貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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92話

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ローランドがラッセルの元へと旅立つ予定の二日前

「ラッセルと奥方がローランドを迎えに来た」
と、陛下がアイザックと遊ぶローランドの元へとやって来た。

私とダイアナは顔を見合わせると、二人してローランドを見た。


ローランドは目を丸くして陛下を見ると、

「僕、もうお父様の所に行くの?」
と言った。
その表情は嬉しそうでもあり、寂しそうでもある。

「ローランドの気持ちの準備が出来ていないのならまだ待つと言っていたよ。どうする?」
という陛下の言葉に、ローランドは少し考えた後、

「僕、お父様に会ってみたいな」
と答えた。




「はじめまして!私の名前はスーザンよ」
ラッセルより先にそうやって挨拶したのは、彼の妻、スーザンだった。

彼女はローランドに目線を合わせる様にしゃがみ込む。その笑顔は心からの笑顔に見える。

「は、はじめまして。僕はローランドといいます」
少し照れながら挨拶するローランドを見て、

「ねぇ、見てラッセル!あなたにそっくりね!」
と彼女は嬉しそうに、後ろに佇むラッセルに明るくそう言った。

ラッセルはその勢いに押される様に、

「あ、あぁ。本当だ。……似てる」
と答えている。初めて見る我が子に少し戸惑っている様だ。

ローランドはスーザンの後ろに立つラッセルに、

「貴方が……僕のお父様?」
と尋ねる。
すると、ラッセルはスーザンと同じ様にしゃがみ込むと突然、ガバっとローランドを抱き締めた。

「お、お父様?」
と戸惑うローランドに、

「一緒に暮らすって……決心してくれてありがとう」
と言いながらラッセルは肩を震わせた。
その様子を隣で見ていたスーザンは夫の肩にそっと手を置いた。


ローランドは躊躇いながらもラッセルの背中に手を伸ばした。スーザンはそれを見てフッと微笑むと、抱き合うラッセルとローランドごと抱き締める。

「……大丈夫そうだな」
その様子を黙って見守っていた陛下はそう言った。

「ええ。……安心しました」
私もそう答えた。三人は一つの塊の様に抱き合っている。

もう私も陛下も、割り込む隙は無さそうだ。私はその様子に心から安堵した。


ダイアナがローランドの荷物を持ってやって来た。
王家の馬車では目立ち過ぎる。
陛下は普通の馬車を用意し、三人にそれに乗って帰るよう指示をした。

三人が馬車に乗り込むのを私も陛下も見守る。

乗り込む前にローランドは後ろに振り返って、

「お兄様!クレア様!ありがとう!」
と手を振った。私達も揃って手を振る。

ラッセルとスーザンは私達に深々と頭を下げた。
手を繋いで馬車に乗る三人の様子は既に家族の様だ。

馬車が出発する。私と陛下は馬車が見えなくなるまで黙って見送った。

「ローランドは大丈夫だ」
そう確かめる様に陛下は言って、私の腰を抱く。私は、

「はい。きっと幸せになってくれると思います」
と陛下の胸にコテンと頭を預けた。
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