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勘違い
しおりを挟む「保健室行く?」
本郷先輩が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「いえ。そんな、大した事ありません。
先生に理由を聞かれるのも…アレですし…」
そう私が言葉を濁すと、
「まぁ…そうか。でもやっばり冷やした方が良いだろうな」
と言って、私の手を引いて生徒会室へ向かった。
困った時の生徒会室だ。
先輩は私を椅子に座らせると廊下へ出た。
すぐに戻ってきた先輩の手には濡れたハンカチが握られている。
先輩はそのハンカチを私の頬にそっと当てた。
「冷たくない?」
そう聞いてくれる先輩に、
「冷たくて気持ちいいです」
と答えた。
熱をもった頬にひんやりと気持ち良い。
「…ごめんね。戸川がまさかこんな事するとは…」
「なんで先輩が謝るんですか?」
…モブの為に先輩に謝って欲しくない。
と言うか、モブの為に謝る先輩を見たくなかった。
「戸川…僕と同じ大学の同じ学部を目指してて…情報交換とか、受験勉強とか、そういうのを一緒にするようになったんだけど…なんか周りが勘違いしちゃってて」
「勘違い?」
「そう。僕と戸川が付き合ってる…みたいな噂?があって…直ぐに否定すれば良かったんだろうけど、なんかそれも面倒くさくて、そのまま放置してたら戸川自身も勘違いしたみたいでさ。
僕が否定しないって事で彼女?みたいな感じで接してくるようになったんだ」
「…実際はどうなんですか?」
「全然。僕は戸川の事、ただのクラスメートとしか思ってない。
別に受験勉強以外で会う事も、連絡をとる事もなかったし。
だからまさか坂崎さんにこんな事するなんて思ってなかったんだ。
僕が甘かったよ。だから、ごめん」
「…戸川先輩は、本郷先輩の事好きなんですね」
「……実は、昨日『大学に合格したら、2人っきりでお祝いしたい』って言われて…断ったんだ。
2人で会うつもりなんてなかったし。
受験が終われば、今までみたいに接する事もないと思ってたから」
「だから、今日はピリピリしてたんですね」
「完全にとばっちりだよね」
「でも、仕方ないです。戸川先輩にとって私が目障りだったのは本当だと思うし。
叩かれたのは痛かったですけど、私も先輩に失礼な事を言いました。
だからもう謝らないで下さい」
「…そう言ってくれて助かる。ありがとう。
でも、坂崎さんとのメッセージのやり取りが迷惑だなんて事はないから。気にしないでね」
…先輩…それは私、勘違いしますよ?
でもさっきのモブ先輩の話を聞く限り、先輩は女を勘違いさせる要素を持っている事は間違いない。
私もあまり勝手に期待しない方が良いだろう。
「じゃあ、またメッセージ送ります。
受験の相談なんかにも乗ってもらっちゃおうかな?」
なんて、私が少し茶化して言うと、
「僕なんかが受験の相談になんて乗れるかな?
自分でも、自分の事…決められないのに…」
あれ?この話の流れは?
「僕はね。本当は医者になりたかったんだ」
えーっ?ここで、この話?
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