エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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4.サウラスへ

4-4. 異世界温泉は源泉掛け流し

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 脱いだ外套をベンチに引っかけ、めいめい炉の側に集まってベンチに腰掛けると、馬の世話緒を終えた男が温かいミルクを全員に下ってくれた。蜂蜜が溶けたミルクは口に含むと舌が蕩けるほど甘く、涙が出そうに美味しい。

「ここはサウラスの聖堂なのでしょうか?」

 ルチアーノが尋ねると、男は丁重に頷く。

「はい、聖堂の付属の宿舎です」

「もし部屋に余裕があれば、しばらくの滞在をお許し頂きたいのですが……」

「ええ、もちろん。何分人手が少なく、手入れが行き届いておりませんが、部屋はいくらでも空いております。私はマッテオ、あちらの彼女はリーナと言います。他にもパオラという女の堂者が一人、あと、ロドリゴ堂主様がおりますが、二人ともあいにく村の方へ出ておりまして……」

「まさか、たったの四人で聖堂を運営しているのですか?」

 ルチアーノは本気で驚いた様子で、持っていたカップを手から落としそうになっている。マッテオと名乗った青年は、ルチアーノと同じくらい驚いた様子で頷いた。

「ええ、そうです。サウラスは何度も大聖堂に窮状を訴えているのですが、伝わっていないのでしょうか? 残念なことです」

 マッテオが穏やかな顔に困惑を浮かべていると、マイアリーノの足をさすってくれていたリーナが二人の会話をさえぎるように立ち上がった。

「マッテオ、皆さま冷えていらっしゃるでしょうから、お話よりも先に温まって頂いた方が良いんじゃないかしら?」

「温まる? もう十分温かいですが……?」

 ルチアーノが首を傾げると、

「湯があるんです」

 とリーナは笑った。

「湯! お風呂に入れるんだ!?」

 オレは一気にテンションが上がって、ベンチから飛び上がる。

 お風呂なんていつぶりだろう!
 一応毎日顔と手足は洗ってるし、たまに身体も拭いてるけど、まともに風呂に入ったのはイールンに辿り着く前に宿屋に泊まったとき以来だよ!

 リーナはオレを見て微笑み、奥のドアを手で示した。

「このお嬢さんの側には私がついています。皆さまはがご入浴中に、お部屋も用意しておきますね。マッテオ、案内してさしあげて」


 マッテオの案内に従って奥の扉を潜ると、廊下に出た。
 廊下には窓はない。天井近くにランプが並んでいて、足元が見える程度には明るかった。左奥には二階へ上る階段があるようだ。オレたちは階段とは逆の方へと案内された。
 廊下の端には、また扉がある。マッテオが頑丈で重そうな扉を開けると、両側を木の塀で囲まれた狭い通路に出る。通路はどうやら建物の外にあるようで、塀の上の方と屋根の間に開いた隙間からは雪が吹き込んでいた。

 なだらかに下る通路の突き当たりには、ログハウス風に丸太を組んだ小屋があった。

 小屋の入り口を潜ると、一気に温かく湿った空気が押し寄せてきた。
 内部は男が五人入ったら窮屈に思える狭さだ。壁際には棚が作り付けられ、床の真ん中には掘り込み式の炉が切ってあり、それを囲むように小さなベンチがおいてあった。
 温かいのは炉で火が燃えているせいだろうけど、湿っているのはどうしてだろうという疑問は、更に奥にあるドアを開けたら解決した。

「わあーっ! 温泉だあっ!」

 ドアの向こうには、温泉旅館で見るような露天風呂があったんだ。
 石で囲んだ湯船には、もうもうと湯気を上げるお湯があふれ、すのこ張りの床に惜しげもなく流れている。湯船の上には低い板屋根がかかり、ランプが吊り下げられていた。回りは板塀で覆われているけど、上下に隙間があって外気が入るようにしてあるようだ。

