貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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76話

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「今日はロータス様は居ないのね」

私は見覚えのない護衛にそう言った。

「はい。副団長は陛下の代わりに南の砦へ。ちょっとした紛争が起こりまして」
と言う若い近衛は緊張している様で、無駄に力が入っていた。

私はいつもの様にアイザックを抱っこして、庭を歩く。マーサが私に日傘を差し掛けている。

もう少し行くといつも休憩しているガゼボに到着だ。そこにはダイアナが果実水を用意して待っていてくれている。

私達の姿が見えたのか、ダイアナが笑顔になった……かと思ったら、私の後ろを見て、

「キャーーーー!!!」
と驚愕した表情で叫んだかと思うと、

「逃げて!!!」
と怒鳴った。

その声に私がダイアナの視線の先である後ろを振り返ると、先程言葉を交わした若い護衛が剣を振り上げているのが見えた。

「マーサ!逃げて!!」
このまま、その剣が振り降ろされたら、私の後ろから日傘を差し掛けていたマーサが犠牲になってしまう。

マーサは咄嗟に日傘を後ろに向ける。
日傘は見事にその剣の餌食となった。

少し離れて付いてきていた、護衛が勢いよく走ってきたかと思えば、その若い護衛に斬りかかる。二人は激しく剣の打ち合いになった。その後ろから他の護衛も加勢に走って来た。

マーサは腰を抜かし、その場にへたり込んだのだが、走り寄ったダイアナに抱き起こされる。
ダイアナは同時に、

「妃陛下!早く安全な場所へ!!!!」
と叫ぶ。
私はアイザックを強く抱きしめて、宮の方へと駆け出した。
……が、前から黒尽くめの男達がワラワラと現れる。その手には鈍く光る剣が握られていた。

(殺られる!!!)
そう思った私は、反対側へ駆け出した。

男達は私を追ってくる。私と男達の間に護衛達が走って来て立ち塞がると、その男達に剣で応戦した。またもや激しい打ち合いだ。

だが、男達の方が人数が多い。数人が護衛をすり抜け私達を追ってくる。

私は靴を脱ぎ捨て、思いっ切り走った。


息が切れる。だけど女の私の足では直ぐに追いつかれそうだ。護衛がその男達を追いかけて来て、一人、二人とまた相手にしていく。しかし、私は止まれない。

足がもつれ(あ!コケる!!)と思ったその時、
私の目の前の大きな手が私を抱き止めた。

そしてその手は、剣を掴むと片手で私を追ってきた男を切り捨てた。


「遅くなった」
と言う陛下の顔は無表情だ。ただ、物凄く怖い。

陛下は私とアイザックを自分の背に隠すと、追い付いた二人の男を簡単に切り捨てる。その剣先は血で濡れていた。

私はアイザックにその光景を見せたくなくて、アイザックの顔を私の胸に押し付けた。
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