14 / 127
14話
しおりを挟む
「そんな事は気にしなくて良いんだよ!
今はゆっくり休んで、自分も、お腹の子も元気にならなくちゃね。
あんたが何かしら抱えてこの村に来たのは分かっていたが、詮索するのは違うと思ってた。だが……それが間違いだったね。あんたを孤立させてしまった」
「孤立なんて……!私に勇気がなかっただけです。女将さんもご主人もサムも……宿屋で働く皆も、パン屋のジョナサンも八百屋のメリーも、皆が皆、優しくしてくれました。
でも私は自分からそれを素直に受け入れる事が出来なかったんです。それは……私が」
私は自分の身に起きた事を告白しようと口を開きかけた。
私が母を亡くしてからどうやって実家で生きて来たかを。どんな扱いを受けていたかを。
そのせいで人を信じられなくなっていた事を。
もちろんコンラッド様の事は言うつもりはない。それは私の胸に留めておくべき事だ。
でも、女将さんはそれを遮って、
「いいんだよ。あんたがどうして此処まで来たのかなんて、どうでも良いんだ。
辛い思い出なら捨ててしまいなさい。
ただ、これだけは覚えておいて。私達はあんたの味方だ。困った時はお互い様。助け合って生きていけば良いじゃないか。遠慮はなしだよ」
そう言って私の頭を撫でた。
「……女将さん……」
私は自分の頬を伝う涙を手の甲で拭った。
私は三日程経ってから仕事に復帰した。
宿屋の皆は温かく私を迎えてくれる。
お腹の子の父親について尋ねる者は誰も居なかったが、皆が私を気遣ってくれているのが痛いほど分かった。
私はそれからはきちんと医者にもかかり、仕事も無理をしないように努めた。少し前にせり出し始めたお腹に動きづらさを感じる様になった頃、隣国との小競り合いが始まったと国からのお達しがあった。
隣国とは言っても私の住む村とは真逆の国境沿いの話だ。特別、私達の村には影響はないようだが、この村に立ち寄る旅人の口から、その様子を知ることが出来た。
今日も宿屋の食堂ではその話でもちきりだ。
「王太子殿下自ら指揮を取っているらしい」
「殿下は近衛だろう?」
「あの人は全ての騎士団のトップだよ。総大将って所さな」
「だがしかし、何で自ら戦に?側妃の息子だからって、仮にも王太子殿下だぜ?死んじまったらどうするんだよ」
「未だに王妃様はローランド殿下が王太子になる事を諦めていないらしいから、出来れば死んで欲しいぐらい思ってるんじゃないのかね」
「しーっ!馬鹿、そんな事言ったら不敬罪で捕まるぞ!捕まるどころか、あの王太子殿下だったら、殺されちまうかもしれん」
「でも、剣の腕は誰より確かだ。こんな小競り合いぐらいで、殿下が殺られちまうなんて事は考えられないよ」
「あぁ、違いない」
今日も王太子殿下の話が皆の口に上っていた。
今はゆっくり休んで、自分も、お腹の子も元気にならなくちゃね。
あんたが何かしら抱えてこの村に来たのは分かっていたが、詮索するのは違うと思ってた。だが……それが間違いだったね。あんたを孤立させてしまった」
「孤立なんて……!私に勇気がなかっただけです。女将さんもご主人もサムも……宿屋で働く皆も、パン屋のジョナサンも八百屋のメリーも、皆が皆、優しくしてくれました。
でも私は自分からそれを素直に受け入れる事が出来なかったんです。それは……私が」
私は自分の身に起きた事を告白しようと口を開きかけた。
私が母を亡くしてからどうやって実家で生きて来たかを。どんな扱いを受けていたかを。
そのせいで人を信じられなくなっていた事を。
もちろんコンラッド様の事は言うつもりはない。それは私の胸に留めておくべき事だ。
でも、女将さんはそれを遮って、
「いいんだよ。あんたがどうして此処まで来たのかなんて、どうでも良いんだ。
辛い思い出なら捨ててしまいなさい。
ただ、これだけは覚えておいて。私達はあんたの味方だ。困った時はお互い様。助け合って生きていけば良いじゃないか。遠慮はなしだよ」
そう言って私の頭を撫でた。
「……女将さん……」
私は自分の頬を伝う涙を手の甲で拭った。
私は三日程経ってから仕事に復帰した。
宿屋の皆は温かく私を迎えてくれる。
お腹の子の父親について尋ねる者は誰も居なかったが、皆が私を気遣ってくれているのが痛いほど分かった。
私はそれからはきちんと医者にもかかり、仕事も無理をしないように努めた。少し前にせり出し始めたお腹に動きづらさを感じる様になった頃、隣国との小競り合いが始まったと国からのお達しがあった。
隣国とは言っても私の住む村とは真逆の国境沿いの話だ。特別、私達の村には影響はないようだが、この村に立ち寄る旅人の口から、その様子を知ることが出来た。
今日も宿屋の食堂ではその話でもちきりだ。
「王太子殿下自ら指揮を取っているらしい」
「殿下は近衛だろう?」
「あの人は全ての騎士団のトップだよ。総大将って所さな」
「だがしかし、何で自ら戦に?側妃の息子だからって、仮にも王太子殿下だぜ?死んじまったらどうするんだよ」
「未だに王妃様はローランド殿下が王太子になる事を諦めていないらしいから、出来れば死んで欲しいぐらい思ってるんじゃないのかね」
「しーっ!馬鹿、そんな事言ったら不敬罪で捕まるぞ!捕まるどころか、あの王太子殿下だったら、殺されちまうかもしれん」
「でも、剣の腕は誰より確かだ。こんな小競り合いぐらいで、殿下が殺られちまうなんて事は考えられないよ」
「あぁ、違いない」
今日も王太子殿下の話が皆の口に上っていた。
570
あなたにおすすめの小説
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる