エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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2.モブ、旅立ちを決意する

2-8.モブ、巡礼になる-2

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 大聖女フィオレラから祝福を巡礼者達は、主祭壇の脇を通って側廊へ導かれ、目立たない扉から入る控え室のような場所へと集められた。
 人数はオレを入れて全部で十一人。男ばかりで、若そうなのから白髪のお爺さんまで年齢は様々だ。全員押し黙って視線を合わさないようにしているので、妙な緊張感が漂っている。

 そこへ背の高い神経質そうな中年の白マントがやって来た。命願教のエラい人っぽい。
「これより、そなたらに路銀と地図を下賜する。再びこの場へ戻るのは一年後の満願祭の日。それまで己が願いのため、命願教のため、誠心誠意を尽くして各地を回るが良い」
 白マントはエラそうに宣う。
「なあ、地図って……」
 オレがルチアーノに話しかけようとすると、すごい形相で睨み付けられて足を踏みつけられた。
「いてっ! 何すんだ……っ」
 小声で抗議しようとすると、彼は口の前に指を立てて沈黙を指示し、オレの手の中に素早く何かを押しつけた。握らされたものを確認する前に、真っ先に名を呼ばれたルチアーノは、袋を受け取って部屋を出て行ってしまう。オレはとりあえず手の中のものを上着のポケットに突っ込んで黙って目立たないようにしていることにした。

 巡礼者達は順番に呼ばれて一人ずつ部屋から人が減っていく。オレが最後に呼び出されて渡された袋を受け取ると、それはずっしり重かった。

 重い袋を持ってヨタヨタしながら入ってきたのとは逆方向の扉を開けると、いきなり屋外に出た。
 大聖堂の裏手にあたる場所のようで、正面広場で行われている祭りの喧噪が遠くに聞こえる。背の高い鐘楼が真昼の日を遮っているせいで、辺りは薄暗かった。
 扉の前は平らな石で舗装された広い道になっていて、馬や馬車が止まっている。先に外に出た巡礼者達は誰も口を利かないまま、それらに乗り込んでドンドン出発していく。なんだか祭りにふさわしくない夜逃げみたいな雰囲気だ。

 先に出たはずのルチアーノの姿を探してキョロキョロしていると、後ろから肩を叩かれた。
「ルチアーノ?」
 振り返ると、そこにいたのはカレルだった。
「あ、ごめん。さっきまでルチアーノがいたからさ。アイツどこ行ったんだろ? 一緒に旅に出るって言ってたのにな……」
 オレは首を傾げつつ、別れ際にルチアーノから何か渡されたのを思い出して広げてみた。
 それは、くちゃくちゃになった布の切れっ端だった。日本語でも英語でもないゲーム内オリジナル文字が丁寧な筆致で書いてある。オレには全く読めない文字だ。無駄に作り込まれた世界設定が憎くなる。
「これ読める?」
 カレルに差し出すと、
「東通り ユードの店で待つ、だな」
 と読んでくれた。
「そこに来いって事かな?」
「そういうことだろうな。ところで、その荷物はどうした?」
「さっき大聖堂で渡されたんだ。路銀と地図だってさ。いくらくらい入ってるのかなあ」
 オレは地面に袋を置いて口を開け、ぎっしりコインが詰まっているのをみて仰天した。
「すごい! オレ金持ちになっちゃったんじゃない!?」
 喜ぶオレを尻目に、カレルは袋を持ち上げて眉を寄せ、
「これで装備を揃えて、馬を借りるか買うかして……その後の路銀を考えると浪費はできない額だろうな」
 と首を振った。
「え……マジで……。 お祭りの屋台で遊ぶ余裕もない感じ……?」
「それくらいはいいんじゃ無いか。どうせ屋台の間を抜けて宿へ向かうことになるし」
「やった! オレさっき列に並んでる時に美味しそうな串焼きの店を見つけたんだよね」
 重い袋を担いで歩き出そうとすると、カレルがそれを代わりに持ってくれた。
「持ってくれるの? 助かる~!」
 手助けに感謝しようと思ったら、
「使って良いのはこれくらいだな」
 と、中からコイン五枚だけを渡されて、オレは大いにむくれた。
 コイン五枚って子どものお小遣いかよ!


