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第82話
しおりを挟む「ごめんなさい、私が煽ってしまったせいで……」
二人が食堂から退席した後、残された私達四人は何となくその場に留まり、お茶を飲んでいた。
沈黙を破ったのはミューレ様のそんな謝罪だった。
私は首をゆっくりと横に振った。
「いいえ。正直あんな風にナタリーに面と向かって言った人は初めてでしたから、……ちょっぴりスカッとしました」
ミューレ様には私がハロルドと婚約解消した経緯を仲良くなってから話した。彼女が自分の事のように怒ってくれた事が私には嬉しかった。
次にハリソン様が
「レナード……すまなかった。お前の努力を無視して羨んでいたのは……僕だ。お前は何もしなくても優秀なのだと思い込む事で、自分が劣っている事の言い訳にしていた。本当にすまなかった」
と頭を下げた。
「兄上……。貴方だけじゃない。多くの人がそう俺を評した。あの言葉は貴方に向けた言葉ではない」
「それでも……その大勢の中に自分は居た」
素直にそう告げたハリソン様の手を握ったのはミューレ様だ。
「自分の過ちを素直に認めることはとても勇気が必要です。貴方は勇敢だわ」
「ミューレ……」
二人は見つめ合う。私は思わず咳払いをした。すっかり二人の世界に浸ってしまいそうなハリソン様とミューレ様。放っておけば口づけでもし始めかねない。
「ゴホン。それを言うなら私も同罪です。私もナタリーを羨んだ。彼女だって、あの天真爛漫さには努力を……」
「「「それは違う!」」」
私がそう言い始めると、三人は揃ってそれを否定した。
「努力などではない……あれは生まれ持ったもので間違いない」
「そうですわ!エリン様、そこをごっちゃにしてはなりません」
「エリン……あれに努力は必要ないよ」
三人からそう言われ
「そう……ですか?」
と私は頷く他なかった。
「バーバラ、ナタリーはどうしてる?」
私は湯浴みの後、バーバラに髪を乾かして貰いながら彼女に尋ねた。
「随分と不機嫌でした。……正論を言われて何も言えなくなった様ですが……」
「少しはレナード様の言葉が響いてくれているかしら?」
「どうですかねぇ……なんといってもナタリー様ですから」
とバーバラは眉を顰めた。
「ところで、さっきのお話ですけど、明日王都に発たれるのですか?」
「そのつもりなのだけど、レナード様も一緒に来ると言っているのよ……そんな急に騎士団の方を離れるのは難しいと思うわ」
「でも、これ以上こちらにナタリー様を置いておいても……結婚式に間に合わなくなってしまっては本末転倒ですし」
「そうなの。それにまた逃げられても困るし」
一応、門番にはくれぐれもナタリーを通すなと言ってある。今日はもう遅い。今晩は大丈夫だろうが、明日の朝にでも逃げられると困る……とはいえ、好きでもない姉の所に来るぐらいだ。
他にナタリーに行くあてなどないことは分かっているつもりだ。
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