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私は、夜会に来ていた。
リリーを亡くしてから初めてだ。
きらびやかな空間に、居たたまれない気持ちになる。
まだ私は暗闇の中にいるからだ。あれからずっと。多分、この先もずっと。
皆、何故か私を遠巻きに見ている気がする。最愛の婚約者を亡くした私を憐れんでいるのだろうか…居心地が悪い。
やはり、まだ私が社交に戻るのは早かったようだ。
もう帰ろうか…。別にバートナーが居るわけでもないのだから、いつ帰ったって自由だろう。ルーカスに挨拶したら、帰ろう。
私がそう思っていると、壇上に王族の面々が並び始めた。
その中で第二王子である、ルーカスとルーカスにエスコートされた令嬢が真ん中に並ぶ。私はその光景を信じられない思いで見詰めていた。
……………リリーだ。そこに居るのは間違いなく、私の愛したリリーだった。
私は動く事が出来ない。今見ているものが現実なのか、それとも夢なのか。それすらも区別がつかない。
私がその場に縫い付けられたように動けないでいると、陛下の声が聞こえてきた。
「この度、我が息子、第二王子のルーカスと、リリーローズ・ベルマン伯爵令嬢の婚約が整った。皆のもの、今後とも2人をよろしく頼む!」
そう高らかに宣言すると、周りからは割れんばかりの拍手が送られた。私はその拍手の渦に呑み込まれそうになりながら、必死にさっきの言葉を思い出していた。『リリーローズ・ベルマン』?どういうことだ?
ベルマン…ベルマン…ベルマン伯爵…。ああ、考えたいのに、考えるのを拒否するように頭が痛くなってきた。
私が、その場に立ち尽くしたまま、右手で頭を抱える。頭にモヤがかかっているようだ。
私は頭痛に耐えるのに必死で、自分に近づいてくる人物に気が付かなかった。
頭を抱えている右腕にその人物が触れる。
「ジェームス!やっと会えたわ。この1年、寂しかったのよ?邸に行っても門前払いで…」
私は横で喚く女に目をやる。マリーだ。
なんなんだこんな所で、大声を出して、はしたない。しかもドレスも品がないほど露出が激しい。どこを取っても、リリーの足元にも及ばない女だ。
「なんなんだ。馴れ馴れしい。離してくれ」
私は触られていた右腕を振りほどいた。
「ちょっ。なんなのよ!私には、もうジェームスしかいないのよ?あんな事があって、噂にもなってるし。でも、ジェームス、責任取ってくれるんでしょ?向こうが王子で、こっちが公爵ってのはなんだか悔しいけど、この際それには目をつぶるわ!」
この女…何を言って…責任って…何を…
私の頭の中の霧が晴れていく。その事に恐怖を覚える。ダメだ。思い出してはダメだ。そう思うのに、私の意思に反して私は思い出してしまった。
あの日、あの悪夢のような日。私がリリーを失った日。
私が何をしたのか…思い出してしまったんだ。
そして私はそのままその場に倒れた。
リリーを亡くしてから初めてだ。
きらびやかな空間に、居たたまれない気持ちになる。
まだ私は暗闇の中にいるからだ。あれからずっと。多分、この先もずっと。
皆、何故か私を遠巻きに見ている気がする。最愛の婚約者を亡くした私を憐れんでいるのだろうか…居心地が悪い。
やはり、まだ私が社交に戻るのは早かったようだ。
もう帰ろうか…。別にバートナーが居るわけでもないのだから、いつ帰ったって自由だろう。ルーカスに挨拶したら、帰ろう。
私がそう思っていると、壇上に王族の面々が並び始めた。
その中で第二王子である、ルーカスとルーカスにエスコートされた令嬢が真ん中に並ぶ。私はその光景を信じられない思いで見詰めていた。
……………リリーだ。そこに居るのは間違いなく、私の愛したリリーだった。
私は動く事が出来ない。今見ているものが現実なのか、それとも夢なのか。それすらも区別がつかない。
私がその場に縫い付けられたように動けないでいると、陛下の声が聞こえてきた。
「この度、我が息子、第二王子のルーカスと、リリーローズ・ベルマン伯爵令嬢の婚約が整った。皆のもの、今後とも2人をよろしく頼む!」
そう高らかに宣言すると、周りからは割れんばかりの拍手が送られた。私はその拍手の渦に呑み込まれそうになりながら、必死にさっきの言葉を思い出していた。『リリーローズ・ベルマン』?どういうことだ?
ベルマン…ベルマン…ベルマン伯爵…。ああ、考えたいのに、考えるのを拒否するように頭が痛くなってきた。
私が、その場に立ち尽くしたまま、右手で頭を抱える。頭にモヤがかかっているようだ。
私は頭痛に耐えるのに必死で、自分に近づいてくる人物に気が付かなかった。
頭を抱えている右腕にその人物が触れる。
「ジェームス!やっと会えたわ。この1年、寂しかったのよ?邸に行っても門前払いで…」
私は横で喚く女に目をやる。マリーだ。
なんなんだこんな所で、大声を出して、はしたない。しかもドレスも品がないほど露出が激しい。どこを取っても、リリーの足元にも及ばない女だ。
「なんなんだ。馴れ馴れしい。離してくれ」
私は触られていた右腕を振りほどいた。
「ちょっ。なんなのよ!私には、もうジェームスしかいないのよ?あんな事があって、噂にもなってるし。でも、ジェームス、責任取ってくれるんでしょ?向こうが王子で、こっちが公爵ってのはなんだか悔しいけど、この際それには目をつぶるわ!」
この女…何を言って…責任って…何を…
私の頭の中の霧が晴れていく。その事に恐怖を覚える。ダメだ。思い出してはダメだ。そう思うのに、私の意思に反して私は思い出してしまった。
あの日、あの悪夢のような日。私がリリーを失った日。
私が何をしたのか…思い出してしまったんだ。
そして私はそのままその場に倒れた。
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