「入って良いの!?」

 オレがワクワクしながら聞くと、マッテオは素朴な顔に柔和な笑みを浮かべて頷いた。

「ええ。お湯は地下から絶えず湧き出しますから、お好きなだけお使いください。入っている間は小屋のドアに札をかけて頂ければ、他の者は入りませんから」

「やったー! 入ろ、入ろっ!」

 大喜びで服を脱ごうとすると、カレルに

「いいのか?」

 と服の裾を引っ張られ、オレはハッとして手を止めた。
 そうだった、人前で全裸になったら付いてないのがバレるんだった。
 でも温泉には入りたいし……と迷いながら他の二人の様子を伺うと、裸を隠すという意識は特にないらしく、ルチアーノとオティアンはさっさと服を脱ぎ始めていた。

 ルチアーノは細マッチョのお手本みたいなケチのつけようのない肉体美で、オティアンは細身で色白だけど、いかにもバネの強そうな体つきだった。いつも頭に巻いているターバンを外すと、銀の髪が滝のように背中を半ば覆い隠す。

───銀の長髪! またキャラデザ担当の違う美形じゃねえか!

 思わず舌打ちしそうになった。

 ちんちんが付いてない事を除いても、このメンツの中でヘナチョコな裸を晒すことに屈辱を感じてしまうが、凍えた後の源泉掛け流しの温泉の誘惑には勝てない。

 オレは二人が浴室の方へ出て行ったのを確認してから、素早く服を脱いで、棚に積んであった布を腰に巻き付けた。湯船にタオルをつけるのは気が引けるけど、異世界だから許して欲しい。

「コレならイケるだろ」

 オレが腰に手を当てて胸を張って見せると、カレルは視線を外し、先に立って浴室へと続くドアを開けた。
 


「きもちいい~~~!」

 すべすべした石でできた湯船に浸かると、思わず声が出てしまった。
 とろみのある熱めのお湯は少しだけ濁っていて、微かに硫黄の匂いがする。顎まで浸かって、冷え切っていた全身を思いっきり伸ばすと、身体が溶けてしまいそうだ。

 浴槽は全員で入っても十分な広さで、一番深いところで立つとオレの鳩尾くらいまでお湯がある。

「サウラスって温泉地なの?」

 丁度良い感じの石に腰掛けて肩まで浸かりながら聞いてみると、ルチアーノは

「療養者向けに湯に浸かれる場所があるとは聞いていたが、こういう物だとは思わなかった。これは良いな」

 と楽しむように両手で湯をすくっている。

「へえ、宣伝すれば沢山人が来そうなのにね~」

「ファタリタでは旅は贅沢だからね。旅ができるのは、聖職者か祭りの時の巡礼くらいさ。人と金がもっと動けば、オレも儲けを増やせるんだがなあ」

 オティアンは長い髪を湯に漂わせながら憂鬱そうに呟く。

「なんだか勿体ないね。ここも人数が減ってるって言ってたし」

 オレは顎までお湯に浸かって膝を抱えた。

「……聖都に戻ったら、私から教主達に伝えてみる。騎士団も、もっと地方を巡回できるよう人員配置を考えてみよう」

 顎を撫でて考え込むようなルチアーノに、オティアンが片眉を上げて揶揄するように笑った。

「なんだ? 何か言いたいことがあるのか?」

「いいえ? ただ、地方がここまで荒れるまで、何もせずに放置した教主達が、今更動くとは思えませんがね」

 冷めた言葉にルチアーノが怒り出すんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、彼はムッと黙ったまま湯から上がり、浴場を出て行った。

「オティアンさあ、なんで一々波風立てるようなこと言うんだよ……」

「ハハハッ、生まれつきこういう性分なんでしかたがないのさ」

 髪を絞って湯から上がったオティアンは、懲りた様子もない。

「じゃあな。オレはもう上がるんで、ごゆっくり」

 と鮮やかなウィンク一つを残して出て行った。


 カレルと二人並んで湯船に残されたオレは、ボンヤリと天井を見上げる。外から入ってくる冷たい風が頬を冷やす。お湯をすくって顔を洗うと、髪が頬にかかった。
 そういえばこっちに来てから一回も髪を切ってない。

