悪役令嬢に転生したにしては、腕っぷしが強すぎます

雨谷雁

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『花冠と青の王国』。乙女ゲームといえば誰もが思い浮かべる超ヒット作だ。

 でも私はこれをプレイしたことがない。なんてったってこれを作ったのは私なのだ。

 作ったと言っても色々ある。

 プログラマーだとかデバッガーだとか、多くの人が関わったこのゲームで、私は原作を担当した。

 大学の演劇集団時代から脚本家を目指していた私にとって、初めての大仕事だった。

 とにかく王道の乙女ゲームを作ってくれ。要望はそれだけだった。

 もちろんその希望通りに作ったし、ややひねりのない真っすぐすぎる作品だったことは改善点だと思うが、まあこれも思い出ってことだ。

 でも私には、このゲームを作ってひとつ後悔がある。

 セラフィナ・アルトリア。この作品の悪役令嬢だ。

 彼女をちょっと……いじめすぎたかもしれない。

 たしかにセラフィナは作中かなり悪い女として描いた。

 主人公の恋を邪魔するだけでなく個人的にもいじめるし、金に物言わせて誰だって出し抜くし人間性は終わってる。

 ただ……

 ただはりつけにして焼き殺すまではしなくてよかったかもしれない。

 とはいえ私はこの作品を作った自分を誇りに思う。

 なんたってここでの成功がなければ、今のゲーム脚本家としての仕事はなかった。

 10年続いた筋トレも、趣味の域を超えてかなり満足のいく出来になっている。三角筋の盛り上がりなんか素晴らしいったらない。

 爽快な朝、青空は広がる。

 この日も私は行きつけのジムでラットプルダウンを引いていた。まずは軽めにウォーミングアップから始めた、その時だった。

 ネジでも外れたのか、重さを感じない広背筋が力を入れたまま空振りする。浮き上がったような体の感覚は、危険信号が発される間もない。

(終わった……)

 そう感じた頃には私は派手に頭をぶつけ、意識を失っていた。
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