 それでも、広場に入るとお祭り気分で不満は吹っ飛んだ。

 屋台では食べ物以外にも色んな物が売られている。花や、キレイな布や、食器に敷物、本を売ってる屋台もある。屋台と言うより、テント式移動店舗って感じ。

「こっちこっち、この店!」
 カレルの手を引っ張って、目星をつけていた串焼きの屋台の前に連れて行くと、彼はびっくりしたように目を丸くした。
「あれ? もしかして串焼き嫌いだった?」
 すでに食べる気満々だったオレが尋ねると、カレルは懐かしげに目を細めて首を振った。
「……故郷の料理なんだ。懐かしいな」
 屋台の周りには肉の焼ける香りと、スパイシーで少し甘い香りが立ちこめている。
 オレは注文した串を二本受け取って、一本をカレルに渡した。
 野菜と肉を交互に刺した串は、長さが30㎝くらいある。直火で炙られて焦げ目がついているのが美味しそう。一口囓ると、たっぷり塗されたタレと肉汁が口の中一杯に広がる。独特のタレはピリッと辛いけどハーブっぽい爽やかさもあって、クセの強い肉と合っていてとても美味しい。
「カレルの地元料理、美味しいね!」
 夢中で食べながら見上げると、カレルはオレの頬についたタレを親指で拭い、
「本場のはもっと旨いよ」
 と、ちょっと憂鬱そうに笑う。
 それを聞いた屋台のオヤジが声を掛けてきた。客足が途切れて暇になったらしい。
「お兄さん、エラストの出かい? あっちはこれからゴタゴタしそうだねえ。今年は西へ行く行商が減ったんだよ。食材を手に入れるのも一苦労だから、串焼きの味も変わっちまってねえ。私も味が落ちてるのは分かっちゃいるんだが……」
「いや、この串はファタリタで食べた中では一番だ。十分美味いよ。ごちそうさま! しかし、西はそんなに良くないのか?」
「うーん、もうずっと海峡を挟んで揉めてるだろう。前の祭りの時までは、それでも商売の話はできてたらしいんだけど、今はもうファタリタ人だって分かったら追い返されるみたいだ。こっちはエラスト人を追い返したりしねえのに、酷い話だと思わねえかい?」
 溜息をつくオヤジにカレルは無言で首を振り、食べ終えた串を店先の串入れに投げ込んだ。
「行こう、アキオ」
 そう言ってオレの背を押して歩き出させる。オヤジは
「気を悪くしたらゴメンよ!」
 とカレルの背に向けて声をかけたが、店先に新しい客が現れるとすぐにオレたちのことなど忘れたように、そちらに愛想よく話しかけ始めた。

「……カレルの故郷、エラストって言うんだ?」
「ああ。ファタリタの西の方にある島だ」
「ゴタゴタって、何か揉めてるのか?」
「エラストは混ざり者の島だ。オレの祖父母の代にファタリタが命願教を持ち込んでから、信仰を巡ってずっと争っている」
「戦争?」
「戦いならば負けはしない。命願教の導師達は無害を装ってオレ達の間に入り込んで、言葉巧みに伝統をねじ曲げさせたんだ。彼らは見えない毒のような言葉によって、一族の連帯をバラバラにした」
 カレルは吐き捨てるように言い、怒りを振り払うように大股で歩き出す。

「あ、ちょっと待ってよ!」
 あっという間に先へ行く背中を追って駆け出すと、露店と露店の間から出てきた男にぶつかってよろけてしまった。
「おっと、失礼」
 転びかけたところで、二の腕を掴まれて引き起こされる。
「いえ、こっちこそすみません……」
 ぶつかった男は長身で、見慣れない襟の詰まった服を着て頭にターバンのような布を巻いていた。真っ白な肌と薄い水色の目が印象的だ。
「おや、お兄さん、もう食事はお済みかい?」
 腕を掴んだまま、男はもう片方の手でオレの口元をつつく。袖で乱暴に口元を拭うと、茶色い汚れが取れた。さっきの串焼きのタレだ。カレルにも拭われたのに、どんだけ汚してたんだろうと恥ずかしくなる。
「とれた?」
 そう聞くと、男はにっこり笑ってウィンクした。片目をつむるキザな仕草が全然嫌みにならない美形だ。

「良かったら食後のお茶と甘味はいかが? ぶつかったお詫びにサービスするよ」
 男は片手を広げて通路の向かいを示す。そこには大きめのテントがあって、大きく開いた入り口からは中が見えていた。
 中には細かい模様入りの絨毯が敷かれて、ちゃぶ台みたいな丸いテーブルがいくつか並び、敷物に直に座った数人の女性客がお猪口みたいな小さいカップを傾けていた。テーブルの真ん中にはクッキーのようなものが積まれている。バターの香りが美味しそうだ。

 オレが男に腕を取られたままテントの方へ首を伸ばしていると、
「強引な客引きは感心しないな」
 とカレルの声がして、もう片手を引っ張られた。
「おや、保護者がいらした。客引きではないですよ。坊ちゃんにぶつかったお詫びに、お茶を一杯差し上げようと思っただけだ。どうです? あなたの分もご用意しますよ。希少な茶葉もあります。今を逃せばもう来年まで味わえない」
 男はパッとオレの腕を放し、にこやかに言う。オレは「坊ちゃん」扱いされてムッとしたけど、お茶とお菓子は魅力的だった。
「二人分奢ってくれるなら行こうよ。オレ、喉渇いた」
 上目遣いでカレルを見上げると、渋い顔をされる。
「もちろん、お二人分お出ししますよ。茶の他にも北方、西方の珍しい品を取りそろえていますから、見ていくだけでも是非」
 男は商売人らしい強引さでオレとカレルをテントへと押し込んだ。
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