「髪の毛伸びたらどこで切るんだろ? 散髪屋みたいなお店があるのかなあ?」

 目にかかる髪の束を摘まみながらカレルに聞くと、

「オレは気になったら自分で切ってる」

 と答えが返ってきてびっくりした。

「自分で!? ムズくない?」

 カレルは腕を伸ばしてオレの髪を一房手に取る。

「気になるなら切ってやろうか? 綺麗な髪だから伸ばしても良いと思うが」

「普通だよ。オティアンみたいな髪なら、伸ばしても良さそうだけどさあ」

 銀の髪って良いよね~憧れる~と、ブチブチ言っていると、手櫛で大きく髪を梳かれた。

「アキオの髪は夜空のように艶のある黒で美しいと思う」

「え~? 夜空って……」

 妙に詩的な褒め言葉に照れてニヤけそうになって、ふと違和感に気がついた。

「あれ? オレの髪って黒だっけ?」

「そういえば、出会った頃はもっと茶色かったな。あの頃は染めていたのか?」

 オレはハッとして立ち上がり、手桶に湯を汲んで水面が静まるのを待って上から覗く。ランプの光だけしかない薄暗さが役に立ち、水鏡にはかなりハッキリと顔が映っていた。

 頬にかかる黒い髪、幼い印象を持たれやすい丸くて大きな目、鼻筋の不明瞭な彫りの浅い顔。

「……オレの顔じゃん……」

 オレは両手で自分の顔をペタペタ触り倒す。頬骨は目立たないし、顎も小さい。全体的に痩せて輪郭はシュッとスリムになってるけど、完全に日本人の顔だった。
 最初はもうちょっと西洋人風のモブ顔だったはずなのに……。

「なあ、オレ最初からこんな顔だった!? 最初はもうちょっとマシじゃなかった?」

 ザブザブとお湯を蹴立ててカレルに近寄って問いかけると、カレルは目を丸くして

「あぁ? そういえばちょっと違う気もするが……?」

 と目を反らしながら首を傾げた。

「だよな!? クソーッ! 薄味モブ顔とはいえ、それなりに見られる顔になったのに、なんで元の童顔に戻るんだよっ」

 伸びた髪をぐしゃぐしゃにかきむしって、不貞腐れて湯船に頭のてっぺんまで沈むと、即座に両手を掴んで引っ張り上げられた。滴る滴を手で拭いて何度も瞬きしていると、びちゃびちゃになって顔面に張り付いた髪の毛を丁寧にかき分けられ、撫でつけられる。

「……今の方が、可愛いと思うが」

 湯で温まったせいか、浅黒い肌でも分かるくらい頬を上気させたカレルが、えらく真面目な調子で言ってきた。

「かわいい!? 全然嬉しくないんですけどっ! オレはカレルみたいなカッコイイ顔が良かったの! 身体もムキムキの強そうなのがよかったっ!」

 腹立ち紛れにバッシャバッシャお湯をかけてやると、カレルは目をぱちくりさせ、

「かっこいい……?」

 と復唱した。自覚がないのが天然美形の証拠っぽくて腹が立つ。

「カッコイイじゃん。あ~あ、ヤル気無くす~」

 なんだか力が抜けてしまい、オレはズルズルと湯船に沈んで溜息をついた。ブクブクと泡が水面に浮かんで消える。

「その……可愛いと思ったのはオレの主観だが、普通に、アキオのような外見は貴重だろう」

「慰めてくれなくて良いよ。自分がモテないのは知ってるし」

「いや、黒髪に黒い目はこの国には少ない。筋の目立たない体つきや、肌の滑らかさも、この国ではあまり見かけない特徴だと思う。代価を払ってでも手に入れたいと望む者が出て来てもおかしくない」

 カレルの真剣な声の調子に、オレはびっくりして顔を上げた。

「マジで?」

「ああ。だからおかしな輩には気を……」

「よーし、じゃあムキムキ目指すのやめよっと! 髪も綺麗なんだったら伸ばすことにする!」

 勢いでお湯から上がって後ろを振り向くと、今度はカレルが湯船にブクブクと沈むところだった。
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