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番外編
番外編・その15
しおりを挟む修道女でもある院長は、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、
「オーヴェル侯爵が驚かれるのも無理はありませんね。元の彼女を知っている者なら、誰しも抱く感情ですわ『彼女に何があったのか…?』ってね」
「ええ。その通りです。院長からの報告書にも『穏やかに過ごしている』そう書いてありましたが、お恥ずかしい事に、私としてはジュリエッタが何の問題も起こさずに過ごしているだけで『穏やかに』と形容されているのかと考えておりましたの。
正直、それだけでも御の字だと…」
「確かに…此処に来て直ぐに脱走しようとした事もありましたし、此処に出入りするパン屋の息子に色目を使った事もありました。
他の者達に悪影響を及ぼすからと、彼女だけ皆と違う作業を独りでさせられていた事も1度や2度ではありません」
院長は少し昔を懐かしむような仕草で窓の外を見た。
今日は青空が眩しいくらいに晴れており、外ではしゃぐ子ども達の声も聞こえる。
礼拝堂から出てきた所だろう。
「問題が起こる度に、院長にはご迷惑をお掛けしました。
手紙にも何度か『余りに手に負えない時には送り返してくれて構わない』と書かせていただきましたが、院長はジュリエッタを見捨てませんでした」
何回も『もうお手上げ!』と言われるのではないかと覚悟をしていたが、院長はジュリエッタを送り返す事はしなかった。
物凄い我慢強い人だと思う。いや…寛容な人なのだろうか?
「ふふふっ。ジュリエッタとは何度取っ組み合いの喧嘩をしたかわかりません」
と言う院長の言葉に私は唖然とした。
え?この穏やかで慈愛に満ちた表情の大人しそうな院長が?取っ組み合い?
私が驚いて目を見開いていると、
「私は聖人君子ではありません。ただの人。皆と同じです。少しだけ信仰心が厚く俗世を捨てた身である…ただそれだけです。
ジュリエッタとの喧嘩は良い運動になりました」
と先ほどと同じように慈愛に満ちた笑みを浮かべているが、その表情と台詞が合っていない。
院長は続けて、
「ジュリエッタは寂しかったんです。そうですねぇ…言うならばとにかく『構って欲しかった』んですよ 」
と笑う。
「あの娘は…両親から愛されて育ちました。寂しいなど…」
と私が言えば、
「そうでしょうか?確かにお父上の愛情は感じていたみたいですね。
ただ、それでもお父上は仕事で忙しい。お母上はお姉様の教育と社交で忙しい…なに不自由なく育てられてはいるが、彼女は寂しかったんです。
問題を起こして注目を浴びる事。それは彼女が幼い頭で考えた1つの手段だったのです。それが案外上手くいってしまった。彼女はその成功体験が忘れられなかったのでしょう。
しかし、成長するにつれ、皆、彼女のやる事を『またか』と呆れる事はあっても、何故そんな事をするのか…その理由について考える事も訊ねる事もいつの間にか諦めてしまったのでしょうね…。
でも、それはジュリエッタの自業自得です。この話は誰かを責めているものではないのです。彼女が幼稚なだけです。
だから、私は徹底的に彼女と戦いましたよ。
何度彼女から『大嫌い!』と言われたのか…20回までは数えていましたが、余りに数が多くて数えるのをやめてしまいました」
私は驚いて院長の話を聞く。ジュリエッタは…寂しかったの?ただ甘やかされているから、わがままに育ったのだと…。
院長は、
「あ!ジュリエッタがわがままなのは、彼女の性質です。それと寂しさは関係ありません。
そんな日々を過ごしているうちに、ジュリエッタは寂しくなったら私の所へ来るようになりました。…まぁ、喧嘩を吹っ掛けに来るんですけどね。
それから直ぐの事でした…お父上が倒れたとの連絡が入ったのは」
と少し悲しげな表情をした。
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