家族に虐げられていた私は、嫌われ者の魔法使いに嫁ぐ事になりました。~旦那様はとっても不器用です~

初瀬 叶

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第73話

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イメルダ様の一件は、旦那様に対する想いを、私が自覚するのに十分なインパクトがあったのだが、それに対して旦那様はいつも通り。通常運転である。


イメルダ様の事でショックを受けている風もないが、心の中は誰にもわからない。
人知れず傷ついていないと良いな…と思う。

さて…いよいよ夜会まであと一週間と迫った頃、旦那様が私に用意してくれたドレスが届いた。

「これ……高いんじゃない?」

「奥様…そんな事は気にされなくて大丈夫ですから!さぁ、1度袖を通してみませんと。合わない箇所があれば、すぐに直さなくてはならないのですから。ほらほら、さっさと着てください」

私はローラに急かされるまま、ドレスに袖を通す。

薄紫色のドレス。私の瞳の色だ。
そして、所々に小さな宝石が散りばめられており、キラキラと輝いている。

私は心の中で、『どうか、一粒も落としません様に』と祈るばかりだ。

「ああ!とても良くお似合いですこと!サイズも…見た目は大丈夫そうですね。少し腕を動かしてみましょうか…ええそんな感じで」
とローラに言われるまま、腕を上げたり下げたりしてみる。
どこも、キツイ所がなくて良かった。…間違いなくこの屋敷に来てからというもの、ふっくらとした自覚はある。

「大丈夫みたい。どこも苦しくないし、腕を動かし難い事もないわ」
と私が答えると、ローラは笑顔で頷いた。

「お坊っちゃま直々にデザイナーとお話してましたからね。
あとはアクセサリーですが、それも、直に届くと思いますよ?」
と言うローラの言葉に、

「旦那様が…自分で…?」
と私はその言葉の意味を噛み締めた。

嬉しい。旦那様が私の為に選んでくれたドレス。

夜会に出席するのは、まだ少し不安もあるけれど、このドレスがあればどこにでも行ける気がしてきた。

「サイズ直しは必要なさそうですので、お坊っちゃまに見せるのは、夜会の日までお預けにしておきましょうか」
とローラが笑う。

私は、

「旦那様が戻ったら、先にお礼だけでも言いたいわ。こんな素敵なドレスを贈って下さったんですもの」
とドレスを脱ぐ前にもう1度自分の姿を鏡で見た。

此処に来た時より、ずっと健康そうだし、髪も肌も艶々だ。

こんなに幸せで良いのかしら?

私はふと実家に居た老執事の事を思い出していた。

あの時、私は彼に『幸せになる』と約束した。…今の私の姿を見たら…彼は喜んでくれるかしら?

私が少し物思いに耽っていると、

「奥様…どうされました?」
とローラが心配そうに顔を覗き込んだ。

私は素直に、

「私が実家に居た時に、私の味方をしてくれたのは執事だけだったの。確か名前は…タッド。
ほら、私が此処に来た日に着ていたワンピースね、あれ、彼の亡くなった奥様の物で…。姉に破かれてしまって申し訳なかったけど、凄く嬉しかったわ。
私ね、彼とお別れする時に、『幸せになる』って約束したの。
私は今、とても幸せだから。彼に今の自分を見て貰いたかったなって…」
と心の内を話した。

ローラは少し泣きそうな顔をすると、

「そうでしたか。奥様がご実家で頑張る事が出来たのも、その方が居たからかもしれませんね」
と私の背中を撫でてくれた。

「そうね。少しずつ孤独になっていく私に最後まで寄り添ってくれたわ…」
と私が言うと、

「その方はまだご実家に?」
とローラに訊かれた。

「私がこの家に来る時に、もう辞めようと思うって言ってたの。その後どうなったのかはわからないわ…」
と私は首を緩く横に振ってそれに答えた。

彼は今、どうしているのだろうか…。
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