貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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34話


「いえ……あの、手紙を」
と私が封筒を差し出すと、

「これはちゃーんと貰っとく。だけどね、それとこれとは話が別だよ」
と私からの手紙をポケットにねじ込むと、テキパキと旅路の準備をし始めた。

「カバンはこれ。しかしあんたサムに頼んだんだって?あいつはこんな事には向いてないよ。
え~っと、おしめやなんかはここに入れてるからね。クレアの服も必要最低限にしたよ。赤ん坊を連れて大荷物では移動出来ないからね。」
と説明をする女将さんを見て、私は涙を堪えるので必死だった。

「あの……残りは売っていただいても、捨てていただいても構いません」
と私が言えば、

「何を言ってるんだい。ほとぼりが冷めたらまた帰ってくれば良いじゃないか。あんたの家はあそこなんだから。それにほら、ネックレスもちゃんと入れてるから、安心しな」
と優しく微笑んでくれた女将さんに私は抱きついた。

「本当にありがとうございました。何から何までお世話になりっぱなしで。どうやってこの気持ちを伝えたら良いのか……感謝の言葉だけでは現しきれません」

「大袈裟だよ。あんたの事は娘同然だと思ってるんだ。遠慮はしなくて良いんだよ。いいかい、くれぐれも気を付けて」
と抱きついた私の背中を女将さんはポンポンと軽く叩いた。

女将さんは私から少し体を離すと、

「それで?何処に向かうんだい?」
と私に尋ねた。

「とりあえず南の方へ。あてはありませんが、消去法です」

「そうだねぇ。だが、私も南が良いと思うよ。気候も温暖だし、過ごしやすい。ザックにとってもその方が良いだろうよ」

「はい。それより昨日は女将さん、大丈夫でしたか?近衛に責められたりしませんでしたか?」
私は心配になって尋ねた。

「あ~なんかグダグダ言ってたけど、知ったこっちゃないよ。そんな事は気にしなくて良い。あ、あとこれ」
と女将さんは私の手を掴むとその手のひらに数枚の金貨を握らせた。

「え?!何ですこれは?こんな……いただけません!」
と私がその金貨をまた女将さんの手に握らせようとしたが、

「これは、あんたの……いや、アイザックのお金だよ。小切手を金貨に替えて来た。あの人は……アイザックの父親なんだろう?あ、いや、別に言わなくてもいいんだ。息子に顔を見せに来ないような父親だ。事情がある事は察するよ。そんな男に甘えたくないのも分かってる。でも今はそんな事を言ってられないだろう?」
と女将さんはもう一度私の手にしっかりと金貨を握らせた。

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