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89話
しおりを挟む「……前国王の子ではない……という事は王族としては認められないという事だ。今のところドーソン公爵家に……と考えているが、公爵にも処分が下る。ドーソン公爵家の降格も間違いない。打診はするが、ローランドにとって幸せかどうかはわからん」
陛下はとても辛そうな顔をした。陛下がローランド様を憎からず思っていたのは、私も理解している。
だからと言って、ローランド様をこのまま王族として置いておく事が無理な事ぐらい、百も承知だ。私はまたあの可愛らしい笑顔のローランド様を思っていた。
「……差し出がましい申し出である事は重々承知ですが……」
陛下の言葉を聞いたラッセルはおずおずと口を開いて、
「ローランド様を……私がお預かりする事は出来ませんでしょうか」
と言った。
「お前が?」
「はい。……王族として育ったローランド様が私なんかの子どもとして暮らすのは、困難かもしれません。しかし!この件で一番傷つくのはローランド様。彼は……私の子どもでもあります。裕福な暮らしをさせてあげる事は出来ませんが、愛情なら与える事が出来ます」
ラッセルの言葉を陛下は黙って聞いていた。
そして静かに陛下は、
「血が繋がっている事が親子の全てではない。お前は最近まで記憶を無くし、ラッセルとして生きてきた。そんなお前がローランドを愛せるのか?それに奥方はそれについて何と言ってる?」
と尋ねた。
「確かにローランド様にとっても、急に私が『父親だ』と言った所で、戸惑わせてしまう事でしょう。妻にとっては他人の子です。でも……これは妻から提案された事なのです」
ラッセルはその時の事を思い出すように話し始めた。
「陛下の使いの方が現れて……私を捜している事を知りました。少し前に記憶を取り戻した私は、てっきり処分されるのだと。
しかし、私に証言をして欲しいと言うお話を受けて……初めて妻に自分の正体を話したんです。
それまでは妻にも記憶を取り戻した事を内緒にしていましたから。妻は私が記憶を取り戻した事をとても喜んでくれました。そして言ったのです『もし貴族の生活に戻る事を希望するなら、そうすれば良い』と。もちろん私はこれからもラッセルとして生きていくつもりだと告げました。
妻と離れる気なんてさらさらありませんでしたし。何故そんな事を言うのかと妻に尋ねました。私と別れる事になっても平気なのか!と。私は妻に捨てられるのかと、少しショックを受けていたのだと思います。
しかし、妻は『このままではローランド様が可哀想だ』と『あなたが貴族に戻ればローランド様を引き取れるのではないか?』と。私はその時、初めてローランド様の事を考えました。お恥ずかしながら、父親としての自覚は全くありませんでした。
妻は一番にローランド様の幸せを考えて欲しいとそう言いました。もし……万が一許されるなら、ローランド様を引き取りたい。そう考え始めたのはその時からです。妻も陛下が許可して下さるなら……と」
ラッセルの言い分を全て聞いた陛下は、
「なるほど。お前の言いたい事は良くわかった。この話は一度持ち帰る。ローランドの気持ちも聞いてみたいと思う」
とラッセルに言うと、
「もう村へ戻って良い。ローランドの事は追って知らせる」
と陛下はそう言った。
ーその夜ー
「驚きました。まさかローランド様が陛下の子どもでないなんて」
私はいつもの様に陛下の隣でそう口にした。
寝台の上では何となく話しやすい。いつの間にか二人でその日の出来事を話す場になっている。
「おかしいと思う貴族は多かったんだ。だが、ドーソン公爵が強すぎてな、そんな意見はいつの間にか握りつぶされていた」
「確かに、タイミング的に疑われても仕方ありませんね」
「病気が原因で父が不妊になった事を知ったアナベルは、思い切って他の種を使う事に舵を切ったのだろう」
「……まさか、担当医も……」
「こちらは証拠が全くなくてな。だが、あの時の医師は強盗に襲われ死亡している。不自然だよなぁ」
……全てを言わずとも、それがドーソン公爵の差し金である事は容易に想像できた。
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