73 / 117
第73話
しおりを挟むイメルダ様の一件は、旦那様に対する想いを、私が自覚するのに十分なインパクトがあったのだが、それに対して旦那様はいつも通り。通常運転である。
イメルダ様の事でショックを受けている風もないが、心の中は誰にもわからない。
人知れず傷ついていないと良いな…と思う。
さて…いよいよ夜会まであと一週間と迫った頃、旦那様が私に用意してくれたドレスが届いた。
「これ……高いんじゃない?」
「奥様…そんな事は気にされなくて大丈夫ですから!さぁ、1度袖を通してみませんと。合わない箇所があれば、すぐに直さなくてはならないのですから。ほらほら、さっさと着てください」
私はローラに急かされるまま、ドレスに袖を通す。
薄紫色のドレス。私の瞳の色だ。
そして、所々に小さな宝石が散りばめられており、キラキラと輝いている。
私は心の中で、『どうか、一粒も落としません様に』と祈るばかりだ。
「ああ!とても良くお似合いですこと!サイズも…見た目は大丈夫そうですね。少し腕を動かしてみましょうか…ええそんな感じで」
とローラに言われるまま、腕を上げたり下げたりしてみる。
どこも、キツイ所がなくて良かった。…間違いなくこの屋敷に来てからというもの、ふっくらとした自覚はある。
「大丈夫みたい。どこも苦しくないし、腕を動かし難い事もないわ」
と私が答えると、ローラは笑顔で頷いた。
「お坊っちゃま直々にデザイナーとお話してましたからね。
あとはアクセサリーですが、それも、直に届くと思いますよ?」
と言うローラの言葉に、
「旦那様が…自分で…?」
と私はその言葉の意味を噛み締めた。
嬉しい。旦那様が私の為に選んでくれたドレス。
夜会に出席するのは、まだ少し不安もあるけれど、このドレスがあればどこにでも行ける気がしてきた。
「サイズ直しは必要なさそうですので、お坊っちゃまに見せるのは、夜会の日までお預けにしておきましょうか」
とローラが笑う。
私は、
「旦那様が戻ったら、先にお礼だけでも言いたいわ。こんな素敵なドレスを贈って下さったんですもの」
とドレスを脱ぐ前にもう1度自分の姿を鏡で見た。
此処に来た時より、ずっと健康そうだし、髪も肌も艶々だ。
こんなに幸せで良いのかしら?
私はふと実家に居た老執事の事を思い出していた。
あの時、私は彼に『幸せになる』と約束した。…今の私の姿を見たら…彼は喜んでくれるかしら?
私が少し物思いに耽っていると、
「奥様…どうされました?」
とローラが心配そうに顔を覗き込んだ。
私は素直に、
「私が実家に居た時に、私の味方をしてくれたのは執事だけだったの。確か名前は…タッド。
ほら、私が此処に来た日に着ていたワンピースね、あれ、彼の亡くなった奥様の物で…。姉に破かれてしまって申し訳なかったけど、凄く嬉しかったわ。
私ね、彼とお別れする時に、『幸せになる』って約束したの。
私は今、とても幸せだから。彼に今の自分を見て貰いたかったなって…」
と心の内を話した。
ローラは少し泣きそうな顔をすると、
「そうでしたか。奥様がご実家で頑張る事が出来たのも、その方が居たからかもしれませんね」
と私の背中を撫でてくれた。
「そうね。少しずつ孤独になっていく私に最後まで寄り添ってくれたわ…」
と私が言うと、
「その方はまだご実家に?」
とローラに訊かれた。
「私がこの家に来る時に、もう辞めようと思うって言ってたの。その後どうなったのかはわからないわ…」
と私は首を緩く横に振ってそれに答えた。
彼は今、どうしているのだろうか…。
110
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる