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第113話
しおりを挟む「今日…ローラに叱られたんだが…」
と少し悄気た様子で旦那様が部屋へ入って来た。
「ローラから?どうしてです?」
「アメリアにきちんと自分の気持ちを言えと。僕はちゃんと今まで伝えてきたつもりだったんだが…」
と若干暗めの旦那様だ。
「旦那様にはちゃんと『結婚してくれてありがとう』と言っていただけましたわ」
と私が言えば、
「いや…そうじゃなくて…。何て言うか…僕がアメリアに対する気持ちはだな…その…結婚してくれた事に感謝しているだけじゃなくて…あぁ…素直に口にすると言うのは案外難しい事だな」
と旦那様は段々と小さくなる声で何かブツブツ言っていた。
私は先を急がすのも悪いと思って、旦那様の言葉を待っていると…何だか少しお腹が痛むような気がする。
ん?少し痛いかしら?さっきから少し痛いような気がしていたが、気のせいじゃない気がする。
旦那様は私の前で顔を赤くして、しどろもどろになりながらも、何かを私に言おうとしてくれているようなのだが、私は、お腹の痛みが気になって、旦那様の話に集中出来ない。
「アメリア、その…僕は君の事が…」
と少し吹っ切れたように大きな声で、旦那様が私に何かを言うつもりなのか、しっかりと私の顔を見るが…
「痛…っ。イタタタタ…」
と私はお腹を擦りながら踞ってしまった。
ごめんなさい旦那様、今、それどころじゃないみたいです…。
「ア、アメリア!大丈夫か?!」
と踞る私に駆け寄る旦那様。
私の方も少し痛みが遠退いてきた。
「はい…あの、もしかしたら陣痛が始まったのかもしれません。今は痛くありませんが、これから痛みの間隔が短くなってくるのではないかと…あの…ローラとモーリス先生を呼んでいただけますか?」
と私は旦那様にお願いをした。
旦那様は、
「す、少し待ってろ。寝台で横になる方が良いだろう。動けるか?」
と私の腕を支えて、私を立ち上がらせた。
「はい。今は大丈夫です。実は分娩用に部屋を用意してもらっているので、そちらに移動します」
と私は旦那様の手を借りて立ち上がると、2人の寝室を後にした。
「陣痛が始まりましたね。これからどんどん痛みの間隔が短くなってきて、痛みも強くなります。少し予定日よりも早いですが、大丈夫。赤ちゃんは十分に育っています。一緒に頑張りましょう」
モーリス先生が連れてきてくれた助産師さんに手を握られる。
モーリス先生も部屋の中で待機中。もちろんローラもだ。
「はい。…よろしくお願いします」
出産が予定より早まった事に私は不安になりながらも、ほんの少し笑顔で頷いた。
旦那様は別室で待機しておいて貰った。
多分、私が苦しんでいる姿を見ると、お母様の事を思い出して、辛くなってしまうと思ったから。
お母様の体は出産に耐えられなかった。私は大丈夫だと何度言っても旦那様の不安そうな表情は晴れる事がなかった。
こればかりは、私にもどうなるのかわからない。
もし…万が一…私に何かあったら…そんな姿を旦那様の脳裏に植え付ける訳にはいかないと思ったからだ。
あぁ…段々と痛みが増してくる。
赤ちゃん…無事に産まれてきてね。お母さんも頑張るから。
私はまだ見ぬ我が子に心の中で語りかけた。
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