットに仰向けに倒れこんでそのまま眠りについた。
その時の俺はこの想いをいつかあやちゃんに伝えればいいと思っていた。
だけど、その「いつか」が俺とそしてあやちゃんにとってそれほどまでに長いものだとは知らなかった・・・。
次の日から俺たちはまた忙しい日々が続いた。
スタジオにこもってのレコーディング、取材にテレビやラジオの収録と俺たちは目一杯に動いた。
仕事中はそれなりに集中できるけど、暇になると俺はあやちゃんのことがやっぱり気になっていて、何度も携帯からメールを送ってみた。
でも、なぜかあやちゃんからの返事は来なくなった。
あやちゃんの地元であんなことがあってからだ。
その日も、のちに始まる長いライブツアーに向けてのリハーサルをしていた。
そして、休憩になり俺は椅子に掛けてあったタオルを取り顔からの汗を拭きながら携帯の画面を見ていた。
(はぁ 今日も返事なし か)
椅子に座って返事が来ない携帯の画面を見つめながら、俺はため息をついているといきなり誰かが横から明るく声をかけてきた。
「たっちゃ~ん どうかした?」
声のほうを向くと武本が隣に座っている。
「あん? なんでもねぇよ?」
俺は携帯を閉じて机の上にそっと置くと、武本が横から顔を覗きこんだ。
「ひょっとして あやのちゃんのこと?」
「・・・あぁ」
俺は半分諦めながら小さく微笑んで認めた。
あの休暇の日に起こったこと、そしてようやく気づいた俺の気持ちのことも俺はあれから言っていたから武本もほかのメンバーも知っている。
「あやのちゃんから返事 来ないの?」
武本の言葉に俺はゆっくりうなずいた。
「なんで?・・・あ そっか あのことが気になってるんだね?」
「あぁ そういうこと」
「で どうするんだよ たっちゃん?」
「どうするって言われてもなぁ?」
「そんなのん気なこと言っていいの? このままだとあやのちゃんにちゃんと言えないよ?」
「そこまで言わなくてもわかってる! わかってるけどどうしようもねぇだろ?」
「!?」
俺は思わず大声で上げると、これまで楽器の音や話し声で賑やかだった室内が一気に静かになって、それで驚いた全員の視線が集中した。
その視線に俺は我に戻った。
ふと隣を見ると、武本が目を丸くして俺を見ている。
「ごめん」
俺はひとこと謝ると、武本はまたいつものように笑顔になった。
そして、俺は椅子から立ち上がり周りに謝るように頭を下げた。
正直自分でも信じられなかった。
そこまで、俺は気持ちに焦りを感じていたのか?
そこまで、俺はあやちゃんに会いたくて仕方がなかったのか?
そんな俺に斉藤、小坂、有村の3人も集まってきた。
「どうしたんだよ 大声上げるなんて 珍しいじゃん 杉山?」
「そうだよ リーダーらしくないよ?」
「はいはい そんなに熱くならないの・・・ね?」
有村はそう言いながら肩を軽く叩くと、俺は身体が落ちるように椅子に座った。
「なんか 情けねぇな 俺」
俺はぼそっと小さい声でつぶやいた。
俺の中で、あやちゃんに対する想いが日ごとに強くなる一方だった。
普通の人・・・そこら辺にいるようなヤツなら、そんなときどんなに忙しくてもきっと会いにいける。
でも、俺はそうはいかない。
いい歌を作って、いろんな人に聞いてもらうために、あちこちの場所を回って喜んでもらわないといけない。
でも、心のどこかでいつの間にか、どうしようもなくあやちゃんに会いたくてしょうがない気持ちでいっぱいだった。
すると、有村が俺に目線を合わせてきた。
「ねぇ たっちゃんさ そこまであやのさんのことを思ってるんなら 思い切って今度のライブで言っちゃえば?」
「おっ それいいじゃない?」
「いや ちょっと待て いくらなんでも それはマズイんじゃないかな?」
「うん それは確かに あとで騒ぎになるしな」
そしていつの間にか俺の前で4人の話し合いが始まった。
俺はそれを見て心の中で4人に感謝をして、ゆっくり椅子から立ち上がった。
「俺のことなら大丈夫だぜ?」
「え? な~んだ」
「で どうするんです?」
「うん なんか聞きたい」
すると、斉藤が周りをまとめるように割り込んできた。
「まぁまぁ 聞きたいのもわかるけど そろそろリハーサル再開しない?」
「おっと そうだな・・・それじゃあ はじめますか!」
俺の合図で、再び緊張した雰囲気になりリハーサルがはじまった。
「斉藤 ありがとうな」
俺は歩きながら斉藤にに小声でひとことお礼を言った。
そんな俺に斉藤は笑顔でうなずいていた。
そう、その時にはあやちゃんに対して俺なりにどうやって伝えるかを決まっていた・・・。
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