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4話
しおりを挟む夜会は意外にも盛り上がった。頑張った甲斐もあって、成功だと言えるのではないか。少しずつ招待客も帰り始める中、私も忙しく働いていた。
そんな私にイライザが、
「ねぇ、コンラッド子爵のご子息が気分が悪くなったらしいの。飲み過ぎたのね。今、二階の客間で休んでいただいてるわ。お水を持って行って貰えない?」
「コンラッド子爵……」
私はその名を聞いて、今日の受付での出来事を思い出していた。
確かに招待状を持って現れた彼を私達は全く把握していなかった。
コンラッド子爵の名は招待客の中に無かったからだ。
「私の家は王都にはなく、この国の外れに小さな領地があるだけです。皆様がこの名を知らなくても無理はない」
そう言う彼に、私は、婚約者が居ないご子息を集めたいからと、誰彼構わず招待状を送った継母に少し怒りを覚えた。
しかし、彼の姿を見たイライザもジョアンナも顔をおもいっきりしかめたのだった。
彼の名は「スティーブ・コンラッド」
その顔は痘痕で覆われており、分厚いレンズの眼鏡をかけたその容姿に彼女達は嫌悪感を示した。
確かに、優れた容姿とは言いがたい。しかし、物腰の柔い物言いの彼はとても紳士的だった。
そんな彼が飲みすぎた?私は何となく信じられない思いだったが、イライザに言われた通り、水を持って、教えられた客間へと向かった。
「失礼いたします」
ノックをしたが、返事が無かった為、私はそっとドアを開いた。
部屋に明かりは灯されておらず、真っ暗だ。今日は曇り空。月明かりも届いていない。
私はいつも掃除をしている客間という事もあって、記憶の中にある部屋の間取りを思い出しながら、その暗闇を進む。
段々と目が慣れてきて、寝台に男性が横たわっているのが見えた。
「コンラッド様、大丈夫ですか?」
私はそこに近寄ろうとするも、
「近寄るな!!!」
と怒鳴られてしまい、足がすくんだ。
しかし、コンラッド様の呼吸は荒く、とても苦しそうだ。
私は何とか足を動かし、また彼に近付こうとするも、
「ダメだ!離れてくれ!……媚薬を盛られた」
と苦しそうな呼吸を繰り返しながらもコンラッド様はそう言った。
媚薬?まさか!?
私はイライザが王太子殿下に使うつもりの媚薬を私に見せた事を思い出した。
しかし、彼はコンラッド子爵のご子息。何故、彼に媚薬を?
私が混乱していると、
「クソッ!耐性がある筈なのに……」
とコンラッド様が悔しそうに枕を壁に投げつけたのがわかった。かなり苦しいのだろう。耐える様にシーツを握っているのか、その拳は震えていた。
私は寝台の横のナイトテーブルまで近付き、水差しとグラスを置いた。グラスに水をつぎ、
「お水を置いておきます。それでは失礼します」
と急いでドアへ向かう。苦しそうなコンラッド様には申し訳ないが、私に出来るのはそれぐらいだ。
「早く出ていけ……っ!」
その言葉に急かされる様にドアノブを回すも
『ガチャガチャ』
全くもってドアが開かない。
というか、鍵をかけられている。私は、咄嗟に、
「誰か!誰かいませんか?ここを開けて下さい!」
とドアを叩きながら叫んだ。
招待客を送り出している最中だ、使用人達はそちらに駆り出されている事はわかっているが、藁をも縋る思いで私は声の限り叫び、ドアを叩いた。
すると、廊下から、
「アハハハ!ここには誰も来ないわよ?この先の廊下ではジョアンナが見張ってるし」
と高笑いするイライザの声が聞こえた。
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