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75話
しおりを挟む「お母様は僕の事が嫌いなんだ」
サラッと何でもない事の様に言うローランド殿下の様子に胸が痛くなる。
「………どうしてそう思われるのです?」
「僕が話しかけると、とても嫌そうな顔をするんだ。それに僕がお勉強の答えを間違えた時も。あ、熱を出した時もだ。全部、嫌な顔をするの」
何と言えば良いのか。「そんな事ない」なんて言葉が何の慰めにもならない事を知っている。
私は何も言葉が見つからなかった。
「ザックはまだお勉強しなくていいんだね。羨ましいなぁ」
今日も庭で散歩をしているとローランド殿下が現れた。
私の膝に抱かれているアイザックを見ながら、ローランド殿下はそう言った。
「いずれアイザックもお勉強が始まります。…、実は私もお勉強中なのですよ?」
と、私がウィンクすれば、ローランド殿下は目を丸くして、
「え?大人なのに勉強してるの?」
と首を傾げた。
「はい。子どもの頃にきちんとお勉強をして来なかったので、まだお勉強をしている最中なんです。殿下と同じですね」
「ほんとだね!同じだ!」
と殿下は嬉しそうな笑顔になった。
「ローランド殿下の言葉にいつも胸が痛くなります」
寝室で陛下にそう私が言うと、
「まだ来てるのか」
と陛下はため息をついた。二人で寝台に横たわる。
前は私を背中から抱きしめていた陛下だが、今はお互い向かい合って眠る。もちろん私は陛下の腕の中だ。
「もう来るな……とはどうしても言えなくて」
「最近アナベルが出かける事が多いからな」
「アナベル様はローランド殿下をどのように思っていらっしゃるのでしょう」
「さぁな。彼女の本心は誰にも分からないが……ローランドが『愛されていない』と感じている事が答えだろう。俺は……少しローランドの気持ちがわかる」
そう言った陛下は少し寂しそうな顔をした。
「前に母の話はしたな?だが、あの時には言えなかった事がある」
「言いたくなければ無理はしないで下さい」
私は寂しそうな陛下の頬を撫でた。
陛下は私のその手を握るとそっと口づける。
「母は……俺を愛していなかった。憎い男の子どもだ。俺を見る度に苦しそうな顔をしていた」
「でも……それは……」
「そう。俺のせいじゃない。だから母は辛そうだった。愛したいのに愛せない。母の葛藤が俺には分かった。だから俺は……母と距離を取った」
「お母様は……陛下を嫌いになれなかったのですね」
「そうかもしれないな。今ならそんな母でも許せるだろうが、子どもの俺には難しかったよ。愛して欲しい人から愛して貰えないのは、なかなか辛いものだ。ローランドも同じだろう。ローランドはお前に救いを求めてる」
「私にはローランド殿下を救う術はありません。でもあの小さな手を手放す事も出来ずにいます」
「分かってる。俺もローランドをどうにかしてやりたい」
そう言って陛下は私を抱きしめた。
「彼はとても良い子ですわ。やはり陛下の可愛い弟君ですね」
と陛下の胸に抱かれて言う私に、
「……そうだな」
と陛下は呟いた。
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