貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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5話

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「イライザ!ここを開けて!」

「うるさい!!『イライザ様』でしょう?使用人同然のくせに。せっかく手に入れた媚薬の効果を試したかったのよ。
それに、あんたがそこのコンラッドって男と関係を持って、その男と結婚してくれたら、私達家族は万々歳!」

「ば、万々歳って……」

「あんたがこの家に居るから、親戚連中がうるさいのよ。
流石にそんな名も知らない子爵の息子にこのドノバン家を継がせるとは言い出さないでしょう?
その男とあんたが体の関係を持てば、あんたをここから追い出せるって訳。
あんたってさ、こんな扱いされてても、しぶとくここに残ってたじゃない?本当に目障りだったのよ。そんなにこの家にしがみつかなきゃ生きていけないの?いやらしい女よね」

私は頭を殴られたような衝撃を覚えた。
この家にしがみついていた覚えはない。
しかし、母に「この家の血を守るのは貴女ね。ごめんなさい、兄弟を作って上げられなくて」と言われいた。
母は自分が体が弱く、娘の私一人しか産めなかった事をずっと申し訳なく思っていたからだ。
その言葉は私をこの家に縛り付けていたのかもしれない。
私だって、何度この家を捨てたいと思ったか。それでも我慢してきたのは、母からのその言葉だった。

「そんな……!私は別にそれを望んでいた訳じゃ……」
そう言っても言い訳にしか聞こえないのだろう、イライザは、

「とにかく!あんたはここでその男とヤッちゃえば良いのよ!この媚薬はかなり強力だって話だから、その男、放っておいたら死ぬかもね~」
と楽しそうに言うイライザにゾッとした。

「死ぬって……そんな薬をどこで……!」

「うるさい!その男が死んだらあんたのせいよ!じゃ、せいぜい楽しんでね~」
とイライザの足音が遠ざかって行く。

私は絶望した。振り返ると苦しそうなコンラッド様が見える。

コンラッド様に今の会話を聞かれてしまっただろうか?
コンラッド様に物凄く失礼な話だ。こんな……使用人同然の娘を差し出されたのだ。
……しかも、私を抱かなければ死ぬかもしれないなんて……。

私はまた寝台に近づく。

「く、来るな!!」 
コンラッド様は叫ぶ。良かった、話は聞こえていなかった様だ。
だって自分が死ぬぐらいなら、私の事を襲っていてもおかしくない。彼は未だ私を守ろうとしてくれていた。


「コ、コンラッド様。あの……私で良ければ……」
緊張して喉がカラカラで上手く声が出ない。

「だ、だめだ!!今の俺は正常ではない!!」

「その媚薬は……とても強力なのだそうです。下手をすれば命に関わるかも……と」


「そ、それでも……君を傷つけたくない!」

「大丈夫です。私なら」
そう言いながら私はシーツを握りしめたコンラッド様の手に触れた。

とても熱い。彼はその手を振り払うが、私はもう一度彼の手を取って自分の胸へと導いた。
彼はまた振り払おうとするも、私はその手を離さなかった。

「優しく出来ないかもしれない……」
そう言った彼の潤んだ深い海の様な綺麗な青色の瞳を覚えている。
眼鏡を外した彼の瞳は、今までみたどんな宝石より美しかった。
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