95 / 117
第95話
しおりを挟む「お金が目的ですか?」
と私が呆れたように言うと、
「そ、それもあるが…まずはロックハート夫人の誤解を解いてだな…」
としどろもどろになる父に、
「しっかりして下さい!ワーカー伯爵家の未来が掛かっているんですよ!」
と激を飛ばす継母。
それを冷めた目で見つめる私達。
…このまま居座られてもかなわないので、私は、
「ロックハート公爵夫人の件で、私が力になれる事はありません。
ローズやライラックの結婚についても、です。それと、育てて貰った恩…というものについてですが、母が生きていた時には確かに育てて頂いていたかもしれませんが、それ以降、私は使用人としてそちらの家で過ごして来ました。
何ならお給金も貰っていない、ただ働きの使用人として、です。その私に金を返せというのはあんまりです」
と率直に述べた。
まぁ…これで納得するかはわからないが。
「なんてこと!あんなに世話をしてやったと言うのに!」
とヒステリックに叫ぶ継母。
もう少し落ち着いて話が出来ないのだろうか?
何だか、この人達と話していると、気分が悪くなってきた。
そんな私の様子に直ぐに気づいたのは、メグだ。
素早く私の前に跪くと、
「奥様、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが」
と心配そうに私の顔を覗き込む。
私は吐き気を覚えながら、口を手で塞ぐと、
「少し気分が悪いの」
とそう告げるのが精一杯だった。
それを聞いたロバートは、
「さぁ、もうお帰りになって下さい!
今日の事は旦那様に報告させて頂きますが、このバルト公爵家には2度と出入り出来ない覚悟をなさって下さいね!」
と言うと、2人を護衛に無理矢理連れて行かせた。
2人は何かを叫んでいたが、もう私の耳には入らない。
気分が悪い…。何か悪いものでも食べたかしら?
結局、私はその後嘔吐してしまったので、そのまま王都の屋敷でモーリス先生の診察を受ける事になった。
「ふむ…。アメリア様にお訊ねしますが…月の物は来ておりますか?」
最近、モーリス先生も忙しかったからか、そう言えば診察を受けるのも久しぶりだ。
私も夜会やお茶会、殿下のアレコレで忙しくて、それに気が回らなかった。
「…そういえば先月…無かったかもしれません。今月もまだ…」
そう答えながら私は自分が期待している事に気づいてしまう。
どうしよう…もしそうだったら嬉しい。
「妊娠している可能性は高いと思いますが、アメリア様は前に月の物が不順であった時期がありますので、もう少し様子を見ましょう。
といっても悪阻の症状も出ていますから、念のため今は安静に過ごして下さい」
というモーリス先生の言葉に、私は笑みが溢れた。
「わかりました。…まだ旦那様には言わないで下さい。確定してから…私からお話したいので」
と私が言えばモーリス先生は、
「まぁ…言わないでと言うのであればアメリア様に従いますけど…言わなきゃ言わないで厄介な気がしますけどね」
と少し眉を下げた。
「厄介?」
「ええ。多分アメリア様の体調が悪いことは既に連絡が…」
とモーリス先生が言いかけたその時、
「アメリア!大丈夫か?!」
と旦那様が勢いよく部屋へと飛び込んで来た。
私はびっくりして固まり、モーリス先生は
「ほら…居ても立ってもいられずに、もう帰ってきた…」
と旦那様を振り返りながら呟いた。
「旦那様…お仕事はもう終わったのですか?」
と訊ねる私に、
「そんな事はどうでも良い。体調が悪くなったと聞いた。
しかもあのワーカー伯爵夫妻が来ていたらしいな…それから具合が悪くなったのだろう?あいつらが何かしたんじゃないか?…いっその事…殺すか…」
最後に呟いた言葉が物騒過ぎて私は目を見開いた。
「別にそれとこれとは関係ありません。
父…いえ、ワーカー伯爵夫妻には何もされていませんよ?」
「だが、あいつらが来た時から体調が悪くなったんだろ?関係ないかどうか、調べなければわからないじゃないか。
とりあえず、あいつらは捕縛して地下牢にでも…」
私はさっきモーリス先生が言った『厄介』の意味を、ここに来て、ようやく理解した。
100
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる