エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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4.サウラスへ

4-2. 南への旅.2

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 翌朝からは、雪が降ったり止んだりする日が続いた。
 太陽が顔を出す日が少なくなって、人の気配のない雪道を延々と進んでいると、気が滅入ってくる。
 ファタリタの人口が減っている証拠のように、数日に一度は廃村に行き当たる。オティアンが道に詳しいと言ったのは本当で、毎回日が落ちる頃に上手く村が廃墟を経由するようルートを選んでいるようで、野宿で凍えることがないのは有り難かった。

 最初はひどくオティアンを警戒していたルチアーノも、彼が手持ちの食料を分けてくれ、安全な道で確実にサウラスに辿り着くよう先導してくれていると分かってからは、態度を軟化させた。


 雲の少ない風の穏やかなある朝、出発前に馬の鞍を乗せ直していると、オティアンが声を掛けてきた。

「馬にはもう慣れただろう。今日は馬車を操ってみないか?」

「え!? いいの? やるやる!」

 雪原をひたすら進むだけの旅に飽きてきていたオレは、目先の変わりそうなお誘いに喜んで頷いた。
 オティアンの馬車は、「馬車」の優雅なイメージとはほど遠く、馬に荷車を引かせているだけの代物だけど、一応御者台はベンチっぽくなっているので、馬の鞍よりは快適そうだ。

 いつも二人乗りしている馬をマイアリーノに譲り、オレは早速、オティアンの横に座らせてもらう。

 簡単に合図の出し方を教えてもらって、すぐに出発した。

 普段は馬車、ルチアーノ、オレ、カレルの順で並んでいるから、目の前に誰もいないのは気分が良かった。
 荷車の車輪は雪が深くなるのに合わせて、スキー板のような物に付け替えられているから、正確には馬車と言うよりは馬橇だ。乗馬のように上下運動がないけど、速度の調整が難しい。特にカーブでコース取りを間違うと、後ろの荷物が揺れて倒れそうになる。

 手袋の中で汗を握りながら何とか手綱を操り、ようやく少しコツがつかめてきたと思った頃、隣でのんびり口笛を吹いていたオティアンが、

「交代しよう」

 と手綱を取ってくれた。オレはホッとして低い背もたれに身体を預け、水筒の水を飲んだ。

「ハハハ、最初は神経を使うだろう? 初めてにしては、アキオは上手い方だよ」

「荷物をひっくり返したらどうしようって思うと、プレッシャーがヤバイよ。普通に馬に乗ってる方が楽かも……」

「慣れればそうでもないさ。アキオは馬にも慣れてないんだったな。余程の坊ちゃん育ちだ」

「いや……そうでもないけど……」

 現代日本の庶民育ちなので、自転車には乗れるんだけどな。そう言い返したいけど、通じないよな。

「馬にも触ったことのなかったお坊ちゃんが、他の三人と一体どこで知り合ったんだ? 偶然街で出会うような組み合わせじゃないだろう?」

 軽い調子で尋ねられて、オレはちょっと返事に困った。
 確かに元騎士団長と外国人、存在自体が秘密のマイアリーノの三人に明らかな共通点はない。

「えーっと……カレルは元から友達で、オレが巡礼に出るって言ったらついてきてくれてぇ……、ルチアーノは出発前のお祭りで仲良くなったから、巡礼同士協力しようってことになったんだよね。マイアリーノはルチアーノの知り合い……」

 しどろもどろに説明すると、オティアンはまるで信じていないような顔で薄く笑った。

「巡礼者同士が協力してもメリットがない。ルチアーノは一人で動いた方が余程上手く立ち回れるだろう。どうして協力することになったんだ?」

「うん……まあ……ちょっと事情があって……」

「どんな事情なんだ? ルチアーノは聖堂騎士団長だろう? 巡礼になんかならずとも、大抵のことは自力で叶えられる。彼はどんな意図があって巡礼になったんだ?」

 オティアンは矢継ぎ早に聞いてくる。何かを聞き出そうとしているんだろうか。
 オレが黙っていると、

「それか、巡礼というのはタダの名目で、本当は他に目的があるんじゃないのか?」

 と唇の端だけ上げて、笑っていない目でオレを見下ろす。オレは顔をしかめ、首を横に振った。

「オレは何も知らないよ。知りたいなら直接ルチアーノに聞いてくれよ」

「へえ……じゃあ、カレルは? アイツはファタリタに来てすぐ投獄されたと言っていたが、アキオとはどこで知り合ったんだ?」

「なんでそんなしつこく聞いてくるんだよ! どこで知り合っても良いだろ!?」

「仲間のことは知っときたいんだよ。何せオレは天涯孤独だ。同族は、家族も含めて絶滅したも同然で、残ってるのは世を捨てた老人だけだ。だから、知り合った人間とはなるべく親しくなっておきたいのさ」

 オティアンは茶化すように片目をつむって笑ってみせたけど、声には寂しさが滲んでいた。オレは質問攻めにイラついたのをちょっと後悔する。

「ごめん。でも別に知っててもいいこと無いと思うけど……オレとカレルは偶然同じ牢に入れられたんだよ」

「牢? アキオもか? 一体何をしでかしたんだ?」

「何もしてないよ! 単にタイミングが悪かっただけ。……オレが大聖堂の宴会で給仕やってた時に、毒殺騒ぎが起きたんだ。一緒に酒を運んでた奴が実行犯だったぽくて、そいつはその場で斬り殺されたんだけど、オレにも疑いがかけられてさあ」

 オレの説明を聞いて、オティアンは口も目もまん丸に開けて固まった。

「それで投獄されたのか。よく無事で釈放されたな……」

「すんなり釈放されたわけでもないんだけど……まあ何とかカレルと一緒に出られることになって、そこから仲間になったんだ」

 オレが特殊な命願石を持っていることは伏せておく。オティアンは良い奴っぽいけど、完全に信用するのはまだ早い気がするから。
 オティアンは疑り深い目でオレをジッと見つめてきたけど、オレはヘラヘラ笑って誤魔化した。

「アキオが良家の出ならば、家の誰かが裏から手を回すこともできるな……。それに恩を感じて、カレルはお前の護衛を買って出たという訳か?」

 全然違うけど、そういうことにしておけば筋は通るので、オレは曖昧に頷いた。オティアンは「なるほどな」と呟く。

「護衛っていうか、オレがあんまりにも世間知らずだから、巡礼の間だけ付き合ってくれることになってんの。もしかして、オティアンはカレルがそっちの組織に全面協力しないのは、オレがいるせいだと思ってる?」

「そうだな。アイツにとってはお前の存在は大きいだろうな」

「それは違うよ。カレルは最初から自分の目的のために、オレに着いてきてる。カレルが引っかかってるのは、オレへの恩返しじゃなくて、命願教が隠してる結婚と受胎の秘儀・・・・・・・・を知りたいからだ」

 何も言わずに眉を寄せるオティアンに向かって、オレは更に説明する。

「エラストの混ざり者も、子どもが増えなくて困ってるんだって。カレルは命願教の秘儀の内容を知ることができたら、それを応用して混ざり者の子どもを増やせるかも知れないと考えてる。それを知るまでは命願教を攻撃したくないんだよ。カレルの行動は、オレとは何の関係もない」

「……なるほど、カレルもなかなか苦労する」

 オティアンは何度か薄い紫色の瞳を瞬かせた後、短く苦笑して狭い御者台の上でオレに向き直り、

「だとしたら、お前はもう相当数の滅石を手に入れたし、後はサウラスでのんびりして、祭りの時に聖都に戻れば良いだけだ。サウラスでカレルと別れても問題は無いわけだな?」

 とオレの目を覗き込んだ。

───別れる? カレルと? あと少しで辿り着くサウラスで?

 そりゃ、最初からカレルとは利害が一致してる間だけ一緒に行動する約束だし、オレはもう危ない冒険をする必要がないほど滅石を手に入れてる。別れが半年ほど早くなっても、大した問題じゃない。

───でも……

 オレは返答に困って下唇を噛んだ。オティアンはダメ押しするように言いつのる。

「カレルはエラスト長老方の意思を受けてファタリタに潜入している。アイツが持ち帰った情報を元に、エラストはファタリタと戦うか、緩やかな滅びを受け入れるかを決めるつもりだろう。
 オレたちとしては、エラストに早く態度を決めて欲しいんだ。
 たとえ時間をかけて受胎の秘儀とやらを明らかにして、それで混ざり者が種族の命運を繋げられると分かったとしても、異教の奴隷になっては意味がない。その秘儀とやらも、マイアリーノを見る限り、あまり良い結果を生みそうもないだろう」

「それは……そうかも……」

「だから、お前からアイツに言ってやってくれないか? 命願教に縋っても得られる物はないと。調べたいことがあるなら、先に聖都ごと押さえてしまって、その後ゆっくり大聖女なり教主達に吐かせれば良い。
 オレが諭したところでカレルは聞く耳を持たないが、お前の言葉なら聞き入れるかも知れない」

 オティアンはジッと目を覗き込み、握った拳でオレの胸を軽く三度叩いた。
 ファタリタに敵対する仲間を示す仕草だ。

 初めて彼と出会った祭りの屋台で、別れ際にカレルが同じ事をされて、カレルも同じように叩き返していたのを覚えている。カレルは最初からオティアンたちの側にいる。

 でも、オレはオティアンの仲間じゃない。
 命願教には問題があると思うけど、平和なファタリタに戦いが起きるのは嫌だ。

「行動を起こすのなら、機を逃してはいけない。エラストの混ざり者は寿命が長いから気長なんだろうが、人間はそうじゃない。サウラスに着くまでによく考えてみるといい」

 オティアンは拳をほどいてオレの肩を軽く叩き、この話は終わったとばかりに再び鼻歌を歌い出した。
 物悲しいメロディーが耳元を流れていく。オレは御者台の上で片膝を抱え、思ったよりも面倒そうな未来の事を思って溜息をついてしまう。

 馬橇は快調に進んでいく。
 昼間近の太陽が薄雲の隙間から雪原を輝かせている。行く手にはまた高い山が迫ってきていた。

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