貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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36話

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その近衛騎士がこちらを見上げた気がして、私は直ぐにしゃがみ込んだ。
部屋の中の方が明るいとはいえ、一瞬であれば大丈夫だろう……きっと。

「きっと、ただ見回りをしているだけだわ。ここは比較的大きな村だし……」
私は自分に言い聞かせる様に口に出してそう呟いた。

そう思いながらも、スヤスヤと眠るアイザックの顔を見て、明日の朝早くには此処を発とうと心に決めた。


翌日、朝早く宿屋を出る私に、

「おやおや、まだ眠そうだね」
と私の背中で大欠伸をしているアイザックを見て、すれ違う宿泊客のおばさんが目を細めた。

そして、

「ああ、そう言えば……昨日近衛騎士が人探しをしてたねぇ……あんたみたいな子連れだって話だけど……」
と私の顔を改めて確認する様に見ようとアイザックから私に視線を移そうとした。
私はそれを遮る様に顔を背けて、

「すみません、先を急いでいますので……」
と再びカバンを握り直し、宿屋の扉へと足早に向かう。

宿屋の女将さんが、

「またお越しくださいね~!」
と言う声を背中に受けながら私は急いで宿屋を後にした。

さっきの話……。やはり、あの近衛騎士は私を捜していたのだと分かって私は動揺してしまった。

不安に駆られた私の足は、自然と早くなる。
もう少しで辻馬車の乗り場に着く……そう思ったその時、

「おい。この村には居ないんじゃないか?誰も目撃していないみたいだ」

「だなぁ~。まぁ、もう少し此処で待って現れなければ、次の村に行くか。どうせ使うなら辻馬車だろ」
と2人の男性の会話が聞こえる。

私は足を止め、近くの建物の影に隠れた。

「だが、本当に南に向かってると思うか?」

「んー。だがタリス村にはもう居ない様だったしなぁ。赤ん坊を連れて移動するなら、南じゃないかと思うんだがな」
と2人の会話は続いている。

私はその声から逃げる様に、足早にその場を離れた。

……読まれてる、私の行動を。どうしよう……。やはり南へ向かうのは単純過ぎたのか。

もう辻馬車には乗れない。私は仕方なく、もと来た道を歩いて戻った。


結局私はその村から東側に歩けるだけ歩いて、やっと小さな村にたどり着いた。  

偶にアイザックのおしめを替えたり、お乳を飲ませたりする以外は必死に歩いたのだが、この小さな村にたどり着いた時にはすっかり日が暮れていた。

しかし、この村には宿屋は無さそうだ。私は途方に暮れてしまった。
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