貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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37話

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「はぁ~」
と私は大きく息をついて、近くにあって切り株に腰掛けた。

もう日が暮れてしまった。歩く気力も残っていないし、この暗さではアイザックを連れて歩くのも危ないだろう。

しかし周りをキョロキョロ見回しても、宿屋はおろか店すら見当たらない。
民家はポツポツと存在しているが、人の気配もあまりない。


「ザック、もう少し我慢してね。……何処か泊めて貰えるお家を探してみようかしら?」
私は背中のアイザックへと話しかける。

すると、背後から、

「あの……どうされました?」
と声を掛けられる。振り返ると、上品な微笑みを湛えた白髪の老女が立っていた。

私は切り株から立ち上がり、

「あ、あの……実は旅の途中でして。でもこの村まで来てすっかり日が暮れてしまいました。図々しいお願いだと思うのですが、何処か泊めていただける場所をご存知ありませんか?」
と藁をも縋る思いで彼女に近づいた。

「この村には宿屋もありませんしねぇ。隣の村まで行けばあるかもしれませんが、この時間からでは……。こんな小さな子を連れて夜道を歩くのは危ないですから、良かったら私の家に泊まっていきませんか?大したお構いも出来ませんけど」
とその老女は笑顔を見せた。私は天の助けとばかりに、

「宜しいのですか?もしそうして頂けるのなら、有難いのてすけど」
とその言葉に素直に甘えることにした。

「ええ、どうぞ。主人に先立たれて今は私一人てすし、遠慮なく」
と言う老女は、何処となく上品な佇まいだった。




「マチルダさんは昔、侍女を?」
私は話しかけてくれた老女……マチルダさんの家でお茶をご馳走になっていた。彼女の家は然程大きくはないが、とても暖かい雰囲気だった。

アイザックはたっぷりとお乳を飲んで眠ってしまった。
私達はお茶を飲みながらお互いに自己紹介をしていた。

「ええ。ある子爵の御屋敷で。もう随分と昔の話です。良いご主人でしたし、仕事も楽しかったのですが……体を壊してしまいましてね。お暇をいただく事になったのです。クレアさん、お腹が空きませんか?直ぐにスープを温めましょうね。少々お待ちくださいな」

「そんな、お構いなく……」
と私が言うより先に、

「私も空腹なのです。ご一緒していただけると有難いのですが?」
とマチルダさんはニッコリ笑った。

私に気を使わせないその話し方に私も笑顔になる。
私は遠慮なく彼女の手作りスープとバンをご馳走になる事にした。
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