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しおりを挟む「不貞腐れるな。笑顔でいれば国民からも好印象だぞ?」
と私の横に立つ陛下にそう言われても、全く笑えない。
「陛下だってもっと国民の前で笑顔を振りまいては如何です?そうすれば『冷酷無比』などと噂されなくなるのでは?」
と皮肉っぽく返せば、
「俺が笑顔だと女達皆が惚れてしまうだろうが。これでも気を使ってるんだぞ?これ以上モテないように」
と平然と言われてしまった。ああ言えばこう言う。
陛下は即位式を終え、挙式の為に教会へと戻って来た。私は教会の控室で手順を覚えるのに必死だ。
「お前は『誓います』って言っときゃいいんだ」
とサラッと言う陛下に殺意が湧く。
「そういう訳にはいきませんよ!」
と言う私に、アイザックを抱いたマーサが、
「クレア様、後はエリオット様が何とかして下さいますよ。リラックス、リラックス。ね、ほらアイザック様もそう言ってますよ」
と私にアイザックの顔を見せてくれた。
私は立ち上がり、マーサの腕でご機嫌なアイザックの頬を撫でる。アイザックはキャッキャッと声を上げて喜んだ。
そんなアイザックに陛下は笑顔を向ける。……くっ!眩しい!
確かに陛下の笑顔は殺傷能力が高いのかもしれない。たくさんの女性がメロメロになる事間違いなしだ。
結婚式が始まりたくさんの貴族の前に私が現れると、皆がざわざわし始める。
社交界にデビューすらしていない私は、今まで『居ない者』として扱われていた。『居ない者』が急に王妃になるなんて、なんの冗談かと思う。
しかし陛下はどこ吹く風。オドオドしている私に、
「胸を張って歩けよ?下を向くな。お前は俺が選んだ女だ。堂々としてろよ?」
と前を向いたまま声を掛けた。
「選ばれたかった訳ではありません。……たまたまです」
と私が小声で答えれば、陛下はクスッと笑った。
それを見て何人ものご婦人達が『ほ~ぅ♡』とため息をつく。
陛下はやはり笑顔禁止にした方が良さそうだ。
私はさっき覚えたばかりの手順を必死で思い出しながら、なんとか無事に挙式を終えた。
周りからは拍手で迎えられたが、この中の何人が心から納得しているのだろうか。
その後王宮へ戻り、バルコニーから国民へ挨拶をする。
「笑顔で手を振るだけで良い」
と陛下に言われた為、私は思いっ切りブンブンと手を左右に振った。
すると、バルコニーの下に集まった国民からは笑い声が起こる。あれ?何か間違えた?
そして、私の隣からは『プッ!』と吹き出す声が聞こえたかと思うと、陛下が大笑いし始めた。
「え?何か私、間違えました?!」
と言う私に、
「いや、間違ってはいない。元気な王妃ってのも良いんじゃないか?」
と笑う。………笑うの止めてよ。
その笑顔を見た数人の女性がフラフラと腰を抜かす様に倒れていった。………凄いな。
こうして私は数ヶ月前には想像もしていなかったがこの国の王妃となってしまった。
人生とは何が起こるかわからない。……どうしてこんなことになってしまったんだろう……。
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