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32話
『ドンドンドン』
扉を叩く音が部屋に響く。
この小さく古い家にはドアノッカーの様な物はない。
私はアイザックをギュッと胸に抱き、なるべく音を立てないよう息を殺し、ジッとその音を聞いていた。
扉の鍵はサムが出て行く時に『俺が戻るまで、絶対に扉を開けちゃダメだ。鍵はしっかり掛けておいて』と言われた為、ちゃんとその役目を果たしてくれている。
……しかし近衛達が少し力を入れてしまえば、直ぐに壊れそうな程脆く、私はハラハラしながらそちらを見守った。
「ここ、人が住んでるのかぁ?」
と言う声に、
「うーん。ボロい家だしなぁ……空き家かもな」
と扉を叩いていたであろう男が答えた。
「こんな辺鄙な場所だと住むにも不便だろ。ほら見ろ、周りの畑も荒れ放題だ。もう誰も住んでないだろ」
「だな。荷馬車も見当たらないし……」
と二人の男の声が少しずつ扉の前から遠ざかって行く。馬に乗ったのか、馬の足音も少しずつ遠のいていくのが聞こえた。
私は、ホッと肩で息をつく。
心の中では、早く何処かに行って!と願いながら、アイザックの青い瞳を覗き込んだ。
……コンラッド様にそっくり。私はあの夜で一番印象的だった、彼の瞳を思い出す。
きっとこの瞳を見れば、コンラッド様もアイザックが自分の息子である事を認めて下さるだろう。
それから十分時間が経ってから、私はアイザックを抱いたまま立ち上がった。
そっと窓の外を覗く。暗くて良く見えないが、近衛達の姿はもう見えなかった。
改めてロウソクに火を灯していると、
『ドンドンドン』
と扉を叩く音がして、私は飛び上がる程に驚いた。
「クレア、俺だよ、サムだ。遅くなってごめん」
と言う声にホッと息を吐く。
鍵を外し扉を開けると、そこには色々と買い込んで戻って来たサムの姿があった。
「近衛が?」
おしめを替えてご機嫌になったアイザックを腕の中で揺らしながら、私は先程の出来事をサムに話した。
「ええ。女将さんが咄嗟に嘘をついてくれたから、逃げる時間が出来たけど、あの宿屋にはもう……帰れないわ。私達の家ももうバレてしまっているだろうし……」
「クレア、今日は此処に居てくれ。一応色々買って来たから二、三日は過ごせると思う」
「……サム、お願いがあるの。私の家から荷物を。あまり物は多くないから、そんな難しくないと思うわ。食器や家具は……売れる物は売って。そんな大したお金にはならないけど、今日、買ってくれた物の代金ぐらいにはなると思うから。……明日、この村を出るわ」
と言う私に、サムは物凄く悲しそうな顔をした。
扉を叩く音が部屋に響く。
この小さく古い家にはドアノッカーの様な物はない。
私はアイザックをギュッと胸に抱き、なるべく音を立てないよう息を殺し、ジッとその音を聞いていた。
扉の鍵はサムが出て行く時に『俺が戻るまで、絶対に扉を開けちゃダメだ。鍵はしっかり掛けておいて』と言われた為、ちゃんとその役目を果たしてくれている。
……しかし近衛達が少し力を入れてしまえば、直ぐに壊れそうな程脆く、私はハラハラしながらそちらを見守った。
「ここ、人が住んでるのかぁ?」
と言う声に、
「うーん。ボロい家だしなぁ……空き家かもな」
と扉を叩いていたであろう男が答えた。
「こんな辺鄙な場所だと住むにも不便だろ。ほら見ろ、周りの畑も荒れ放題だ。もう誰も住んでないだろ」
「だな。荷馬車も見当たらないし……」
と二人の男の声が少しずつ扉の前から遠ざかって行く。馬に乗ったのか、馬の足音も少しずつ遠のいていくのが聞こえた。
私は、ホッと肩で息をつく。
心の中では、早く何処かに行って!と願いながら、アイザックの青い瞳を覗き込んだ。
……コンラッド様にそっくり。私はあの夜で一番印象的だった、彼の瞳を思い出す。
きっとこの瞳を見れば、コンラッド様もアイザックが自分の息子である事を認めて下さるだろう。
それから十分時間が経ってから、私はアイザックを抱いたまま立ち上がった。
そっと窓の外を覗く。暗くて良く見えないが、近衛達の姿はもう見えなかった。
改めてロウソクに火を灯していると、
『ドンドンドン』
と扉を叩く音がして、私は飛び上がる程に驚いた。
「クレア、俺だよ、サムだ。遅くなってごめん」
と言う声にホッと息を吐く。
鍵を外し扉を開けると、そこには色々と買い込んで戻って来たサムの姿があった。
「近衛が?」
おしめを替えてご機嫌になったアイザックを腕の中で揺らしながら、私は先程の出来事をサムに話した。
「ええ。女将さんが咄嗟に嘘をついてくれたから、逃げる時間が出来たけど、あの宿屋にはもう……帰れないわ。私達の家ももうバレてしまっているだろうし……」
「クレア、今日は此処に居てくれ。一応色々買って来たから二、三日は過ごせると思う」
「……サム、お願いがあるの。私の家から荷物を。あまり物は多くないから、そんな難しくないと思うわ。食器や家具は……売れる物は売って。そんな大したお金にはならないけど、今日、買ってくれた物の代金ぐらいにはなると思うから。……明日、この村を出るわ」
と言う私に、サムは物凄く悲しそうな顔をした。
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